0072 - 第 1 巻 - 第 4 章 - 14
二人が出てくると、ランラはダニエルとアリスを呼び、皆集まった。
今の悠樹は萌花より背が少し低く、詩織とほぼ同じ背丈。黒に近い濃い青のロングストレートヘアに、丸みを帯びた顔と瞳、長いまつげ、そして細身の体。今着ている萌花の服はやや大きめ。
そんな美少女の姿を見て、彼女が2日前まで身長170センチ以上の男だったとは、誰もが思わなかっただろう。
「本当におなごになったんだな」
「しかもなかなか可愛いぞ!」
ランラとダニエルは笑いながら、悠樹の無事を喜んた。
「あはは……おれも自分で驚いてるよ」
悠樹は苦笑した。
「……いいなあ」
「?」
アリスがなにか言ったようだが、声はとても小さく、皆はっきりとは聞こえなかった。
「あ、猫森さんが無事で、本当によかったです」
「うん。心配してくれてありがとう、アリスさん。それに、あの時はポーションを持ってきてくれたよね。あのポーションもすごく役立ったと思う。本当に感謝してる。ランラさん、ダニエルさんにもありがとう」
悠樹と萌花は三人のスカーベンジャーに深くお辞儀をした。
「そ…そんなに気にしないでください。わたし、ただ自分のすべきことをしただけですから」
「アリスちゃんの言うとおり、それが俺たちの仕事だからな」
「メイジェ城に着いたらボーナス付けるね。アリスさんにはあのポーションのお代も別に渡すから」
「おおお、それはありがたい!」
「ダ…ダニエルさんてば……」
「あ、でもあの薬剤とおれのことは、他の人には言わないで欲しい……」
「誰が信じるんだい」と、ランラが軽く肩をすくめた。
「ああ、言ったら笑いものにされるのがオチだ。ヒマ人だなってな」
「でも、あれは一体なんの薬なんですか」
「それは……」
悠樹は少し考え、あまり他人に詳しく話さない方がいいと思った。
「おれたちにも分からない。実はメイジェ城に行くのは、あの薬の元の持ち主を探すためなんだ。まあ、最初は別の理由だったけど」
「そうなんですね……」
「その人はすごい魔法使いで、聞いたことのない魔法を使ったり、あんな薬を持っていたりする人なんだけど、聞いたことあるかな?」
「悪い、俺は知らない」
「メイジェは嫌な町だ、特に女にとっては。それ以外はあんま知らん。あそこに長くいたことないからな」
「……わたしも……わかりません」
「そうなんだ。でも女にとって嫌な町って、どういうこと?」
「あそこは女に対する扱いがカールズとは違って、男が女をいじめるのを好むんだ。そういう気風だから仕方ないと言うしかない。着いたら気をつけるんだ。なんかあったら守護騎士に頼れ。助けてくれる余裕があるかは分からんが、他に頼れるもんはない。あそこのスカーベンジャーもろくでもない奴が多いからな」
ランラの話を聞いて、悠樹と萌花は詩織が最初にこの世界のことを説明してくれた時のことを思い出した。女性の地位は各都市や国よって違う、と。
二人は出発前に道中の安全や人探しのことで頭がいっぱいで、メイジェ城がどんなところか調べるのを忘れていた。
「分かった……そういえば、あの放火犯の兄弟、メイジェ城出身だった……」
「うん。気をつけないとね」
皆が話していると、アンジェリナが悠樹のそばにやってきた。
アンジェリナはクンクンして、悠樹を見つめてから、またクンクンした。
「……?」
「アンジェリナもおれのこと心配してくれてるの? あ、アンジェリナにもありがとう、助けてくれて」
悠樹がアンジェリナに話しかけると、アリスは少し気恥ずかしそうに苦笑いした。
「えっと、彼女、ちょっと困惑してるみたいです」
「確かにそういう顔だね……首傾げてるし……」
匂いが変わったのか、それとも見た目と匂いが一致しないのか、アンジェリナは目の前の人物が知っている人だとはすぐには断定できなかった。
「ところで、ここが休憩所?」
