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0079 - 第 2 巻 - 第 1 章 - 06


 彼がさっと振り返ると、5人の人影がこちらへ走ってくるのが見えた。


 千里たちだ。


 彼らはちょうどこの近くまで来て録音を止め、休憩しながら会話していたところで、貴柳の叫び声を聞きつけて駆け付けたのだった。


 少年:「あ……あっ!」


 少年は冷や汗をかくと、貴柳の胸元から手を離し、足を速めて逃げ出そうとした。


 しかし、素早く動いた千里に追い付かれ、行く手を阻まれる。


 千里は枝を少年に向けて構えた。


 千里:「動くな!」


 他の者もすぐに到着した。楓と紗奈が貴柳の状態を確認し、進と先ほど少年を大声で制止した斗哉が少年の背後に回り、包囲する。


 自分を囲む3人は皆、棍棒のような枝を持ち、特に1人は喧嘩慣れしたような気配を漂わせている。少年は自分が袋叩きにされるだろうと覚悟した。


 斗哉:「てめえ、さっき何しやがった!?」


 少年:「………………」


 斗哉:「聞いてんだよ!」


 精神的な圧力から、少年は全身を硬直させその場に立ち尽くし、答えられない。


 一方、危機から救われた貴柳は安堵のあまり涙を浮かべて嗚咽していた。


 この人たちは自分を助けに来たのだと理解すると、彼女の恐怖はすぐに消え去った。だが、落ち着く代わりに怒りが沸き起こってくる。


 涙を拭うと立ち上がり、甲高い声で言い放った。


 貴柳:「私何もしてないのにいきなりぶってきたのよっ!! 警察に突き出してよっ!!」


 それまで無反応だった少年も、貴柳の言葉に激しく反応した。


 少年:「“何もしてない”だと!? これはただの仕返しだ!!」


 その言葉に千里たちは一瞬たじろぎ、これが単純な<男子の女子いじめ>ではないことに気づく。


 斗哉が嫌そうに呟く。


 斗哉:「……めんどくせえ話になりそうだ」


 千里は構えを解いた。


 千里:「事情を話してくれないか」


 少年:「………………」


 貴柳:「もう何も言うことないでしょ! 私をこんなに殴ったんだから、どう考えてもあいつの方が悪いわ!」


 少年:「ぐっ……!」


 貴柳の言葉が再び少年の琴線に触れ、少年はこれまでの経緯を語った。


 少年:「――だから、ついカッとなって殴ってしまったんです……」


 貴柳:「“ついカッとなって”なんてないわよっ!? 3回も殴って、もっと殴ろうとしたくせに! それに私をいじめて気持ちいいって言ったじゃない!」


 千里:「はいはい、二人とも落ち着いて」


 千里が口論を遮る。


 千里:「つまり貴柳が真部まなべをいじめていたのは事実なんだな?」


 貴柳:「………………ただの冗談だって言ったでしょ」


 斗哉がやや憤慨しながら口を挟む。


 斗哉:「“冗談”で済む話かよ? お前らがやってきたことはいじめで、れっきとした犯罪だ!」


 貴柳:「……そんな大げさな……」


 貴柳は小声で呟くと、視線を地面に落とした。


 千里:「どうやら双方とも自分に都合のいいように話しているようだな。俺は日本人じゃないから、日本の学生間のことや法律には詳しくない。だが、一言言わせてくれ。貴柳、お前やその連中が本当にそれを<冗談>だと思っていようが、<冗談>という言い訳で逃げようとしていようが、お前たちがやったことが<いじめ>そのものだ。これは客観的事実で、お前たちが認めようが認めまいが変わらない。その件に関してはお前たちが悪い。わかったな」


 貴柳:「………………ちっ……」


 貴柳は千里に返答せず、ただ舌打ち一つした。


 千里:「次は真部だ。たとえ以前貴柳からいじめを受けていたとしても、今回お前が手を出したのは間違いだ。いじめへの対処法は今は措いておくが、他人から危害を加えられていない状況で人を殴れば、お前が加害者だ。たとえそれが加害されての復讐だとしてもな。それとも日本の法律はこういう復讐を認めてるのか?」


