0087 - 第 2 巻 - 第 2 章 - 04
最初の焼肉を分配されたのは16人で、それぞれ100グラムと少しの焼きウサギの串を受け取った。中サイズの卵2個分に相当する量である。満腹にはならないが、この状況下では十分な量と言えた。
後から来た11人が焼肉の串を受け取り、散らばろうとした時、斗哉が彼らを呼び止めた。
斗哉:「ちょっと待てくれ、話がある。もう一度聞くが、お前たち、ナイフみたいなもんは持ってないんだな?」
拠点に戻る途中で進も一度尋ねていた。今回も彼らはないと答える。
斗哉:「……そうか。じゃあ、狩りできる奴はいるか?」
宏人:「経験はないが、君たちにできるなら、俺もできるはずだ」
斗哉:「そいつはいい。他には?」
ピアスをした男青年は「ちっ」と舌打ちして去っていった。他の者たちは顔を見合わせるか、手の中の焼肉の串を見つめるばかりで、応えようとしない。斜め前髪の長い男だけが、ほとんど聞こえない声で「なんでオレがんな面倒なことすんだよ……」と呟いた。
斗哉:「…………マジかよ、男がこんなにいるのに1人だけか?」
彩乃:「うーん……私はテコンドーやってるけど、狩りには役立たないよね。それにちょっと怖いし……」
斗哉:「テコンドーか。段位はあるのか?」
彩乃:「青帯」
斗哉:「青帯ってどのくらいの水準だ? ケンカすんのに強いか?」
彩乃:「えっと……まあまあ? 護身には十分かな」
斗哉:「へえ、それならいい。元々女に狩りを期待してないから、ここに残って警備をしてくれ」
彩乃:「うん、いいよ!」
颯真:「…………」
斗哉:「他にいるか? デブと中学生はともかく、そのボウズ、お前野球部だろ? 毎日バット振ってるくせに自信ないのか?」
健一:「あの……打つより投げる方が好きだし、動物に突進されるの怖いから……」
斗哉:「だったら後ろから石投げろよ。獲物に当たんなくても前衛の助けになる」
健一:「そうなのか?」
進:「うん、そうだよ。ウサギを狩る時みたいに、1人多いだけで、しかも石を投げる専門がいるならすごく助かる」
健一:「そ…そうなんだ。じゃあ、俺もできそうかも」
進:「なら頼むよ」
健一:「お…おう!」
斗哉:「いいぞ。他にいるか? もっと大胆になっていいんだ。思ってるより難しくないぞ」
颯真:「……………………」
颯真は言いたげな様子だったが、結局声を出さなかった。
斗哉:「じゃあさっきの3人、ついて来てくれ。他の奴らはもう用はない」
そう言うと、斗哉たちは傍らの巨大な根元へ移動した。
斗哉:「食いながら話すぞ。オレは大久保斗哉、こいつは天宮城進だ。お前らの名前は?」
宏人:「南宏人だ」
彩乃:「常石彩乃」
健一:「平山健一」
斗哉:「南と平山、お前ら二人は後で進と一緒に狩りに行け。俺はここに残る」
進:「斗哉、またそんな失礼な……って、なんでお前行かないんだ?」
宏人:「俺は別にいいよ、どう呼ばれても」
彩乃:「確かに教養がちょっと欠けてる感じがするね……」
斗哉:「うるせえ。あの連中から目を離せないんだ。特にあのピアスの野郎、怪しいと思わないか?」
宏人:「あいつのことか。確かにその通りだ、昨夜もあの調子だった。でも喧嘩はしなかったよ。関わらないのが一番ってタイプだな。警戒するのは正解だ」
彩乃:「そうそう、最低だよね」
斗哉:「それだけじゃない。あいつ、ナイフ持ってる疑いがある」
進:「えっ?」
彩乃:「うそ?!」
健一:「マジか……」
宏人:「……というと?」
斗哉:「ただの勘だ。ああいう感じの悪い奴らは大概ナイフを持ってる。そうじゃなきゃとっくにぶっ叩かれて大人しくなってただろう。あいつのポケットに入ってるもん、ちょうど折り畳みナイフくらいのサイズだ」
進:「……昔よく喧嘩してた斗哉が言うと、説得力あるなあ……」
彩乃:「そそそそれじゃあどうすればいいの?」
