0056 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 23
翌朝、皆はカーリンが改良したミルクティーを飲みながら朝食を共にしている。
「あの……猫森さん、百合園さん。私……お二人に話したいことがあります」
詩織はいつの間にか杖を握りしめ、はっきりとした口調で二人に話しかけた。
「私、退席した方がいいかしら」
「いいえ、ライナさんにも聞いて欲しいです」
「あら、そうですの」
「なに? 詩織ちゃん」
「あの……お願いがあります。私もお二人と一緒にメイジェ城へ行かせてください!」
「「えっ?」」
萌花と悠樹は一瞬、詩織の言葉が理解できなかった。
「令狐さん、どういうこと?」
悠樹はまたカーリンの前で詩織を苗字で呼んだ。詩織も悠樹と萌花を苗字で呼んでいたため、カーリンは「この方たちは親戚ではありませんでしたかしら?」と不思議に思う。
悠樹の疑問に対し、詩織の声には力強さはなかったが、引く気配は見せなかった。
「その……お二人はようやく手がかりを得たなのに、水の魔法使いの同行がないからと、メイジェ城に向かうに向かえないでいます。ですから……」
それを聞いた悠樹は微かに眉をひそめる。
「だから、おれたちに加わって、出発できるようにしてあげたいってこと?」
「……はい……」
「そういうのしないで、詩織ちゃん。詩織ちゃんの親切心は知ってるけど、そんなことするのは危ないよ。ていうか、私たちを助けるためにそこまでしてくれる理由ないじゃない」
「そうだよ。それにアトリエの再建はどうなるの?」
萌花と悠樹は代わる代わるに、詩織の提案が現実的でないことを諭す。
「わ…私っ!」
詩織は突然声を大にし、杖を握る手にさらに力を込めた。
その様子に悠樹、萌花、そしてカーリンは大変驚いた。こんな詩織を見たことがなく、すごく意外だと。
「私は……ただお二人を助けたいだけではありません。私にも……目的があります」
「目的?」
「はい。私は…………」
詩織は言いかけて言葉を止めたが、何かを決意したように続けた。
「私は……お二人ともっと長く一緒にいたいのです」
「へっ?」「詩織ちゃん……」
再び、二人は予想外だと思った。
「私……この数日間色々なことを考えました。私自身のこと、アトリエのこと、そしてお二人のこと。お二人がうちに来てからこの1ヶ月、私はたくさんの新しいものを見て、たくさんの知識を得ました。時には一緒に考え、時には一緒に働き、時には一緒に遊んでいました……お二人と一緒にいる毎日が、とても楽しかったです。ですから……もっとお二人と一緒にいたいと思っています。それに、お二人の今後のことがとても気になります。お力になりたいです。それと、もしかしたら私も両親のことを調べることができるかもしれません。ですから、その……ど…どうか私を同行させてくださいっ!」
詩織の真剣な言葉に、悠樹はどう返事をすればよいかを考えている。
そして、なんとも言えない呆けた表情で聞いていた萌花は、細い腕を悠樹の肩にガバッと回すと、男の子同士のするように組み、テーブルに潜り込ませるようにして顔をぴったり寄せた。詩織やカーリンに聞かれないよう、ヒソヒソ話をするために。
「どうしよう、悠樹。詩織ちゃん可愛すぎて抱きしめたいんだけど」
「我慢して……」
「じゃあ、悠樹はどう考えてるの?」
「彼女がここまで言ったんだから、反対する理由は特にないけど……アトリエはさすがに問題だよ」
「そうだね……」
ヒソヒソ話が終わると、二人は何もなかったかのように元の位置に戻った。
その奇妙な行動は、カーリンのこの二人への認識を改めさせられた。
「詩織ちゃん、私たちも一緒に行けたらいいなとは思ってるよ。でも、アトリエはどうするの?」
「あ、はい! アトリエは貸し出そうかと思っています」
萌花の言葉から同意の意向を感じ取った詩織の声は、明らかに明るくなった。
「貸し出す? まだ再建してないよ?」
「はい。ですので、もし私も同行することになれば、行政センターに依頼して、アトリエの再建監督と賃借人探しの契約を結ぶつもりです」
「そんな業務もあるんだ……」
「はい。ですがその前に、ライナさんに相談したいことがあります。ライナさん、あなたは店舗を探しているようですが、もしよろしければ、私がお貸ししたいです。そして賃貸の代わりに、アトリエの再建の監督と、私が不在の間、アトリエを管理してもらいたいです。アトリエを通常の範囲内で使ってもらって構いません」
カーリンはしばらく考えてから答えた。
「うーん……私のミルクティーの商業化計画は始まったばかりで、まだいっぱいステップが残っています。私だけの店舗を探すのは急ぎではありませんし、商会の店舗を直接利用する選択肢も視野に入っておりま……すけれども、貴女のご提案は私にとっても非常に魅力的ですわ。私のコストを削減できる上に、運営の自由度が増し、貴女のアトリエも営業状態を維持できるなんて、一挙両得ですわ。ただ…………」
カーリンは言葉を濁した。彼女の表情は、言葉と比べると喜んでいるようには見えない。
「ただ……なんでしょう?」
「いいえ、何でもありませんわ。もし再建するアトリエが元のように全木構造にした場合、工期が私のスケジュールとシンクロするかもしれません……ええ、是非詳しく話し合いましょう」
「分かりました! ありがとうございます! ライナさん!」
詩織は満面の笑みを浮かべ、皆が彼女の心からの嬉しさを感じ取れる。そんな詩織を見て、悠樹と萌花も安心した。ただカーリンだけは複雑な心情を抱え、微かに苦笑いを浮かべている。
「よしっ! これでメイジェ城に行って人を探せる! おれたちもありがとう、令……詩織。すごい助かる。あ、でも、ここに連れて帰ることはできないかもしれないよ」
「分かっています!」
「まだ一緒に遊べるね、詩織ちゃん」
「はいっ!」
「じゃあ善は急げ。萌花、すぐケンさんにその母娘の具体的な位置を聞きに行こう」
「うん」
悠樹と萌花は残りの朝食をさっと食べ終えた。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね、詩織ちゃん」
「はい」
そしてカーリンの護衛のケンを探しに行った。詩織とカーリンもアトリエの事務について話し合いをし始める。
こうして、皆の一日中の話し合いを経て、事はほぼ決まった。
皆の禁足期間はあと4日。禁足が終わり次第悠樹と萌花は出発し、詩織はそれに同行する。
詩織のアトリエはカーリンに貸し出し、賃貸料は取らない。
アトリエの再建作業や、詩織がカールズ城を離れている間のアトリエ管理はカーリンが代理する。
カーリンはアトリエを通常の範囲内で商業活動に使用できるが、顧客や他の人に誤解を与えないために、アトリエの看板は元の<令狐>を使用し、最低限のアトリエ経営活動を行わなければならない。
水の魔法使いが加わったことで、悠樹と萌花はスカーベンジャーを募ることができるようになった。
夜、カーリンの部屋で。カーリンは机の上の蝋燭ランプの明かりを借りて、ミルクティーの商業化に関する資料を見ていたが、心ここにあらずだった。
そんなカーリンを見て、ポーラはため息をつく。
「……本人が決めたことだよ」
「……ッ! れ…令狐さんのことを気にしておりませんわ!」
「……超気にしてんじゃん」
「ううぅっ……」
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