0090 - 第 2 巻 - 第 2 章 - 07
3日目の朝、小渓流に沿って進む準備のため、狩りできる者たちはチームを組んで近くで適した獲物を探し、他の者たちも近くで果物を摘んだり拠点を整理したりする仕事をしていた。
千里たちの団体は相変わらず5人で狩りを行う。今回は千里と健一の2人チーム、進、宏人、駿の3人チームとなった。
高木たちの団体は3人で狩りを行う。高木、山田、手に火傷の痕がある男が一緒に行動し、残り3人は拠点で待機した。
カッ、カッ。
光多は用を足して戻ると、またタバコに火をつけた。
だらしない格好の男:「おー、もう吸い始めたか」
光多:「これからどれだけ歩くか考えたら煩わしくてさ、吸わなきゃやってられねえよ」
だらしない格好の男:「それなー。オレも一本付き合うわ。おっさん、火貸してくれ」
カッ、カッ、カッ。だらしない格好の男もタバコに火をつけ、二人は昨夜と同じように話しながら煙を吐く。
すると、昨日の午後に千里と駿に連れられて来た30代の母親が眉をひそめながら彼らの元へやって来た。
30代の母親:「あの、タバコはやめてもらえませんか? それか皆のところまで煙が届かないところで吸ってください」
だらしない格好の男:「ハ? 何様のつもりだてめえ? オレがタバコ吸うのにてめえの許可が必要かよ?」
光多:「お母さん、タバコは俺たちの自由だろ?」
30代の母親:「タバコを吸うことは確かにあなた方の自由です。ですがタバコを吸わない人の気持ちも考えてくれませんか? ここにはタバコの臭いが嫌いな人はたくさんいますし、副流煙の害も大きいんですよ」
だらしない格好の男:「しっしっ、あっち行け。んなこと知るかよババア」
そんな失礼な対応をされ、30代の母親は少し怒り、口調が強くなる。
30代の母親:「娘の鼻粘膜が弱くて、タバコの臭いを嗅ぐととても辛くなるんです。娘だけじゃありません、ここには10代の子供もたくさんいます。大人として子供たちを少しは思いやりませんか?」
光多は少し離れたところで鼻を押さえながら彼らを見つめる小さな女の子を一瞥し、同じく無関心な態度を見せた。
光多:「だったらあんたらが遠くに行きゃいいじゃねえか。俺はここでお前より多くの仕事をしてる。何もしてねえくせに他人に何か要求するってのは、ちょっと横暴じゃあねえか?」
だらしない格好の男:「いいこと言うぜ、おっさん」
30代の母親:「あなたたち……」
斗哉:「じゃあ、お前より多くの仕事をしてる奴が同じこと言うってのはどうだ?」
斗哉が歩み寄り会話に加わった。
斗哉:「オレのカノジョもタバコ嫌いだ。言ってくるまで知らなかったわ。あいつも2日間我慢してた。タバコ、消してくれよ」
楓も近くで鼻を押さえながら彼らを見ている。
だらしない格好の男:「あん? てめえ何様のつもりだ?」
斗哉:「それしか言えねえのか?」
だらしない格好の男:「アあん?!」
光多はトラブルを望んでいないようだった。それに昨日も斗哉が獲ってきた獲物を食べているため、あの母親に対するように斗哉には接せない。状況が緊迫してくる中、彼は態度を軟化させた。
光多:「おおおわかったわかった、別のところで吸うよ。悪かったな」
だらしない格好の男:「おっさん、なんでそんなへたれんだよ! コイツら恐れることねえだろ!」
光多:「ったく、余計なトラブルはごめんだよ。お前もここで吸うな」
だらしい格好の男:「ハッ! オレがコイツらの言うこと聞くかよ! もうすぐ誰が……おっと……危ねえ危ねえ。いいだろう、今は喧嘩売らんでやるよ」
斗哉:「は?」
だらしない格好の男は話の途中で突然態度を変え、他の者を困惑させた。そして彼と光多は別の場所で喫煙を続けようと踵を返す。
その時、数十メートルもある巨木の枝の陰から影が素早く飛び出し、幹を伝って高速で降りてきた。巨大な根元のそばにいる数人の脇を通り抜け、光多めがけて一直線に突進する。
光多:「わっ! わあああああッ!? ギャアアアアああああああああああああああ!!!!」
それは大きくて細身の、リスに似た動物だった。鋭い歯で光多の喉を嚙み裂いている。光多とだらしない格好の男は手に持っていたライターとタバコを放り出した。
だらしない格好の男:「うわっ! なんだよコリャ!?」
斗哉はバットを構えて光多を助けようとするが、手の付けようがなかった。
斗哉:「クソッ! 楓! 下がれ!」
