0073 - 第 1 巻 - 第 4 章 - 15(第1巻 完)
その時、アリスが提案した。
「こうしましょうか。わたしとアンジェリナが交代で牛車の屋根に乗り、前方から隊列が来ないか見張ります。それなら状況があやしいとき、道を変えられますから」
「アリスさん……うーん……」
前進すれば、猛獣の群れに遭遇する確率は引き返すより低いが、悪党の隊列に遭遇する確率は高くなる。
引き返せば、悪党の隊列に遭遇する確率は低くなるが、猛獣の群れに遭遇する確率は高くなり、現時点で<例の魔法使い>を見つけられる唯一のチャンスを逃してしまう。次にいつ機会が巡ってくるかわからない。
「悠樹……」
悠樹が萌花を見ると、彼女はこっくりと頷いた。
どうやら先へ進むことを望んでいるようだ。
「……じゃあ……お願いするよ、アリスさん、アンジェリナ」
悠樹は熟慮の末、アリスの提案を受け入れることにした。
「はい」
「ダニエルさん、ランラさん、昼食が終わったら出発しよう。これからは用を足す以外、誰が何をするにも皆んなで一緒に行動してもらいたい。また襲われないように」
「ああ。君はかなり慎重なんだな。いいことだ」
「何事も用心に越したことはないからね」
「そうだな」
そう言うと、皆は散開してそれぞれ準備を始めた。
悠樹はふうっと息をついた。
「現実での冒険は嫌いだ」
「うん……そうだね」
「ところで萌花、ズボンは本当にもうないの? じゃあ、おれが買ったのを切って短くして、穿けるか試してみようかな……」
「そんなにスカート嫌なの?」
「……慣れなくて」
「そのうち慣れるよ」
「うーん……でも、今ちょっと走ってみたい」
「あっ!」
萌花は突然思い出した。悠樹の体は再構築され、女の子になっただけでなく、体の傷も完全に消えていたことを。
そしてその消えた傷の中には、かつて右脚に負った古傷も含まれている。
「あの、もしよかったら、私のを試してみますか? 同じく出発前に買ってまだ穿いたことがないものです」
詩織が提案した。
「お!」
悠樹はまた萌花を見て、萌花はまた頷いた。
「ありがとう、令狐さん」
悠樹は小屋に戻り、詩織から借りた白い五分丈のニッカーボッカーに着替えた。それは普通寝る時に穿くものだが、悠樹はスカートよりずっとマシと思っている。
着替えを終えた悠樹は小屋から出て、休憩所の内部を何度か走り回った。
「萌花見て!」
「見てるよ!」
右脚に傷を負って以来、悠樹はこれほど速く走れたことはなかった。
これで萌花と自分を守れて、激しい鍛錬にも耐えられると考えると、彼は喜びを抑えきれず、満面の笑みを浮かべながらどんどん速度を上げていった。長い髪が風になびく。
そして彼は転んだ。
「悠樹!」
萌花と詩織が急いで駆け寄ると、幸い悠樹は膝を少し擦りむいただけだった。
「あはは、なんだか重心が以前と違うみたい。慣れていかないとね」
「もぉ……」
「その、治療させてください」
「うん、ありがとう」
昼食後、悠樹と萌花は立方体の残骸と、切り落とした髪の毛を包んで牛車の荷台に積み込んだ。使い道があるかは分からないが、ここに置いていくのは適切ではないと思ったからである。
その後、彼らの牛車は再び出発した。
休憩所を離れると、アンジェリナの調子も元通りになった。
道中、アリスとアンジェリナが交代で車両の屋根に乗り、前方や周囲に他の団体や猛獣がいないか見張り続けた。
幸運なことに、数日間は何事もなく、天候も良好で、悠樹と萌花は緊張しながらも楽しんでいた。
そして4日目の午後、開けた平原を進んでいる中、車両の屋根にいるアリスが良い知らせを届けた。
「前方数キロ先に掃討隊が見えてきました!」
悠樹と萌花は大喜びで、車両の扉から身を乗り出してアリスが指差す方向へ見た。
彼らのいる場所が少し小高くなっていたため、遠くに蛇行する長い車の列が見えた。そこには様々な牛車と、多種多様な人々の姿がある。
