0067 - 第 1 巻 - 第 4 章 - 9
【全体】
皆が見守る中、説明書の記載通り、溶解した悠樹は再構築を開始した。
彼の骨は質感と形状を変え、ゆっくりと結合しながら、約1立方メートルの角の丸い白色の立方体を形成し、泥状になった肉体を包み込んでいった。衣服や装備は立方体の外に排除されている。
立方体が形成されると、それ以上の動きは見られなくなった。
「…………現実なのか? これ」
ダニエルは両手で頭を抱え、そう呟いた。
この一部始終を目の当たりにしたにもかかわらず、皆すぐには完全に信じることができなかった。特に魔法への理解が比較的浅いスカーベンジャーの三人。
萌花が立方体とその周囲を仔細に観察すると、悠樹の防具に付着していた血痕がすべて消え、残っているのは裂けた箇所だけであることに気付いた。足元に広がっていた薄い血の痕や、車両に付いた汗の跡もすっかり消え失せている。周辺は異常なほど清潔だった。
吸収されたの……? と考えながら、萌花は立方体に近づき、指先でそっと触れてみた。しかし、何の反応もない。
次に耳を立方体に押し当ててみると、内部で何かが動くような音が聞こえ、温もりも感じられた。立方体の質感は骨そのもののようで、滑らかかつざらついている。
「悠樹……生きてる」
目の前の状況に、ダニエルは頭を掻く。
「これからどうする? 説明書通りなら、数十時間は待たなきゃいけないんじゃ」
「オレは道を急いで休憩所まで行ったほうがいいと思う。あそこは安全だ。今出発すれば、日が沈む前には着けるはず。説明書に“ある程度の揺れには耐えられる”と書いてあった。牛車の揺れくらいなら問題ないじゃないか?」
萌花としては悠樹にできるだけ影響を与えたくはなかったが、もしまた猛獣に襲われれば、悠樹も危険に晒されるかもしれない。
「……うん」
彼女は少し考え込んだ後、ランラの提案に同意した。
そして皆は立方体の左、右、下、後ろの4面にクッションを括り付け、衝撃対策を施した。その後、荷物を整え、休憩所へと出発した。
道中、萌花は立方体を抱きしめ、その温もりを感じながら、自身の体で衝撃を和らげた。ダニエルとアリスは交代で牛車を操縦し、速度を落として進み、道の凹凸を避け、車体の揺れを最小限に抑えるよう細心の注意を払った。
速度を落とした分、途中の休憩時間も短縮し、日暮れ前に休憩所に到着できるよう調整した。
前日と同様に、道中で猛獣に遭遇することはなかった。
やがて、一行は無事に夕暮れ時に休憩所の前に到着した。
ダニエルが「俺たちが中を確認してくるから、ここで待っててくれ」と言うと、ランラと協力してバリケードをどかし、休憩所の中に入っていった。
休憩所内は広々とした平地で、周囲は腰ほどの高さの柵で囲まれていた。入口には柵に加え、先を尖らせた木材を交差させて組んだ大型のバリケードが2つ設置されている。柵もバリケードも、非常に頑丈な木材でできていた。
休憩所の周囲には、都市の周りと同じような植物が植えられている上、<獣除け剤>が大量に撒かれていた。その匂いは人間にとっては少し酸っぱく臭うだけだが、嗅覚の鋭い猛獣にとっては耐え難い悪臭で、自然と近寄ってこなくなる。
アンジェリナは脱感作訓練を受けていたため、激しい反応はない。だが、休憩所に来るたびに嗅覚が鈍くなる。匂いが強烈な時は前足で鼻を押さえ、地面に伏せてしまう。アリスもこのことについてはどうしようもない。
休憩所は正方形に整えられた区画で、中央には井戸がある。井戸水は澄み切って清潔だ。人々は木の桶と滑車装置を使って水を汲み上げ、休憩所を離れる際には蓋を閉める。
井戸を時計の中心に見立てると、休憩所の入口は6時の方向に位置している。12時、3時、9時の方向にはそれぞれ2軒の大きな木造の小屋があり、合計6軒が建っていた。
小屋は切妻屋根の平屋で、壁の各面には柱と2つずつの窓がある。窓は竹で組まれた格子窓で頑丈に作られており、大型猛獣の襲撃にも耐え得る構造だ。
小屋の内部はがらんどうで、開閉式の窓板以外の家具や生活用品は一切ない。スペースは約50平方メートル、30人が同時に体を伸ばして寝ることができる広さで、通常は男女別に使用される。
<休憩所>は安全性が高く、広々としているため、掃討大隊が利用する際には、一部の者が小屋に入り、それ以外の大半は広場にキャンプを設営するのが通例である。
そのため、休憩所内には木製の棚やテーブル、椅子などが多く見られ、干し草を保管するための専用の小屋もあった。規模はまるで小さな村のよう。実際、多くの村がこのような休憩所から発展していった。
ランラとダニエルは休憩所内をくまなく点検し、異常がないことを確認すると、牛車に戻って他の者たちを中へ案内した。
最後にバリケードを元の位置に戻す。
「これで今夜は安心だ」
「雇い主の嬢ちゃんと魔法使いの嬢ちゃんは好きな小屋で休んでくれ。他のことはオレたちに任せておけばいい」
ランラの言う“オレたち”にはアリスも含まれている。<休憩所>は安全だが、万一に備え、夜間は見張りを立てる必要があった。
「分かった……」
萌花は12時の方向にある右側の小屋を選び、詩織も萌花に付き添うために同じ小屋にと。ダニエルとランラは慎重に立方体を運び、小屋の左側の壁際に安置した。
立方体の中には依然として生命の気配が感じられる。悠樹が中から出てくる時のことを考慮し、立方体に取り付けられていたクッションと縄は外された。
その後、アリスはヤクの世話に向かい、ダニエルは夕食の支度を始め、ランラは休憩所周辺の灯火に火を灯した。
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