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0074 - 第 2 巻 - 第 1 章 - 01

【シーン1】


 「うっ……」


 森の中で、地面に横たわっていた男が目を開けた。


 巨大な樹木の枝や葉に不規則に遮られた空を見上げ、思わず信じられないという表情を浮かべる。


 「………………はあ?」


 彼は勢いよく起き上がり、周囲を見渡して状況を確認する。


 辺りは薄暗く、空は青みがかった色を帯びており、今が日の出なのか日没なのか判断しづらい。


 それ以外に見えるのは、木と木だけ。極めて太く、そびえ立つ巨木ばかりだ。


 視界を四方八方から遮られ、望むものは何一つ見当たらないことに、彼は思わず冷や汗をかいた。


 続いて、地面に落ちていた自分のスマートフォンを拾い上げる。


 「やっぱり圏外か……録画モードもいつの間にか切れてるし。録画を確認……って“ファイルが破損しています”だと!?」


 彼は目眩を覚え、困ったように額に手を当てた。


 しばらく冷静になり、現実を受け入れた彼は、これからすべきことを決めた。


 「……まあ……試してみるか。『ステータス』」


 意味不明な言葉を口にし、手を前に差し伸べるが、何も起こらなかった。


 「『システム』。『メニュー』。『設定』」


 それも何も起こらない。


 「…………だよな」


 そして彼はスマホの録音機能を起動し、大きく息を吸った。


 「誰かいるかー! いたら応えてくれーー!!」


 応えはなかった。


 森の中なので、声の反響が小さい。だが、彼はスマホでこの録音をループ再生し続けることで、他にいるかもしれない人を探し、体力を温存することができる。


 地面から乾いていて適切な長さの枝を1本拾い、移動しようとしたが、どちらへ進めばいいかわからない。かつての経験と直感だけを頼りに、彼は一つの方向を選んだ。


 周囲には、まばらな鳥の鳴き声と、枯れ葉を踏みしめるパリパリという音、そして彼のスマホから大音量で流れる録音しか聞こえない。風が木の葉を揺らす音さえも。


 およそ10分歩き続けた頃、ついに人の声が聞こえた。


 「──こんにちは!」


 近くの巨木の陰から、一人の少年が身を乗り出した。


 「あ! こんにちは」


 男が録音の再生を一時停止すると、少年は男の目の前までやってくる。互いの服装や様子を見て、二人はすぐに相手の状況が自分と同じだと理解した。


 男:「君、日本人だよね? 君もさっきの<アレ>でここに飛ばされたのか?」


 少年:「はい、日本人です。天宮城進うぶしろ すすむといいます。“も”ってことは、あなたも同じなんですね」


 男:「ああ。俺は華千里か せんり、中国人だ」


 進:「中国人っ!? <アレ>って、中国でも起きたんですか?」


 千里:「いや、あぁ……どうだろう。俺は夏休みで日本に旅行に来てたんだ」


 進:「ああ、そうだったんですね。えっと、オレ、16歳で高校一年生です。あなたは……?」


 千里:「19歳、大学一年生だ。スマホは持ってるか?」


 進:「はい、持ってます」


 千里:「うん、時間は同じだ。俺はだいたい10分前に目を覚ました。君は?」


 進:「同じくらいです」


 千里:「さっきのことを撮影してたりする?」


 進:「もともと録画してたんですが、なぜか中断しちゃってて、ファイルも破損してると表示されて……」


 千里:「そうか、俺もそうだ。うーん……」


 進:「……やっぱりこれはいわゆる……異世界──」


 千里:「転移だな。ゲームの世界っぽくはない」


 進:「おーっ」


 二人は顔を見合わせ、まるで何かの合図が通じたかのように、心の距離が一気に縮まった。


 進:「……じゃあ、華さん、これからどうすればいいと思います?」


 千里:「敬語はやめてくれ、あんまり慣れてなくてな。千里でいいよ。俺も進って呼ぶ。いいかな」


 進:「ああ」


 千里:「他の人と水源を探そう。サバイバルになったら厄介だ」


 進:「うん!」


 そこで千里は再び先ほどの録音をループ再生し始め、二人は周囲に気を配りながら進み始めた。


 ──「進ッ!」


 黙々と十数分歩いた後、少し離れた、地面より少し高い位置から声がかかった。


 声の主は高校生くらいの少年で、ある巨木の極めて太い根元の上から二人を見ている。千里は急いで録音を一時停止した。


 進:「っ! 斗哉か?!」


 斗哉と呼ばれた少年:「ああ、オレだ」


 そう言うと、斗哉と呼ばれた少年は地面に飛び降り、もう一人を巨大な根本の後ろから連れ出した。


 進:「あっ、楓先輩!」


 楓と呼ばれた少女:「……進くん」


 2人いたのだった。男1人女1人。どちらも進の知り合いのようだ。


 斗哉:「進、おまえもここにいたのか。隣のヤツ誰だ?」


 進:「彼は華千里。さっき知り合ったばかりだ。千里、こっちは二人ともオレの友達だ。大久保斗哉おおくぼ とうや五十嵐楓いがらし かえで先輩。同じ学校で、まあ、斗哉も一応は先輩だ」


