0070 - 第 1 巻 - 第 4 章 - 12
スカーベンジャーたちはまだ入り口の近くで待っていて、詩織が出てくると、ダニエルとアリスが駆け寄って訊ねた。
「どうなった?」
「猫森さん、本当に女の子になったんですか?」
「はい、そうです。さっき白い物体から出てきまして、それに元気そうでした。はっきりとは見ていませんが、お二人は確かにそう言っていました」
「ワォ! そんなことあるんだ!?」
「…………」
「その、それで今から、猫森さんのおへその緒を切ります。他にも処理することがあるかもしれませんので、出てくるのはもう少しかかりそうです」
「ああ、分かった」
「はい」
「それでは、私は水を汲んできますね」
「それなら、俺はもうちょっと寝ておくか。アリスちゃんは?」
「……え? あ、うん。私ももうすこし休もうかな」
「姐御、猫森さんが出てきたら大声で呼んでくれ」
「ああ」
スカーベンジャーたちとの会話を終えた詩織は、桶に入っていた水を近くの草むらに撒くと、井戸でもう一度水を汲み、悠樹と萌花が待つ小屋へと戻っていった。
萌花は自分の手と、これから使うハサミや綿糸などの道具を簡単に消毒した。
カールズ城を出る前に服の補修用として買っておいた針と糸が、こんな形で使われることになるとは誰も予想しなかった。
悠樹と同様に、萌花も課外の知識を少し学んでいた。悠樹が自衛術や雑学を中心に学んだのに対し、萌花は人体や医療の知識に関心がある。
ちょうど彼女は以前、新生児の臍帯を切る動画を観たことがある。だから今、この場でその作業を行うのに最も適任なのは彼女だ。
彼女は悠樹を床に座らせ、脚を開かせた。それから両脚の間に布を敷き、床や悠樹の下着が汚れるのを防ぐ。
さらに別の布から小さな布切れを作り、臍帯の悠樹側、根元から数センチ手前に巻きつけ、糸でしっかりと何重にも縛った。これによって、悠樹と立方体の間の物質交換を断ち切れるに加え、切断作業がしやすくなる。
この臍帯は、真の意味での新生児の臍帯より質感が硬く、ねじれはしていないが、少し曲がっていた。全体的に少し薄いプラスチックの柔らかい管のようだが、今では中身がほとんど空になったのか、しぼんでいる。
「まさか、私の手で悠樹のおへその緒を切る日が来るなんてね……」
「ほんとだよ……」
「詩織ちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
「はい、わかりました」
萌花は悠樹と詩織に手順を説明した。
三人が準備を整えると、萌花は「じゃ、切るね」と合図を送り、作業を始めた。
悠樹は両手で服の裾を持ち上げ、俯いて萌花の作業をじっと見ている。
萌花は左手で布を巻いた部分を軽くつまむと、右手に持ったハサミを臍帯の根元へあて、一気に切り落とした。
臍帯が切断されると、詩織はすぐに悠樹のおへそ部分に『ヒール』をかけた。
その間、萌花はハサミを置いて、悠樹のおへその中に人差し指を入れ、形を整え始めた。新しいおへその形もきれいになるように。
10秒ほどして『ヒール』が終わると、悠樹のおへそが塞がった。萌花は濡らしたタオルでその中や自分の指についた暗赤色のものを拭き取り、仕上がりを確かめた。
「えへへ! かわいいおへそぉ~!」
「うーん………………ありがとう、令狐さん」
「いえ」
「立てる?」
「ちょっと試してみる」
悠樹はそう言って立ち上がり、脚を軽く振ったり片脚立ちをしてみた。
「問題なさそう」
「そう? よかった。じゃあ、次は髪切っちゃう?」
「うん、全部切っちゃって」
「ダメぇ! せっかく女の子になったんだから、この長い髪、絶対伸ばすの!」
「ええええー」
悠樹は抗議する。そして萌花はそれを却下した。
彼女はいそいそとハサミや手を洗って水気を拭き取り、満面の笑みを浮かべて、どんな髪型にしようかと張り切っている。悠樹はその様子を見て、ふとあの日、詩織が感じた気持ちを理解した。
結局、使える道具が限られていたことと悠樹の強い希望で、髪型は普通のロングヘアに落ち着いた。
床につきそうだった長さは腰のあたりまで切り揃えられ、前髪は以前と同じように整えた。
「うん~! うん~! 悠樹かわいい!」
「……や…やめて……」
「ニヤけてるよ~?」
「おのれー!」
二人がまたふざけ合っているのを見て、詩織も思わずくすくすと笑い声を漏らした。
「でも、見た目はなんの問題もないみたいだね。よかった」
「そうだな。あの時はもう<たとえ腕がなくても脚がなくても生き延びてやる>って覚悟もしてたんだけど」
髪が短くなったことで、悠樹の体に外見上の異常が何もないことがはっきりした。まさに健康そのものの少女の姿である。
悠樹は萌花のバッグから手鏡を取り出し、今の自分の姿を映した。
「……」
「元の顔と似てるね」
「そう……だけど……知ってる顔のような、そうじゃないような」
「私は気にしないよ? むしろもっと可愛くなったし! もともと悠樹の話し方は男の子っぽくなかったから、女の子の声でも全然違和感ないよ」
「はいはい」
それはきっと、悠樹が幼い頃から萌花と母親の影響を受けて育ったからだろう。
「それじゃあぁ~これから萌花おねえちゃんが悠姫ちゃんの体、隅々までチェックしちゃうぞぉ~! ぐへへ~!」
萌花はまるで獲物を狙うかのように、両手をイヤらしい動きをさせながら悠樹に近づいていく。
「やっ…やめろー!」
「あ…あのっ! そ…それではわわわ私先に外に出てますね!」
詩織は顔を真っ赤にして、その場から逃げるように去っていった。
その後、萌花は悠樹をすっぽんぽんに脱がし、頭のてっぺんから足の先までその新しい体をくまなくチェックした。
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