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0084 - 第 2 巻 - 第 2 章 - 01


【全体】



 翌朝、夜が明けると同時に、千里と斗哉、進は話し合いを始めた。


 千里:「幸いなことに、ここも夏みたいだ。夜に火を焚かなくても寒くはなさそうだな。俺の準備はできた。二人はどうだ?」


 斗哉と進は手に持った枝を弄りながら、千里の前に歩み寄る。


 斗哉:「できた。別に準備するようなもんでもないし」


 進:「オレも準備OK。どこで狩りをするべきかな?」


 千里:「俺も詳しくはわからないけど、そこら中に獣道ができてる。通った痕跡が多そうな道を進めば間違いないんじゃないか?」


 進が「確かに」と返すと、斗哉が「さっさと行こうぜ」と促した。


 すると千里は他の者たちに「じゃあ、行ってくる。数時間以内には戻るよ」と伝えた。


 紗奈:「気をつけてね!」


 楓:「幸運を祈るわ」


 そうして三人は出発した。


 彼らは昨日と同じように、森の中をきょろきょろと見回しながら進んで行く。


 斗哉:「昨日は気づかなかったけど、けっこう動物いるんだな」


 進:「ああ。昨日は人を探してたから、今は獲物を探す目になってるからじゃないか?」


 千里:「それと、俺がスマホで大音量で録音を流してたから、近くにいた動物は逃げちゃったんだろう」


 斗哉:「こうなるってわかってたら、昨日の昼間に遭遇した小鹿を仕留めておくんだったな」


 進:「そんなのわかるわけないだろ」


 斗哉:「ただ言ってみただけじゃねえか、馬鹿にすんなって」


 進:「はいはい。でもまあ、今は人数も多いし、確かに少なくとも小鹿1頭は獲らないと足りないかもな」


 千里:「責任重大だな。ん?」


 進:「どうした?」


 千里:「獲物を発見! でかいウサギだ。静かにしろよ」


 団体を離れて十数分後、千里は彼らの知っているウサギによく似た動物が、背を向けているのを見つけた。


 斗哉:「今日はついてるぜ!」


 三人は手にした枝を握りしめ、足音を殺しながらウサギに近づいていく。


 しかし、ウサギはすぐに殺気を察知し、耳をピンと立てるやいなや、枯葉をかき分けるように走り出した。


 進:「あっ!」


 千里:「行くぞ! 追いかける!」


 三人は急いでウサギを追いかけた。


 そのウサギの身体の大きさは普通の野ウサぎの2倍以上はあり、四角くてぬいぐるみのように見える。走る速度は一般的なウサギほど速くなく、三人を簡単に振り切ることはなかった。


