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0078 - 第 2 巻 - 第 1 章 - 05


【シーン4】


 森のどこかで、高校生くらいの年頃の少年が長い間彷徨った後、同じく高校生くらいの少女と出会った。


 少女は巨大な根本に身体を丸めて寄りかかっており、顔は膝と髪で隠され、表情は見えなかった。


 少年:「大丈夫か!」


 少年は少女に手を差し伸べた。


 少女:「あ……はい! ありがとう!」


 少女も手を伸ばしてそれを受け、少年はその手を引っ張って彼女を立ち上がらせた。


 そして二人は互いの顔をはっきり見た。


 少女:「――誰だと思ったら、パシリ君じゃん」


 少年は一瞬で後悔した。


 少年:「…………………………貴柳きりゅうさん……」


 貴柳は少年の手を振り払った。少年は視線を逸らし、嫌悪の表情を浮かべないように顔を強張らせる。


 貴柳:「なんでパシリ君がここにいるのよ? 他に誰かいない?」


 少年:「……僕も……わからない。ここに現れてから、ずっと歩いてて、やっと貴柳さんに……」


 貴柳:「はあ~、最悪。街を歩いてたら急にあんなおかしな事に巻き込まれるし。ねえ、あれ見たでしょ? あなたみたいな陰キャ男子、そういう映画好きでしょ? SFっていうの? 今どんな状況かわかる?」


 少年:「………………わからない」


 貴柳:「ちっ、役立たずが。それじゃあ水持ってる? 喉渇いたんだけど」


 少年:「……持ってない」


 貴柳:「ちっ」


 貴柳の態度が悪化して、2歩ほど横に移動し、少年から離れたいように振舞う。


 貴柳:「はあああ~なんで会えたのあんたなんかなんだよ」


 少年:「………………」


 無礼に扱われても、少年はただ硬直したまま立ち尽くし、何も言わない。


 貴柳:「他に誰か探してきてよ、いたら連れてきて。私は疲れたから、ここで休んでる」


 少年:「……え?」


 貴柳:「嫌なん?」


 少年:「…………………………」


 貴柳:「なに? 不服? いいわよ、行かなくても。でもさっき私の手触ったこと、勝人かつとに言っちゃうよ」


 そう言われると、少年の顔色が一気に青ざめた。


 少年:「ッ!! だ…だってそれは貴柳さんが……!」


 貴柳:「事実じゃん?」


 少年:「………………ぐっ……!」


 少年の口がぱくぱくと動き、貴柳に弁解しようとするが、言葉が出てこない。


 貴柳:「はっ、口だけパクパクしてるだけでなんも言わない。金魚みたい。それにあんたその髪型なに? 夏休みデビューでもする気? うけるんだけど。あんたみたいな無能な陰キャの失敗組は、ちゃんと私に奉仕してりゃあいいの。わかってる?」


 貴柳の口にする勝人は彼女の彼氏で、彼女と少年のクラスメイトだ。


 彼らのクラスには、勝人を中心としたグループがあり、男子4人と女子3人で構成されている。彼らは品行が悪く、成績も良くなく、問題児ばかりだ。


 そしてこの貴柳に“パシリ君”と呼ばれる少年は、彼らのいじめの対象だった。


 彼らの学校の教頭は勝人の親戚で、職場や身の上への報復を恐れて、教師たちはこの事態を見て見ぬふりをしている。


 だから今、貴柳の横暴な振る舞いと罵声に、少年は怒りと怯えを同時に感じていた。


 貴柳:「その表情なに? 反抗する気? したら帰ったら勝人に言うよ? そしたら面白いことになるね」


 少年:「…………………………?」


 貴柳の言葉で少年は何かを気づいた。



 …………“帰ったら”? ……“そしたら”? あいつはここにいないのか?


 異世界って言うんだっけ? 何であれ、ここは日本じゃないんだろ?


 他の連中もいないんだな、そうじゃなきゃそんな言い方しない。


 じゃあ………………僕は貴柳を恐れる必要はないじゃないか……?