斗哉:「だからあの連中が暴れないよう、オレが拠点で見張る。常石は手伝ってくれればそれでいい。ここには戦えない奴が多すぎる。刺激しないのが一番だ」
彩乃:「わかったわ……でも“連中”って、まだいるの? 他にもあんなやつが」
斗哉:「表向きにはまだわからねえ。だが、20〜30代の男連中、学生が何人か狩りに行ってるってのに自分らはなんもしようとしない。いい人間に見えねえんだわ」
宏人:「んー……なるほど」
斗哉:「ってわけで平山、お前のバットを貸せ。俺にもいい武器が必要だ」
健一:「うぅ……買ったばかりのバットなのに……わかった、貸すよ」
健一は肩にかけていたバッグごとバットを斗哉に手渡した。
斗哉は最後の肉を口に放り込み、串の枝を捨てると、肉を噛みながらバッグを開け、バットを取り出して数回振り回した。風を切る鈍い音が短く響く。
斗哉:「おお、木製だが、けっこういいな」
健一:「当たり前だ。俺がじっくり選んだもんだらかな」
彩乃:「うう……ウサギ肉って初めて食べたけど、塩味がなくて美味しくないや。それに生臭い……」
進:「まあ、突然ここに転移されたからね。調味料を持ち歩いてる人なんてまずいないよ」
斗哉:「どうかな。リュック一杯に菓子持ってる奴もいたんじゃねえか」
進:「……それもそうか」
健一:「リュック一杯の菓子?」
斗哉:「もうないぜ」
健一:「えええー、そんなー」
彩乃:「ところで進くんさっき狩りしてる時すごくカッコよかったよ! 名前もカッコいいし! 同じ高校生でもあの龍崎はちょっとアレね」
進:「あはは……」
彩乃:「ねぇねぇ、今彼女いる? 年上好き?」
進:「ええっと……」
宏人:「そういえば全部で32人いるって言ってなかったか? ここには30人しかいないようだが」
斗哉:「あと2人は別の場所で狩りしてる」
五人そんな会話をしながら焼肉の串を食べ終え、元の場所へ戻った。
準備を整えた後、千里たちとの約束の時間まであと1時間少しだったため、進、宏人、健一は狩りに出かけた。
彼らはまだ行ったことのない方向を選び、20分ほど歩くと野鶏に出くわした。まずまずの連携の末、無事に捕らえることに成功し、その後拠点へ戻った。
慧子:「野鶏だね、これ」
進:「鶏だったんですか? 地上を走る鳥だと思ってました」
慧子:「まあ地上性の鳥ってことには間違いはないよ。っていうか、ここの動物みんなでかいね」
進:「そうですよね。熊村さん、処理できますか?」
慧子:「習いはしたよ。だが多分ウサギより時間かかりそうだ。それにお湯でもないと羽抜きが難しくて、食べるとき気持ち悪いよ?」
宏人:「ないよりマシだ」
慧子:「まあそうだね。じゃあ絞めるか」
進:「お願いします」
慧子:「光多さん、手伝ってくれない?」
光多:「あいよー」
慧子は野鶏を受け取ると、さっきウサギを処理した巨大な根元へ移動し、野鶏の首を切って血抜きを始めた。
斗哉:「ニワトリ、捕まえやすいか?」
進:「速かったけど、ウサギよりはだいぶマシだった」
斗哉:「そうか。二人とも狩りの感じはどうだ?」
健一:「俺はほとんどなんもしてない……石を2つ投げただけで、全部進くんと南さんのおかげ……」
進:「そんなことないよ、健一の投げた石のタイミングと位置は完璧だった。君のおかげで楽に捕まえられたんだ。よくできてたよ、サポート」
健一:「そ…そうかな? そんなに褒められちゃ照れちゃうわ、はは!」
宏人:「二人ともよくやってる。獲物にさえ出会えれば、捕まえられない心配はなさそうだ」
進:「ああ、俺たちが狩りに行けばみんな食べられる。そういえば斗哉、千里たちはまだ戻ってないのか?」
斗哉:「ああ。そろそろ時間だ、もうすぐ戻るだろう」
進:「じゃあ千里たちが戻るまで休もうか。どんな獲物を獲ってくるかな」
斗哉:「なんも穫れなかったりして、ははは!」
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