 ウサギは必死で逃げ、三人は血眼になって追う。追いつきそうになった瞬間、ウサギは突然方向を変え、三人は不意を突かれた。


 斗哉:「クソっ!」


 斗哉が罵り、三人も方向を変えて追跡を続ける。そしてまた追いつきそうになった時、ウサギは再び突然方向を転じた。


 三人もまた方向を変える。すると千里はさっと地面に落ちている細く短い枝を拾い、ウサギの前方めがけて力いっぱい投げつけた。


 枝が地面に落ちる音と衝撃に驚いたウサギは瞬間的に1メートル以上も跳び上がる。着地後も逃げ続けたが、この時間のロスで三人はかなり距離を詰めることに成功した。


 ウサギが再び方向を変えようとした瞬間、千里は大声で叫ぶ。


 千里:「三度目は無いッ!」


 彼は咄嗟に長い枝を突き出した。


 ウサギ:「キィーッ!」


 その一撃はウサギの横腹を捉え、かなりのダメージを与えた。ウサギは悲鳴を上げてバランスを崩し、慣性で地面を数回転した。


 ウサギが動けなくなった隙に、最も近くにいた斗哉がその耳を掴み、再び逃げるのを防いだ。


 斗哉:「捕まえたぞ!!」


 進:「やった!」


 三人は獲物の狩りに成功し、達成感に満ちた笑顔を浮かべた。


 斗哉:「やるじゃねえか、千里!」


 千里:「はは、運が良かっただけさ。まずはこのウサギを持って帰ろう」


 ──「あなたたち……」


 突然、聞き慣れない女性の声がした。


 それは30代の女性慧子の声だった。三人は慧子たち六人と遭遇する。彼女たちはさっきの最後の一幕を見ていたようだ。


 双方が軽く情報交換をした。


 斗哉:「──水?!」


 慧子:「ああ、ついさっきそっちから来た」


 千里:「案内してもらえませんか? こちらは15人ほどいて、昨日一日水を飲んでいないんです」


 慧子は他の5人の意見を目で尋ね、誰も反対しなかったため、彼女たちは千里たちを昨晩休んでいた場所へ連れて行った。


 斗哉:「水だ!」


 斗哉は大声を出しながら、ウサギを手に持ったまま小さな水たまりのそばに駆け寄り、ひざまずくとがぶがぶと水を飲み始めた。


 斗哉の荒っぽい動作を見て、さっきからずっとウサギに同情の眼差しを向けていた那帆は、さらに心配そうな表情を浮かべた。


 進:「やっと水が飲める。それにきれいそうでよかった」


 千里:「ああ! 俺たちは飲んだら一旦みんなのところに戻って、ここを拠点にしよう」


 進:「うん!」


 三人は水を飲み終え、昨晩休んでいた場所に戻ろうとした。


 女子短大生の亜衣美:「そこのあなたたち、お菓子要る?」


 亜衣美はそう言うとリュックを下ろして開け、中にまだリュックの半分以上もあるお菓子を見せた。


 千里&進&斗哉:「おおおーーー!!」


 斗哉:「すげえ! 食い物がこんなに!」


 千里:「えっと、もちろん欲しいけど、ただってわけじゃないよね?」


 亜衣美:「小売価格の5倍で」


 進:「え? もしかして……」


 千里:「……うーん、どうやら君たちも知らないみたいだな」


 千里はここが異世界であるという推論を亜衣美たち六人に簡潔に説明した。


 中年男性の敏之:「ははははは! 何を言い出すんだ。ゲームはほどほどにしな。そんなことあるわけないだろ。そうだろ、熊村さん?」


 慧子:「ふうん……常識的に言えば荒唐無稽だけど、彼らの言うことも一理あるわ。だって事実に合致してるもの」


 敏之:「合致なんかしてないよ、ただの自分の妄想にこじつけてるだけだ、ありえない!」


 慧子:「……」


 自分たちが信じる推論を、より良い説明もできずに否定ばかりする中年男に、斗哉はついカッとなる。


 斗哉:「なんだとおっさん!?」


 進:「斗哉、やめろ」


 千里:「確かにこれは単なる推論です。信じるか信じないかはあなたたち次第。で、これを聞いて、君は今どうする? もしここが本当に異世界なら、元の世界の金はただの紙切れだ。それでも金で取引したいか?」


 亜衣美:「…………………………」


 敏之:「亜衣美ちゃん、惑わされるないでくれ、こいつらはタダで貰おうとしてるだけだ!」


 斗哉:「おっさん、マジでムカつくんだが?」


 敏之:「な、なんだ? 殴るってのか?」


 進:「斗哉、やめるんだ」


 斗哉:「まだなんもしてないが?!」


 亜衣美:「………………お金でいい」


 敏之:「そうだろ! お金より大事なものがあるか」


 千里:「……状況は説明した。君たちの選択を尊重する。こっちとしてはありがたい話だ。じゃあ、ちょっと売ってくれ。まずは俺たち3人が食べる分。全部で15人いるから、これだけあってもあっという間になくなると思う」


 亜衣美:「………………毎度」


 取引が成立し、三人はお菓子を食べてエネルギーを補給した。


 斗哉:「ちくしょー! なんでこんなにうめえんだ!」


 進:「お腹が空きすぎてるからだよ」


 斗哉:「おー! それじゃあ、このウサギの味も期待できそうだな!」


 その言葉を聞き、那帆の眉がピクッと動いた。


 三人はすぐにお菓子を食べ終え、また少し水を飲むと戻ろうとした。


 千里:「俺たちは一旦他の人たちを連れてくる。あなたたちはどうします?」


 慧子:「なら私たちはここで待ってようか? どうせどう歩けば出られるかわからないし、人多い方がいいから」


 亜衣美:「…………うん」


 敏之:「そうしよう」


 浅黒い肌の男の駿:「いいぜ」


 春:「はい」


 那帆:「…………はい」


 千里:「じゃあ、また後で」


 那帆:「あ…あの……!」


 千里:「ん?」


 那帆:「その……えっと…………」


 斗哉:「なんだよ?」


 那帆:「……うぅ…………」


 春:「どうしたの? 那帆?」


 斗哉:「用事あったら後で言え、オレら急いでる。他の連中も喉渇いて腹減ってるんだ。行こうぜ」


 千里:「そうだな、用事は後でにしよう、多分30分ちょっとでまた戻ってくるから」


 那帆:「……はい…………」


 三人は踵を返す。昨日に比べ、今日の運は非常によく、帰路の彼らの足取りもいくぶん軽やかだった。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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