 …………もう貴柳を恐れなくていいよな……?


 ……そうだよな……?


 だよな?


 そうよ。


 もう貴柳を恐れる必要はない。


 僕はもう貴柳を恐れなくていいんだ!


 もう二度とッ!!



 貴柳:「――って、私の話聞いてる? 行くか行かないか聞いて……」


 パンッ!!


 鋭いビンタが貴柳の顔に炸裂した。衝撃で彼女は2歩後退し、巨樹の根本に倒れかかる。


 貴柳:「………………………………え?」


 貴柳は左の頬を押さえ、しばらくしてようやく何が起きたのか理解する。


 少年を見ると、その表情は依然として怒りと怯えが入り混じっていたが、怒りの方がより強くなっていた。


 貴柳:「…………あ…あ…あんた……」


 貴柳は震え上がり、逆上して叫んだ。


 「私をぶったな!! 勝人に知られたらどうなるか、わかってるよねっ!?」


 貴柳は再び彼氏の名前を出した。その勝人の名前を叫ぶ様子は、少年にいろいろ思い出させる。


 彼らのグループに使い走りをさせられ、お金を持っていかれた事;教室で勝人に頭から水をかけられ、全身と眼鏡、本まで濡らされたが、彼らのグループはただの冗談だと言った事;以前不注意で貴柳にぶつかってしまった時、勝人と他の3人の男子に学校の人のいないトイレに拉致され、殴る蹴るの暴行を受けた事;殴られて地面に丸くなっている時、貴柳に踏みつけられ嘲笑された事……


 少年の表情が歪む。左手で貴柳の胸元を掴み、貴柳を半分引き上げた。貴柳は「あ…あんたなにする気ッ!?」と叫びながら両手で少年の左腕を掴んで抵抗する。


 少年:「なら呼んで来いよ?」


 ドン!


 少年の拳が貴柳の左頬を殴った。


 貴柳:「ギャアっ!!」


 貴柳は少年が再び攻撃してくること、それも拳でくることを予想していなかった。


 少年:「…………これが弱い者いじめの感じか……なかなか気持ちいいじゃないか」


 少年の瞳には次第に興奮と優越感の色が浮かび上がる。再び拳を上げた。


 貴柳:「痛……痛い! や…やめてっ!!」


 少年:「……痛い? やめて? ははは」


 少年は貴柳の胸元を掴む力を強め、もう少し引き寄せ、表情と声をさらに険しくする。


 少年:「僕がいじめられてる時、僕は何回叫んだ? お前ら止めたことあんのか? ああッ? !」


 貴柳:「……ひぃ……」


 少年は再び拳を振り下ろす。


 貴柳はとっさに手を出して防ごうとするが、完全には防ぎきれない。力が弱められ軌道を変えられた拳は、貴柳の口の上部付近に落下した。


 貴柳:「ぎゃああっ!! 痛い! やめて……! もうやめて!!」


 少年:「うるせえーッ!!」


 少年は右手で貴柳の顔を掴み、口を封じた。


 少年:「いじめられる気分はどうだ?」


 貴柳の殴られた場所は腫れ上がり始め、口内も傷つき血が滲み始めていた。


 口の中の血の味、少年の急変、そして静かで人気のないこの巨樹の森が、彼女に感じたことのない恐怖を抱かせた。目尻に涙が滲む。


 少年は貴柳の顔を離し元の距離に戻ると、3度目の拳を上げた。


 貴柳:「やめて……お願い……助けて…………」


 少年:「こんなところ誰も来やしないよ」


 そのは、勝人たちのグループが少年を集団暴行していた時に言ったセリフだった。


 貴柳:「やめて――!! 助けてっ!! 誰か助けて――ッ!!」


 貴柳は叫びながら腕を伸ばして自分の顔を守る。少年はそのみっともない姿を嘲笑するように冷笑し、拳を落とす場所を探った。


 その時だった。


 ――「やめろ!」


 少年の背後から、男の声が響いた。彼の神経と頭皮が一瞬で逆立つ。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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