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0088 - 第 2 巻 - 第 2 章 - 05


 千里と約束していた時間は12:00。日出時間を基準に調整された時刻で、ここが異世界だと信じている一部の者だけが携帯の時計を調整していた。


 12:00を過ぎ、進と紗奈、楓は時折朝狩りに出かけた方向を見やったが、まだ千里と駿の姿は見えなかった。


 現在12:47。野鶏も焼き上がりかけている。皆は心配し始め、斗哉も無意識にその方向を見たが、相変わらず彼らの姿は見えない。


 紗奈:「……千里たち、遅いね」


 斗哉:「なんかあったんじゃないだろうな? それとも獲物が獲れなくて帰りにくいとか?」


 進:「千里に対してなんかの勝負欲でも持ってるのか」


 楓:「典型的な<バカが優秀な人に対抗心を燃やす>パターンね」


 斗哉:「はあ?」


 さらに数分待つと、その方向から数人の人影が近づいてきた。


 紗奈:「あ! 誰か来たみたい!」


 先頭で子鹿1頭を担いでいるのは、まさしく千里だった。


 進:「戻ってきた!」


 斗哉:「……ってか、また人数増えてねえか」


 駿は満面の笑みを浮かべて手を振っている。拠点に後から来た11人は千里と駿を見たことがないため、ほとんど反応がなく、ただそのうち数人が「あれ? あの人たち誰?」と小声で互いに尋ね合っただけ。


 慧子:「本当に鹿獲ってくるとはね……それにまた大勢連れてきちゃって」


 千里:「はは」


 進:「とりあえずみんな休憩しよう」


 千里と駿が連れて帰ってきたのは6人。女子小学生1名、女子高校生1名、30代女性1名、60代女性1名、40代男性1名、50代男性1名である。30代女性と女子小学生は母女で、それ以外は互いに面識がない。


 千里:「熊村さん、肉の方は焼けましたか?」


 慧子:「もうすぐだ。今焼いてるのは野鶏で、こっちは君たちの分のウサギ肉2串だ」


 千里:「野鶏か……うん、ありがとうございます」


 千里は自身の焼きウサギの串を受け取ると、すぐにあの母女に手渡した。彼女たちは6人の中で最も空腹がひどかった。


 広東料理店の息子として、この条件で鶏を美味く処理できないことをよく知っている。だからこそ、比較的食べやすい焼きウサギを彼女たちに譲り、自分は後で野鶏を食べるつもりだった。


 千里:「先に食べてください。水も自由に飲んでいいですから」


 30代女性:「ありがとうございます……未羽もお兄さんにお礼言って」


 女子小学生未羽:「……ありがとう、お兄ちゃん」


 千里は微笑みで応えた。


 千里の行動を見て、駿も自身の焼肉の串を60代の老婦人に手渡した。


 老婦人:「すまないね、若いの。ありがとう……」


 駿:「いやいや、とんでもない」


 千里:「熊村さん、この鹿もお願いできますか?」


 慧子:「ああ」


 千里:「それと、これはカッターです。肉の処理にはまだ物足りないですが、石刀よりはマシだと思います。使い分けてください」


 慧子:「おお! どこで手に入れたんだ?」


 千里:「あの女子高生が持ってたものです。使わせてもらえることになりました」


 慧子:「そりゃ助かる」


 慧子はしっかりした作りのカッターを受け取り、刃を出して地面に倒され蔓で四肢を縛られた子鹿へと歩み出した。すると彼女は何かを思い出し、皆の方に向き直って聞く。


 慧子:「……鹿肉を食べない人とか、と畜前に儀式を希望する人とかいる?」


 千里:「あ、そうだった。鹿は日本人にとって特別なものだったっけ」


 特に反応する者はいない。


 慧子:「問題ないようだな。おい、無礼な小僧、そのバットで小鹿にとどめを刺してくれ。頭だ」


 斗哉:「……必須の工程か、それ。ちょっと惨いな」


 慧子:「必須だ。鹿は瞬間的に気絶させないとストレスで肉が酸っぱくなる。それに血抜きの時に暴れられるのも手間だからね。普通は機械で気絶させるが、こんな状況じゃ原始的な方法しかないのよ。あっ、狩りで獲ったんだから、もうストレスはかかってるかも?」