 千里は仲間たちを見る。進、楓、紗奈は皆首を横に振った。


 千里:「お前もそれはわかってるから逃げようとしたんだろ?」


 真部:「………………」


 千里:「それにお前の話だと、殴ったのは直接手を出してきたわけでもない貴柳だ。彼女にも非はあるが、お前も十分容赦なかっただろう」


 それを聞き、斗哉がやや嘲るように相槌を打つ。


 斗哉:「だよな。殴るならあの荒川勝人って奴とか他の男を殴れよ。反撃できない女を殴っておもしろいか? まあ、それができるくらいならいじめられもしないだろうがな」


 楓:「……言い過ぎよ」


 斗哉は楓に睨まれる。


 斗哉:「あ、悪ぃ悪ぃ」


 千里:「話を戻す。結論から言うと、俺たちはお前たちをどうにかしたりはしない」


 貴柳:「はあ? なら最初からそう言えばいいじゃない」


 貴柳は非常に不満そうに顔をしかめる。


 千里:「最後まで聞け。俺たちは一般人だ。こんな事態を処理する権利も義務もない。警察のような公的機関に任せるべきだ。だが、ここにはおそらく警察署はない。なぜならここは日本じゃない。地球ですらないからな」


 貴柳:「…………は? 何言ってるの……」


 千里の言葉に貴柳は理解できず、真部も半信半疑。すると千里は現在の状況を説明した。


 説明を聞き、自身の状況と照らし合わせて考えた二人は、最終的に皆の言葉を信じた。しかし精神的衝撃を受け、二人とも俯いて唸る。


 貴柳:「……そんな……」


 真部:「……異世界…………」


 それを見て、千里は進たちに尋ねた。


 千里:「二人を連れて行きたいが、どう思う?」


 進:「異論はない」


 紗奈:「私も」


 楓:「……うん」


 斗哉:「いいぜ。面倒な事起こさなきゃな」


 千里:「よし。聞いたな、貴柳、真部。で、問題はお前たちに戻る。もしかしたらすぐに他の人に会えるかもしれないし、会えないかもしれない。選べ、俺たちについて来るか?」


 二人はしばらく考え、真部が先に口を開いた。


 真部:「…………僕……ついて行きます」


 千里が頷き、貴柳に「お前は?」と尋ねる。


 貴柳:「…………………………またこいつが私を殴ったらどうするの?」


 千里:「そこで俺たちについて来る条件だ。まず、双方とも非がある。お前たち二人に互いに謝罪してもらう。それから、俺たちと一緒にいる間は平和に過ごすことを約束してもらう。人を傷つけておきながら謝罪もできないような奴とは一緒にいたくないからな。二人の間のことは最終的にどうなろうと知ったことじゃない、自分たちで解決しろ。だが、また手を出したら俺が見つけ次第止める。どうだ」


 進:「オレもそうするよ」


 真部は「わかりました」と頷く。


 貴柳は進を見て、千里の条件に同意した。


 千里:「……よし」


 真部は貴柳に2歩近づき、頭を下げて軽く会釈すると、穏やかな口調で謝罪した。


 真部:「……殴ったのは悪かった。ごめんなさい」


 貴柳:「……………………」


 貴柳は右手で左腕を抱き、不満そうな表情を浮かべてなかなか反応しない。「なんで殴られた私が謝らなきゃいけないのよ」と考えている。


 周囲の視線が集まり、彼女は焦りを感じる。


 最後に何気なく進を見た後、ようやく小声で開口した。


 貴柳:「…………ごめんなさい」


 だが千里は納得しなかった。


 千里:「対等に謝れ」


 貴柳:「ちっ…………あああわかったよ! いじめて悪かった! ごめんなさい!」


 貴柳も軽く頭を下げ、真部に謝罪した。


 千里:「よし、なら行くぞ。そうだ、お前たちは武器使えるか? どの方向から来た?」


 真部:「……できません」


 貴柳:「私、女よ? そんなのできるわけないでしょ」


 その言葉に、紗奈は内心「ええええええ――」という気持ちが顔に浮かべた。


 準備を整え、7人は再び歩き出した。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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