0089 - 第 2 巻 - 第 2 章 - 06
しかし、狩猟チームは摂取したエネルギーでは消費した体力をカバーできておらず、鹿肉を口にする前に数時間に及ぶ狩猟活動を再開するのは難しい。そのため、彼らは狭い範囲で狩りを行い、一定時間後に戻ることにした。
異なる組み合わせ同士の連携を培うため、今回の狩猟チームは千里と宏人のチーム、進、健一、駿の3人チームに分けられた。
約2.5時間後、狩猟チームの5人が拠点に戻ってきた。千里と宏人は2羽の野鶏を捕まえ、1羽は普通のサイズでもう1羽はかなり肥えている。進と健一と駿は空振りに終わった。
宏人:「なぜ俺はいつも鶏を捕まえてるんだ……?」
千里:「はは」
進:「悪い、穫れる獲物に遭遇しなかった。ウサギとでっかいリスは見かけたけど、ウサギは近づく前に逃げ出して追いつけなかった。リスも素早くて、あっという間に木に登ってしまって見失った。健一が木に向かって石を投げてもどうしようもなくて……」
駿:「そうなんだよ」
健一:「すいません、役に立てなくて……」
千里:「全部運の問題だよ。狩りってそんなもんかもな。どんな獲物に遭遇できるかは俺たちではコントロールできない」
進:「うん……」
紗奈:「まあまあ、ベリーでも食べて。あなたたちが狩りに行ってる間、私たちもベリーや果物を少し見つけたから。少しはエネルギー補給になるよ」
千里:「ああ、ありがとう」
紗奈:「お互い様だよ!」
駿:「あー……疲れたー、腹減ったー……」
慧子:「もう焼けるわよ。光多さん手伝って」
光多:「あいよ」
千里は一通り周囲を見渡し、微笑を浮かべる。
千里:「……上手く回ってるみたいだな」
楓:「……ええ、そうね」
38人もの人々が湧き水の前の区域でそれぞれの活動をしていた。技術のある者は技術を活かし、体力のある者は体力を使い、ほとんどの人ができることに取り組み、団体のために自分なりの力を捧げている。団体はゆっくりと活気を取り戻しつつあった。
──「マジで水あるじゃんっ!!」
聞き慣れない男の声が響くと、すぐに巨木の根元から1人の男青年が飛び出してきた。
彼は湧き水の下の小さな水たまりへ一直線に向かい、拠点の多くの者を驚かせた。水たまりに駆け寄るとすぐにひざまずき、両手で水を掬いながらがぶがぶ飲み始める。顔全体を水に埋め尽くさんばかりの勢いで。
手に火傷の痕がある男だった。
続いて7人が彼が出てきた方向から続々とやって来る。高木の団体だ。山田と黒水がそれぞれ蔓で縛り上げたウサギと野鶏を提げている。
高木:「悪いね、あいつ、ちょっと落ち着きがなくて。水飲ませてもらえるか?」
進:「どうぞ」
高木:「サンキュー」
許可を得ると、高木以外の6人も我先にと水たまりへ走り寄り、水を飲み始めた。高木は拠点の環境と全員をひと睨みに観察する。
手に火傷の痕がある男:「ぷは──っ! 飲んだ飲んだ!」
山田:「2日も水飲んでないからか、この水めっちゃ甘く感じるわ」
だらしない格好の男:「……生き返ったぜぇ……」
その7人が水を飲み終わった後、高木も水を飲みに行った。相変わらずマスクを鼻のところまでずらしただけで、外していない。その後、7人は慧子と光多が肉を焼いていること、そして近くの木の根元に鹿の残骸があることに気づいた。
手に火傷の痕がある男:「おおお! なんの肉だ? 鹿か?」
元永と都守の二人は渴望の表情で焼肉を見つめ、無意識にお腹を押さえていた。
慧子:「まだ焼きあがってないよ、待ってて」
その言葉を聞き、高木以外の7人は程度の差こそあれ驚いた表情を浮かべた。
手に火傷の痕がある男:「くれんの??」
慧子:「くれるでしょ。ね、千里」
千里:「ああ、くれるよ」
手に火傷の痕がある男:「タダで?」
千里:「タダで」
手に火傷の痕がある男:「ヤベー!」
だらしない格好の男:「マジかよっ!」
元永:「……あの、本当ですか? 本当に、何もしなくても食べさせてもらえるんですか?」
千里:「えっと、原則的にはそうです。でも、みんなにできる範囲のことはしてほしいと思ってます。拠点の整理とか、近くの探索とかね。狩りは狩猟チームに任せれば大丈夫です」
都守:「…………それだけでいいの?」
千里:「ん?」
千里の様子を見て、元永と都守ははっきりと言おうとしたが、高木を一瞥すると口を閉ざす。そして彼女たちは他の女性たちを見て、ここの状況は自分たちとは違うと感じ取った。
都守:「……いえ、なんでもない。ありがとう。彼女と私、こちらに加わってもいい?」
千里:「もちろん」
即答した後、千里は「どうしてそんな言い方するんだ? この8人は一緒じゃないのか?」と考えた。