 斗哉:「……わかった」


 健一:「あああああ……俺の新品のバットが……初めての打球が子鹿の頭叩きなんて……」


 慧子:「ちょうどいいじゃないか」


 子鹿を立たせ、タオルで目を覆い、斗哉の強烈な一撃が決まると、子鹿は棒立ちになりそのまま倒れた。タオルに赤い染みが広がる。


 慧子が鹿の処理を始め、野鶏の肉も焼き上がった。千里、駿、そして新たに来た6人は焼肉を食べながら休息し、他の者もそれぞれの時間を過ごしている。


 駿:「聞いてくれよ! 千里まるで超人だぜ! 孫悟空? 趙雲? 中国の神話や歴史には詳しくないけど、とにかくそんな感じで、マジでヤバかった!」


 千里:「大げさだよ」


 駿:「少なくとも中国カンフー映画の主人公級だぜ。地面の足跡に気づいて、人がどっちに行ったか正確に判断したり、追いついたらその人たちがなんも食べれてないの見て、どっからあのなんだっけ……ベリー。を採ってきたりで。そのあと子鹿見つけた時の身のこなしと棍術ってさあ! すげえカッコよかった! あと単独で探索に行った時の行動力とスピードも。俺のほうが年上だが、ファンになりそうだ!」


 千里:「まあ……」


 紗奈:「へえ~すごそうだね!」


 駿:「実際すごいんだよ! おまえらまだ見たことないのか?」


 進:「まだだ。オレも見たい」


 紗奈:「私も!」


 斗哉:「…………」


 千里:「み…見せるようなもんじゃないから。もうわっしょいはそれくらいにしてくれ、真面目な話をする。他の小渓流と渓流の合流点を見つけた。水量は少なくないので、それに沿って進めば池や川、または地下湖みたいな水場を見つけられるはずだ」


 楓:「……集水過程だね」


 千里:「ああ。学んだことが活用できた」


 斗哉:「……なんの話だ?」


 楓:「……あなたも習ったはずよ」


 斗哉:「うぐ……そ…そうだっけ……」


 楓:「……はあ」


 進:「見つかれば魚もいるかもね」


 千里:「魚や他の獲物がいるだけじゃない。非常に重要な点として、川に沿って進めば人類の活動痕跡を辿れる。運がよかったら、この世界の人間に遭遇できるかもしれん。川の中流・下流は資源が豊富で、町は川沿いに発展するのが自然の摂理と言える。人類の文明の多くは川の中流・下流域で発祥したからね」


 紗奈:「へえ~~やっぱり千里ってすごいんだね!」


 進:「そうだね、千里がいて本当によかった。心強い」


 楓:「ええ、誰かさんよりずっと頼りになるわ」


 斗哉:「………………」


 千里:「やーめろやめろ、そんなに褒めないでくれよ。君たちの言うほど俺はすごくない。間違えた時には痛いほど恥ずかしくなってしまう」


 進:「ははは!」


 紗奈:「ふふっ!」


 斗哉:「で、その水際に沿って行くってのか?」


 千里:「そう考えてる。みんなはどう思う?」


 斗哉:「いつだ?」


 千里は「うーん……」と唸り、小鹿を処理している慧子を見て少し考えた。


 千里:「今はもう13時半だ。小鹿を処理して焼けるまでに4時間はかかるだろう。それに熊村さんも休息が必要だ。団体には高齢者や子供もいる。彼らの足は速くない。今日中は無理だ。明日の早朝に出発しよう。この後、明日の移動に備えて他の方向で何か獲物いないか探そう」


 斗哉:「……いいだろう」


 進:「ああ!」


 駿:「おう!」


 その時、宏人、彩乃、健一が近づいてきた。


 宏人:「確かに頼もしいな。どうも、千里。狩りの前に一言伝えることがある」


 三人が簡単に自己紹介した後、千里と駿がいない間に起きたことを二人に伝えた。


 千里:「……なるほど。斗哉の対応は正しかったと思う。これからもそうしてくれ」


 駿:「あいつらを追い出しちゃダメなのか?」


 斗哉:「きっかけがありゃオレもそうしたいぜ」


 千里:「うーん……ヤバイことしでかさないでくれるといいが」


 彩乃:「リーダーは進くんと斗哉くんだと思ってたけど、千里だったんだね。よろしくね」


 千里:「よろしく。リーダーとか決めてないよ。みんなが俺の提案に賛同してくれることが多いだけ」


 彩乃:「つまり事実上のリーダーじゃん」


 千里:「んんー………………確かに率先する人物がいた方が団体の協調はしやすいかもしれないな。だが、誰がなるかはもう少し検討する必要があると思う。ひとまず考えさせてくれ」


 彩乃:「謙虚というか、理性的というか……普通の若い男の子ならこういう時って張り切ってリーダーになったりしない? 女の子の前でよく見せようとか思って」


 千里:「後者だな。俺がなるのが適切だと思ったら遠慮はしない」


 彩乃:「へえ~そうなの」


 その後、彼らは方針を全員に伝え、異議を唱える者はいなかった。


 そして彼らは雑談しながら休息し、体力を幾分か回復させた。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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