0060 - 第 1 巻 - 第 4 章 - 2
この日の夕方、彼らは木材で組み立てられた簡易のシェルター的なものを見つけた。悠樹が「ここは?」と尋ねる。
「ここは『臨時休憩所』だ。主要な道でも脇道でも、道沿いにはこうした臨時休憩所がある。先達が自分たちの必要に迫られて作ったものだが、後から通る者なら誰でも使える。今夜はここで過ごそう」
ダニエルが答えた。この臨時休憩所は状態がよく、風を防ぐことはできないが、雨しのぎにはなる。内部には干し草が敷き詰められており、牛車の床で寝るよりは快適だ。
夜が訪れた。各自が準備を終えると、石で組まれた簡易かまどの周りに集まり、決して美味とは言えない食事のできるのを待っている。
彼らが使っている鍋は、半分に割った鉄桶のような形状で、基本的に煮るか蒸すかしか調理方法がない。鍋の中でグツグツと泡が立つ様子を眺めながら、悠樹は三人のスカーベンジャーに質問を投げかけた。
「そういえば、これみたいな煮込み鍋とかフライパンとか以外、他にどんな調理器具があるの?」
「あとは焼き串とか?」
「沿海のあの大国には陶器の鍋もあるんじゃなかったか」
「へー~そんなのもあったんですか? 知りませんでしたよ」
ダニエル、ランラ、アリスがそれぞれ答えた。
「そうなんだ」
この世界の料理や調理法はどうやらかなりシンプルなようで、最初の新鮮味が薄れると、悠樹と萌花は地球の美食を懐かしむようになっていた。
悠樹はため息をつき、周囲を見回す。
ここはさほど広くない空き地で、簡易かまどを囲むようにして8つの石の腰掛けが置かれていた。
「あれ? さっき、この臨時休憩所は先人たちが建てたって言ってたけど、あの先人たちとは自分で出発したグループのことだよね。じゃあ、掃討隊が使える休憩所はある?」
「ははは、もちろんあるよ。ここが『臨時』って呼ばれてるのは、本格的な『休憩所』ってのがあるからさ。オレたちスカーベンジャーは昼は移動し、夜は見張りと焚き火の番を交替でやる。それに何より、雇い主の安全に気を配らなきゃならない。10日や20日もかかる道中だ、ひとつふたつは羽を伸ばせる休憩所がなきゃやってらんないよ」
掃討大隊は人数も物資も多いため、ほとんどの場合は道路上に直接キャンプを張る。けど、休憩所がある場所に着けば、もちろんそこを使う。
「ああ。ベッドや布団はないけど、休憩所には屋根付きの建物があるんだ。周りにも猛獣除けの対策が色々してあるから、安心して寝られるよ。ちょうどこの道を進んでいけば、明日の夕方には休憩所に着くはずだ」
「おおおー」「やった!」
ダニエルの補足に悠樹と萌花は期待の声を上げた。
その時、アンジェリナが悠樹と萌花の背後をすり抜けるようにして通り過ぎ、アリスの傍らに戻るとごろんと横になった。呼吸に合わせてゴロゴロと音を立て、その仕草はまるで大きな猫そのもの。
アンジェリナはこれまで周囲を巡回し、近くに危険な気配がないか確認していたのだ。
今度は萌花が気になることを聞く。
「ねえ、アリスさん。猛獣使いの戦い方って、猛獣を指揮して戦わせること?」
「そうですよ」
「でもアリスさん、アンジェリナだけ連れてる」
「はい、猛獣使いは普通、何頭か調教した子を連れて仕事します。でも私はその能力が高くないので、アンジェリナだけが傍にいてくれるんです。だからこういう小道具にも頼って、自分も雇い主さんも守ってるんです」
そう言うと、アリスはどこかの袋から卵を加工したようなものを取り出した。
「例えばこれ。中にはラーカーの実の粉と獣除け剤を混ぜたものが入ってます。卵の殻はとっても脆いから、猛獣に投げつければパッと割れて、中の粉が目や鼻に入って猛獣が慌てます。その隙に仲間が動けるってわけですよ」
ラーカーの実は、地球で言うところの唐辛子に相当する。形状や分類は異なるが、使い道はほぼ同じだ。
「へ~~すごい!」
悠樹が「これは猛獣特化の唐辛子スプレーの固体版か」と思いながら聞いていると、ダニエルも会話に加わってきた。
「アリスちゃんは謙遜しすぎだ。チームでの働きは並みの猛獣使いよりずっといい。ランクはまだ『戦士』だけど、俺の中じゃバッチリ『精鋭』だぜ」
「全部アンジェリナのおかげだよ」
アリスは照れくさそうにそう言うと、傍らのアンジェリナを撫でた。アンジェリナは気持ち良さそうに尾をゆっくり振った。
「そうなんだ。アリスさんはすごいね。ねえねえ、他になにかある~?」
萌花が興味津々でさらに問いかけ、アリスはさっきの卵をしまって、別の袋から細長い木製の笛を取り出した。
「じゃあこの笛ですね。いきなり大きな音を出すことで猛獣をびっくりさせられますから、同じくチャンスを作れるんです。それに、仲間たちと別行動やはぐれた時には、これで居場所を知らせ合うこともできますよ」
「うんうん!」
アリスは笛をしまうと、別の袋からもう一つ袋を取り出し、紐を解いて中身を見せた。そこには十数個の黒い塊が入っている。
「これは毒入りの干し肉です。レストランの残り物の動物の内臓を乾燥させてから、特殊な溶液に漬けてもう一度乾燥させて作ったものです。干し肉の香りは猛獣の注意を引けます。人間には毒性がありません。でも猫系や犬系の猛獣には猛毒なんです。その猛獣たちが食べると数分で死んでしまいます。ちなみに、私が自分で考え付いたものですよー」
「へぇ~~~すごーい!」
「えへへー!」
やがて食事も煮上がり、皆はその美味しいとは到底言えない夕食を食べながら、なおも会話を楽しんだ。
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