「ああ。ここはカールズ城とメイジェ城のほぼ中間だ。あと5日もあればメイジェに着く」
「そうなんだ。広いねここ。周りは柵で囲まれてて、中にはこんなに小屋がある。安全な感じがする」
「ああ。休憩所は猛獣対策がしっかりしてるから、基本的に猛獣が入ってくる心配はない」
「猛獣対策……」
この時、悠樹の心に一つの疑問が浮かび、眉をひそめた。
「質問があるんだけど、スカーベンジャーギルドには、野外でスカーベンジャーが犯罪を起こさないようにするための手段はある? もし大きい団体が道中で小さい団体の人を全員殺したら、死人に口なしになるんじゃないか?」
「理論上、その通りだ。ギルドもその問題には頭を悩ませている。いろいろ規則は作ってるが、証拠がない限りはどうしようもできない。<野外で他人を襲うかもしれない>、<野外で人を殺したかもしれない>って理由でスカーベンジャーの移動の自由を奪うことはできないからな」
「っ…………」
悠樹の顔色が変わった。
「ほとんどの人は大団体を探すか、団体を結成して一緒に出発する。それができないなら来月の掃討隊を待つ。君たちのように急ぐ人はめったにいない」
「だから募集するのがあんなに難しかったんだ……」
「いや、あれはちょうど今月残ったやつが少なかっただけだ。普段なら中規模の隊列くらいは組める」
「ん……それじゃあおれたち、人間に襲撃される危険はある?」
「それはそこまで心配しなくていい。人を襲うってことは、こっちのヤクも狙われるってことだ。野外でヤクなしじゃほぼ生き延びれないから、人を襲うなら相手よりずっと人数が多くないとできない。少なくとも牛車を2台以上持ってて、そのうち1台を攻撃専用として、相手に勝てるだけの人数を乗せて差し向けなきゃならない。牛車のコストも高いんだ。そういうのを専門にやってるクズ野郎どもがいないとは言わないが、同じ移動中の団体に襲われることはめったにない。今のカールズじゃそんな規模は組めないし、残ってるスカーベンジャーにも信用できるやつも何人かいるから、後ろから襲われる心配はないよ。野盗なんてなおさらだ。ヤクなしじゃ遠くまで行けないし、俺たちはとっくに野盗の活動範囲を抜けてるからな」
「……なら、メイジェ城の方向から来る団体は?」
「えーと……保証はできないが、それも人を襲うのはめったにないと思う」
ダニエルはそう言っているが、悠樹にはメイジェ城に対するいい印象がない。
「…………今の話だと、休憩所で襲われるリスクの方が高いんじゃないか? 少人数で休憩所を偵察して、勝てそうなら仲間を呼んで襲う。そうすればヤクを守る必要もなくて、絶対有利な状況で襲えるよね?」
それを聞いて、萌花と詩織は不安そうな面持ちになった。
「……猫森さんは頭いいな。その通りだ。だから俺たちはここ2日間、周辺を見張ってた。今のところ人間の気配はない」
「…………それはよかった。けど、早く出発した方がいい。でもこの先は……」
「どうしても不安ならカールズに戻ってもいいぞ。どっちの距離も同じくらいだし。戻る道中でも猛獣に遭遇する可能性はある。その点、前方には掃討隊がいるから、猛獣の群れに出くわす確率は折り返すよりは低い」
「………………」
悪党の隊列に遭遇する可能性は低いが、ゼロではない。フェロジヒェーネの群れに襲われることと同じように。
前進と後退のどちらも悠樹の安全への渇望を満たすことができず、彼は思考に沈んだ。
悠樹と萌花が出発を急いだのは、<例の魔法使い>らしき人物がメイジェ城を去る前にそこに着き、その人を見つけるためだった。
カールズ城に戻って来月の掃討大隊に参加するのは、どうしても間に合わない。このチャンスを逃したら、悠樹と萌花は最初のあの大海原で針を探すような状態に逆戻りだ。
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