「おおおー!」「やったあ!」
悠樹の張り詰めていた心もようやく緩んだ。
「この数日間ずっとビクビクしてたけど、やっと一息つける」
「ほんとそれだよぉ。あ~あ、もしもっと早く手がかりがつかめてたら、もっとスカーベンジャーさんを募集できたのにね。そしたら怖くないのに」
萌花は少し不満げに両手で頬杖をついた。
「探してる人が出発する前に情報が得られただけでも、十分ラッキーだったよ」
「分かってるよ、分かってるけどさ。でも……う~ん、なんかこう……ねえ?」
「分かるけど」
「着いたらまず教会に行く? それとも……ってああああっ!?」
萌花が突然叫ぶと、皆が彼女に視線を向けた。
何事かと聞かれる前に、彼女はすぐに言葉を続けた。
「教会って言ってて思い出したけど、悠樹、今女の子になったんだから、魔法が使えるようになってたりしない?」
また何かあったかと構えていた皆だったが、ただ萌花のひらめきだけだと知って笑顔が広がった。
「ハハ、あり得るかもな!」
「そうですね、使えるといいですね!」
「それは楽しみだ」
牛車を操縦するダニエル、屋根のアリス、後方を見張るランラがそれぞれそう反応した。
当の本人である悠樹はそれほど浮かれておらず、微かに苦笑いをしている。
「まあ、実は最初からその可能性に気づいてたよ。でもね、萌花。あの日のこと、忘れた? 期待が大きいほど失望も大きいよ」
「ンん――――っ! はぁ……まあそうだね」
萌花は不満そうな顔を見せたが、納得したのか、前回のように期待を煽るようなことは言わなかった。
「まっ、期待せずに鑑定してもらってみるよ」
「うん……そうだ、詩織ちゃん、魔力って感じ取れたりしない? <その人の発するオーラ>みたいな」
「魔法を使っている時は、近くの人がある種の波動を感じることはありますが、そうでない時は魔法使いからそういうものは感じないはずです」
「そうなんだ。じゃあ、魔法使い自身はどうなの? 自分に魔力が残ってるか分からなかったら不便じゃない?」
「魔法使いは波動で自分の魔力を把握するわけではありません。魔力は生命力の一種で、えーっと……うまく説明できませんが、たぶん体力のように、自分に気力が残っているかは自然と分かる感じです」
「なるほどねぇ……うーん……生命力……エネルギー?」
詩織の説明を聞き終えた萌花は、下を向いて何かをぶつぶつと呟く。
「萌花?」
「うーん……」
萌花はしばらくじっと自分の左手を見つめ、そして左腕を前に伸ばした。
悠樹はその様子を見て、中二病少女を見守るような表情を浮かべた。
「………………」
萌花は萌花は一心不乱に集中し、身動き一つせず、まばたきすらほとんどしていない。
「萌花……?」
悠樹は少しおかしいと思った。
ところが数秒後、萌花の左手のひらの前に、銀色に輝く円形のものが現れた。
魔法陣だ。
たちまち、魔法陣の前方に直径60~70センチほどの半楕円形の透明な物質が形成された。それは白を基調とし、僅かな赤、青、緑、褐色、そしてそれらが混ざり合った色が中で漂い、溶け合い、変幻していく。まるでシャボン玉の表面のように、とても美しい。
「……………………………………………………は?」
彼らの牛車は、掃討大隊の列の最後尾に向かって進んでいった。
悠樹と萌花がこの世界に飛ばされ、様々な活動を行っている間、別の場所でも物語が展開されていた――
異世界転移者たち 第1巻 完
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
超長編にする予定なので、必要なものを第1巻に詰め込んだ結果、どうしても文字数がこんなに多くなってしまいました(20万文字オーバー)。
第2巻はこんなにならないと思います(たぶん)。
もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)
もしよければご評価を!