都守:「よかった! ありがとう!」
元永:「……ありがとうございます……ありがとうございます……」
都守:「よかったね、元永さん」
元永は安堵の涙を流し、彼女を慰める都守も目を潤ませた。
手に火傷の痕がある男:「……チッ」
高木:「……おまえがここの取りまとめ役か?」
千里:「リーダーとか決めてないんだ。ただみんなが狩猟チームの提案を聞いてくれることが多いだけ」
高木:「ふーん。それじゃあ情報交換しようぜ」
千里:「いいよ」
双方は現在の状況と狩猟などについて情報を交換した。
高木:「川か池か、そりゃあいいニュースだな。加わるかどうかはあとで決めるとして、明日一緒について行かせてくれるか?」
千里:「もちろん」
高木:「サンキューな。そろそろ日も暮れるし、今夜もここで休ませてくれ。それと、お礼と鹿肉との交換として、あのウサギと鳥はみんなで分けるとしよう。後で俺らの者が解体する」
千里:「ああ、ありがとう」
高木:「明日の狩りは一緒じゃないぞ、俺らだけでやった方が気楽だからな」
千里:「えっと……わかった」
高木:「じゃ、俺らは話があるからちょっと外すわ。山田、黒水、ブツを置け。それと、あの二人の女以外はついて来い」
山田と黒水はすぐに従い、彼らは拠点の外へと向かう。手に火傷の痕がある男、ルナ、だらしない格好の男の3人はためらったが、結局ついていった。
斗哉:「…………あの連中、気に入らねえな」
駿:「奇遇だな、俺もだ。こういう時はみんなで協力し合うもんじゃないのか? あいつら、獲物を分け合う気はなさそうだな」
千里:「まあ……他人に自分のものを提供するように要求はできないよ。この未知だらけのところじゃ尚更だ」
斗哉:「それだけじゃねえよ。こっちはただでさえ何人か浮いてる奴はいる。あっちの男どもは全員チンピラっぽい雰囲気してやがる。むしろ加わらないでほしいくらいだ」
千里:「うーん……」
一方、話し声が聞こえにくい場所に来ると、高木は足を止めた。
手に火傷の痕がある男:「……用件はなんすか、高木の兄貴」
ルナ:「ねえ、“異世界”ってなに? ここ地球じゃないの?」
手に火傷の痕がある男:「てかオレ、アイツらんとこ入りたいんすわ。狩り行かなくてもガキ共が肉分けてくれそうだし」
高木:「フっ。一日でちっぽけの肉だけで満足するなら止めはしねえよ」
手に火傷の痕がある男:「げっ……たしかに、人多すぎて一人当たりの肉少なそう……」
高木:「おまえら、やりたい放題になりてえか?」
手に火傷の痕がある男:「やりたい放題?」
黒水:「……兄貴、それは?」
木々の隙間から差し込む夕日が彼らの影を長く伸ばし、不穏な雰囲気を醸し出す。
高木:「ふふふ……──」
高木は自身の計画を話した。
他の者たちは彼の表情は見えなかったが、彼の野球帽とマスクの間からは悪意をたたえた目が見えた。
山田:「…………………………」
黒水:「ほほ……」
手に火傷の痕がある男:「サイコーじゃん! オレも入れろよ兄貴!」
だらしない格好の男:「いいぜ! マジでいいぜ! こうでなくっちゃな!」
ルナ:「……ちょっとひどくない?」
高木:「ルナよ、おまえが要だ、優遇してやる」
ルナ:「うーん………………いいわ、約束守ってね」
高木:「ふふ、もちろんさ。反対者なしってことで始めるとするか」
手に火傷の痕がある男:「楽しみだぜ!」
だらしない格好の男:「だな!」
手に火傷の痕がある男とだらしない格好の男は顔を見合わせ、二人とも下品でやる気に満ちた表情を浮かべた。
その後、彼らは拠点に戻った。黒水は慧子が獲物を処理している場所へ行き、持ってきたウサギと野鶏の解体を始める。他の者たちは全員が見渡せる場所に座って休み、何かを探るような視線をあちこちに向けていた。
再び夜が訪れ、拠点には2つの焚き火が増えていた。
全員が美味しくはないが量は十分な肉を分けられた。飢餓状態から脱したことで口数が増えた者、集めてきた葉っぱで自分や老人のための簡易な寝床を作った者、喫煙者の仲間を見つけてタバコをふかしながら談笑する者、今後のことを話し合う者……それぞれの時間を過ごしている。
その間、集団全体の人数が46人にもなったため、拠点は非常に賑やかになり、先后に3人が濃厚な人の気配を辿って拠点を見つけ、集団に加わった。
最初に到着したのは同級生の男女高校生2人で、その後からは20代の女性青年。彼らも水と食物を得た。残念なのは彼らも特に価値のある情報や物品は持っていない。
読んでくれてありがとうございます。
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