0075 - 第 2 巻 - 第 1 章 - 02
数分後、高校生らしき少女が彼らの斜め前から小走りに近づいてくる。
高校生らしき少女:「──すみません! あの、日本人の方ですか?」
それを見て千里が録音再生を止めると、進が前に出た。
進:「そうだ。中国人の大学生が1人、あとはみんな日本の高校生だよ」
高校生らしき少女:「ああ……よかったぁ……あんなことが起きて、気づいたらこんな森の地面に寝てて……もう30分近く声を出して人を探してたのに誰も見つからなくて……うっ……」
孤独な状況でようやく4人と出会い、少女はほっとした安堵から涙腺が緩みかける。涙が滲んだ瞳を手で覆い隠した。
進:「大丈夫、一人じゃないから」
楓:「ええ、これからどうなるかは分からないけれど、少なくとも今は安全よ」
進と楓が優しく声をかけると、斗哉が突然口を挟んだ。
斗哉:「オレがいなかったら楓もこんな感じだったろ?」
楓:「………………」
斗哉:「あ……いや、深い意味はないんだ……ごめん」
口にした後で自分でも軽率だったと気づく。いつもの毒舌が返ってくるかと思ったが、楓は無表情で「……そうね」と呟くだけだった。その反応に彼は少し面食らう。
進と楓の慰めですぐに落ち着いた少女は、改めて自己紹介を始めた。
高校生らしき少女:「あ、すみません。まだ名乗ってませんでした。春日原紗奈です。16歳の高校一年生です」
紗奈の自己紹介に応え、進が再び全員を紹介し、現在の状況を説明した。
紗奈:「……やっぱり本当に異世界なんだね……」
その言葉に進と千里が同時に「ん?」と反応した。
進:「春日原も……その……アニメとか見る?」
紗奈:「あ、うん。アニメとソシャゲが好きで、毎日見たりやってたりしてる。ちょっとオタクすぎたかな、あはは……」
オレンジのハイライトが入った髪、明るいルックスの可愛らしい女子高生もオタクだとは、四人は予想していなかった。
進:「オレと千里もそうだよ」
しかし紗奈もまた、爽やかなルックスに加え服のセンスも良く、まるでアニメキャラのような進が同類だとは思っていなかった。
千里は内心「日本の高校生オタクはもうこんなレベルなのか!?」と驚く。
紗奈:「本当? よかった! じゃあ私たち、いろんな意味で仲間だね!」
3人のオタクが顔を見合わせて笑う。
紗奈:「ところで天宮城くんと華さんって何派?」
進:「オレはファンタジーの冒険系のアニメが好み。ゲームは据え置き機とか携帯機メインかな」
千里:「千里でいいよ。アニメの範囲はちょっと広い。ファンタジー、学園、アイドル、推理、日常とか。あ、ロボットは苦手かな。ゲームはオンゲとオフゲがメインで、携帯機もやる」
紗奈:「じゃ私も紗奈でいいよ! なんか私たち、話題が多そうだね!」
盛り上がる三人を楓がやむなく遮る。
楓:「……気持ちはわかるけど、今はそんな場合じゃないでしょ?」
三人は「あ……」と苦笑いで謝った。
千里:「そうだな、本題に戻ろう。紗奈も一緒に来るよな?」
紗奈:「うん!」
千里:「さっき“30分近く探してた”って言ったけど、目覚めた場所の近くでか?」
紗奈:「ううん、移動しながら。人が全然いなくて……さっきスピーカーで録音を流してるような声が聞こえて初めて人がいるって感じたんだ」
千里:「なら紗奈が来た方向には人はいないだろう。次はこっちへ行こう、どうかな、皆んな?」
千里が今までの方向から少し角度をずらした方向を指すと、全員が同意した。
千里:「よし。あともう一点、紗奈も剣道部か?」
紗奈:「え?」
千里:「ちょっとだけど、手の平にマメがあるのと右前腕が発達してるから、そうなんじゃないかなって思って」
そう言われると紗奈はスッと両手を背後に隠した。
紗奈:「あ…あはは……」
千里:「あ、ごめん。失礼だったか?」
紗奈:「いえいえ! その……剣道部は入ったことないけど、趣味で剣はやってて……」
進:「へえ、どんな?」
紗奈:「……居…居合……とか……?」
進&千里&斗哉:「居合!?」
3人の男が声を揃え、楓すらも目を見開いた。
紗奈:「ああああ! ただの趣味だよ! 大したことないから……」
斗哉:「……ったく、おまえらオタクって、なんでみんなケンカ向きなんだ? オレの気のせいか?」
千里:「じゃあ紗奈も使いやすそうな枝を拾っといて」
千里が自分の枝を掲げ、進と斗哉もそれぞれ見せると、紗奈は意図と先程の“も”の意味を理解した。
紗奈:「わかった」
そう言って紗奈は地面から若干反りを帯びた枝を選んだ。
一行は再び歩き出す。
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