楓:「わ…わかったわ!」
女性の声:「きゃあああああ!!」
男性の声:「なんだ? あれは何だ?」
皆は驚いて散り散りになった。
光多は必死でそのリスを取り除こうとするが、引っ張れば引っ張るほど首の肉が裂けていく。だから彼は拳でリスを殴ることしかできなかった。
光多:「ぐっ! うっ! ぐああああ!! ぐおおおおおお!!!!」
リスは大きなダメージを受けたが、それでも止まらない。一口また一口、一箇所また一箇所と、光多の胸元に張り付き嚙み続ける。
光多の喉は嚙み破られ、血と肉がぐちゃぐちゃになった。喉と頸動脈から絶え間なく血が涌き出し、全身が徐々に血の気を失い力もなくなっていく。鉄臭い生温かい匂いが周囲にたちこめ、誰もが目を背けたくなる凄惨な光景が広がった。
しばらくもしないうちに、光多は血の海に倒れた。
そのリスは口を離した。荒い息を吐き、体は血で真っ赤に染まっている。
リスは誰かを探すように周囲を見回すと、だらしない格好の男へ一直線に向かった。
だらしない格好の男:「うわっ!!」
さっきまでの時間で、だらしない格好の男は地面から適当な枝を拾い武器にしていた。リスが自分に向かって突進してくるのを見て、再び全力で逃げ出す。
光多の攻撃で傷付いていたため、明らかにさっきより動きは遅くなっていたが、リスは執拗に追いかけてくる。
だらしない格好の男:「なんだよ!? なんでオレを追いかけるんだ!! うわあッ!?」
焦って逃げたため、だらしない格好の男はつまずいて転んだ。
だらしない格好の男:「やべぇやべぇヤベェ――!!!!」
リスがすぐにも追いつきそうになり、彼は「ちくしょーがッ!!」と罵声を上げ、武器を握りしめ立ち上がると、リスと正面勝負することを決意した。
リスが彼の首へ飛びかかってきた。
彼は猛然と枝を振りぬき、リスに命中させた。
リス:「キィーッ!!」
リスは悲鳴を上げ地面に打ち付けられた。だらしない格好の男はすぐさま追撃し、何度も何度も強く叩きつける。リスが微かに痙攣するだけになるまで。
だらしない格好の男:「クソが! ハあ……ハあ……はあ……くそッ! くそッ! くそッ!!」
彼は荒い息で罵りつつ、リスの頭部を数回強く踏みつけた。リスの頭は踏み潰され、脳ミソが押し出され、土や枯葉に、そして彼の靴底にべっとりと付着する。
だらしない格好の男:「クソッ……はあ……はあ…………ペッ!」
リスの死骸に唾を吐きかけ、彼はさっきの場所へ戻ると、微動だにしない光多に話しかけた。
だらしない格好の男:「お…おい、おっさん、まだ息あるか?」
光多には何の反応もない。既に死んでいた。
リスが倒されたのを見て、周囲に避難していた他の者たちも巨木の上を警戒しながら慎重にさっきの場所へ集まり始めた。
斗哉:「……死んだのか?」
慧子:「……頸動脈を咬み切られてる。仮に生きているとしてももう助からないよ……」
紗奈:「そんな…………」
光多の瞳孔は開き、皮膚は青白くなり、首からズボンまで血液でびっしょり濡れていた。その血液は酸化し始めゆっくりと黒ずんだ赤に変わりつつあり、傷口からはまだ新鮮な血液が滴り落ちている。
女性たちは口を押さえて恐怖の表情でこの光景を見つめる者、振り返り再び近くの隠れ場所に逃げ込み見るのを拒む者、恐怖ですすり泣く者もいた。
斗哉:「全員、なんかで首を守れ! 春日原、進たちを呼び戻して来い」
紗奈:「う…うん!」
敏之:「こ…ここから逃げないのか?」
斗哉:「もう2日も歩き回った。なのにこのクソみたいな森林から出られねえ。どこ行ってもこんな木ばっかだ、どこに逃げるって言うんだ?」
敏之:「うぐっ……」
斗哉:「あと誰か……真部! 真部はどこだ?」
真部:「……こ…ここに……」
斗哉:「おまえは千里たちを呼び戻して来い。あっちだ」
真部:「お…おう!」
紗奈と真部は斗哉の指示に従い、先后に狩猟チームを呼び戻しに行った。
斗哉:「おまえもお仲間さん呼び戻して来な」
だらしない格好の男:「もう行ってる」
斗哉:「……」
楓は一言も発さず、水たまりへ行くと両手で水を掬い、光多とだらしない格好の男が慌てて放り出したタバコに掛けて消した。
拠点内が整理されていたおかげで枯葉はあまりなく、森林火災にはならずに済んだ。
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