 斗哉:「一応って何だよ、先輩そのものだろうが」


 千里:「どうも。中国から来た。大学一年生だ。よろしく」


 千里の挨拶に、斗哉はあまり興味なさげに「おう」と返す。楓は軽く会釈した。


 斗哉:「んで、今どんな状況だ? 分かるか進? オレたちショッピングモールでぶらぶらしてたら、外でなんか起きたみたいで、すげー人が叫びながらモールに流れ込んできて、そんでよぉ、人がピカッってして消えちまったんだぜ?! で、気づいたらオレたちはこのクソみたいな場所にいたんだ」


 進:「室内にいたのか。つまり、斗哉たちは<アレ>を見てないんだな。えーと、どう言えばいいのかな」


 斗哉:「もったいぶるなよ」


 楓:「……進くん、いったい何が起きたの?」


 進:「……たぶんこれ、異世界転移だ」


 二人とも眉をひそめた。


 斗哉:「おいおい、マジかよ、本当におまえの好きなアニメみたいなあれなのか? でも魔法陣なんか見てないぞ? オレたちもさっきまで話してたけど、楓に現実的じゃないって言われた」


 進:「……オレも魔法陣は見てない。転移に必ず魔法陣が必要とは限らないかもな……今わかってるのは、多分ここはゲームじゃないってことと、誰も迎えに来てないってこと。千里とは互いに最初に出会った。斗哉たちが2人目と3人目だ。他の情報はオレたちも何も。今は他に人がいないか探してるとこだ」


 斗哉:「マジか。じゃあ下手すりゃマジでサバイバルすんのかよ?」


 進:「そうなるな」


 進と斗哉の会話を聞いて、ずっと腕を抱えたままの楓が千里に問いかけた。


 楓:「……華さん。大学生としてのご意見で、ここが異世界だという現実的な推論はありますか? それとも、何か証拠になるようなものが?」


 千里:「そうだな……まず、ここは地勢が平坦で傾斜がない。山岳地帯じゃなく森だ。次に時間。俺が目を覚ました時、空は薄い青色で、少し霧がかかってて、周りも暗かった。今は日中だ。つまり、俺が目覚めたのはちょうど日の出の時間だったってこと。今スマホに表示されてる時間は9:47、日本時間のままだ。俺が目を覚ましたのは9:16。七月末の日本の日の出時間は4:30~5:00頃。日本より4.5時間遅れる日の出……その経度に、こんな森はない。もちろん、日本にもない。これらの木の平均高さは目測で120メートル超、高いものは140メートルまであるかもな。直径も12~15メートルはある。地球上で一番高い木の種は北アメリカにあって、世界一高いと言われる木でも120メートルに満たない。しかもあれは杉で、こっちの木は樹皮がないように見えてて変だ。俺も木のことは詳しくないが、明らかに同じ樹種じゃないだろ。最後はあの空の異変だ。あんな現象、ファンタジー以外に説明がつくものはない。残念ながら俺も進も録画ファイルがなぜか破損しちゃってる。確認させたいが、まずは他の人を見つけないと。絶対にたくさんの人が撮ってたはずだからな」


 目を覚ましたばかりの時の楓も、この森の光景を見て「ここは日本ではない」と感じていた。千里の分析を聞き、論理が通っていると思い、その異変を直接見ていなくても、進と千里の言う状況を受け入れた。


 楓:「……最悪だわ」


 斗哉:「クソが、なんてこった。さっさと他の人探すぞ」


 千里:「ああ。でもその前に……斗哉って言ったか? 何かスポーツとか筋トレやってる? 体ががっしりしてるように見える」


 斗哉:「いきなり下の名前かよ、まあいい。なんもやってねぇ。ケンカで鍛えたんだ」


 千里:「んっ……」


 斗哉の言葉に、千里はどう返せばいいか少し戸惑った。そこへ進がフォローをする。


 進:「はは。斗哉は昔ちょっと不良だったんだけど、今はもう改めてて、一応いい奴だから、心配しなくていいよ」


 斗哉:「だから“一応”は余計だって」


 進と斗哉のやり取りから、二人が仲がいいことが千里に伝わった。


 千里:「それならよかった。じゃあ、君も使いやすい枝を拾っておいてくれ。そうすれば何か急に出てきても身を守れるから」


 斗哉:「おう、そりゃそうだな。進も拾えよ。千里……だよな? 進のやつ、中学ん時剣道部で、なかなかやるんだぜ」


 千里:「おお、あの剣道部」


 そう言い終えると、斗哉と進は近くの地面から使いやすい枝を選んだ。進のものは竹刀のようで、斗哉のは棍棒のようだった。


 斗哉:「この枝、質が高いな。湿ってないし、脆くもない。重さも丁度いい」


 進:「ああ。こんな状況じゃなかったら、何本か拾って家に飾りたかったよ」


 千里:「君は?」


 楓:「私はそういうの出来ません」


 千里:「そうか」


 楓:「華さんは?」


 千里:「千里でいいよ。俺は槍術を少々かな」


 進&斗哉:「槍術ッ!?」


 質問した楓よりも、二人の男子高校生の反応のほうが大きかった。


 その後、千里が録音を再生し、四人は再び歩き出した。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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