0055 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 22
カーリンとポーラは執務室に戻った。悠樹、萌花、そして詩織の三人は客間で休んでいる。
「まさかミルクティーの作り方がこんなに高く売れるなんて! 昔、作り方を覚えておいて本当によかったよ」
萌花は満面の笑みになっている。
ミルクティーの作り方は、二人が以前、ふと自分たちで作って飲んでみようと思い立って覚えたものだったが、今では思わぬ収入となった。
「そうだね。このお金があればできることも増える。スカーベンジャーギルドに人探しの依頼を出すとか」
「うん。でも、本当に効果あるの? 20年前の人を探すなんて、どうやって人が教えてくれる情報が本物か判別する?」
「うーん……確かに難しい問題だ。それに<あの人>の外見的な特徴も知らないし、ただ当時7、8歳くらいの白髪の娘がいたってことしか……」
――「えっ?」
「へ?」
客間のドアの近くから誰かが疑問を含んだ声を上げ、三人は反射的にそちらを見る。
そこには一人の男性が顔を覗かせて彼らを見ていた。
「ああ、すまん、盗み聞きするつもりはなかったんだ。あ、です」
男性は申し訳なさそうに頭を掻く。
「あなたは……ライナさんの護衛さんですよね」
「そうです」
この青年の男性は20代後半に見え、カーリンの護衛を務めている。
普段はカーリンが外出する際は後ろに付き従って陰から守り、家の中でも彼女の近くで待機している。
彼ともう一人の護衛はしばらく前に用事で休暇を取っていたため、ライナ会長が短期間だけダニエルとランラを雇っていたが、数日前に護衛が戻ってきた。
「ケンです。さっきの会話、ちょっと知ってる人に似てるなあって、つい……」
「えっ!?」
悠樹と萌花はパッと目を見開いた。
「く…詳しく教えてもらえませんか?」
悠樹はケンを席に招き、ミルクティーを一杯注いで渡した。
「おっ! これがミルクティーってやつか、うまいな! あ、です」
「かしこまらなくていいですよ。それでケンさん、今の話はどういう……」
「んじゃあそうさせてもらうよ。君らが探してるのは20年前にこの町に住んでた人か?」
「はい」
悠樹は頷いた。
「母と娘か?」
「はい!」
悠樹はさらに強く頷いた。
「娘は当時7歳くらいで、銀白色の髪をしてた?」
「はいっ!!」
悠樹はより一層力強く頷いた。萌花は口元を手で押さえ、信じられないような顔をする。
もしかして手がかりが!?
と、二人の胸にはこうした強烈な予感が湧き上がった。
「じゃあ多分間違いないだろう。彼女たちは俺の親戚だ。君らは彼女たちになんか用があるのか?」
悠樹と萌花は望外の喜びになり、悠樹がまた高ぶって立ち上がった。
「すっっごく大事なことがあって、そのお母さんに会いたいんです! 彼女たちは今どこにいるんですか?」
ケンは悠樹の勢いに少し圧倒された。
「い…今はまだメイジェ城にいると思う」
「メイジェ城って、このカールズ城の正方向の次の町ですか?」
「ああ、そうだ」
「悠樹!」
「うん! よかった……本当によかった!」
二人がこの世界に来てもうすぐ1ヶ月、ついに召喚者らしき人物の手がかりが現れた。
萌花は胸を躍らせ、悠樹も内心の高ぶりを強く抑えている。二人の心臓はドキドキと高鳴り、目の端に涙がじわりと滲んだ。
「君らは彼女たちを探しに行くのか?」
「あ、はい」
「ん、そうか。なら急いだほうがいいかもしれないな。俺はちょうどメイジェ城から帰ってきたんだが、あそこで彼女たちに偶然会ったんだ。もうすぐ北へ行くって言ってたぞ」
「ええッ!?」
「彼女たちは旅が好きでさ、俺もあまり連絡を取ってないんだ。先月はたまたま会っただけで、来月には掃討隊と一緒にフェンスビ央国に行って、その次の月にはフェンスビから北へ向かうって言ってた。どこに行くかまでは知らん。正直、そんなに親しくないから、もう会うことはないかもな」
「来月の掃討隊……」
悠樹の顔が一瞬で曇った。
「あの……そのお母さんは魔法使いですか?」
「俺のおばさん? いや、魔法使いじゃないよ。たまに自分で描いた魔法陣の絵を売ってるけどな。飾り用の。結構綺麗な絵だぜ」
「っ!!」
「魔法使いはイトコのほうだ。火の。彼女、寒い北の地で火の魔法と関わりのある仕事をしてみたいって言ってた。どうだ、君らが探してる人か?」
「……おそらく、そうだと思います」
「そうか。じゃあ、探しに行くなら早めに出発したほうがいいぞ」
ケンはそう言って立ち上がった。
「他になにかあるか? ないなら俺はこれで失礼するよ」
「あ……はい……今のところは大丈夫です。でももしあとで質問があったらまた聞いてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」
そう言ってケンは部屋を出ていった。
「悠樹……どうする?」
「うーんんん………………」
萌花の問いに対して、悠樹は長い思考の末に自分の考えを出した。
「特徴がここまで一致してるなら、間違いないだろう。特に<魔法陣を描く>ってところがね」
「うん……さっきの人は彼女が魔法使いじゃないって言ってたけど、単に知らないだけでしょ。新元素の魔法使いなんだし」
「彼女たちは今、次の町にいる。距離的にはそこまで近いわけじゃないけど、今はまだおれたちが手の届く場所だ。だけど、来月の掃討隊が出発すれば彼女たちはそこを離れてしまう。おれたちもその時間になってから出発したら、もうどうやっても追いつけないかもしれない……」
「私たちだけで行くの? でも……」
「うん……今日、ギルドに聞いたばかりだ。今はグループも水の魔法使いもいない。水の魔法使いがいないと出発できない……うーんん………………」
「うーんん………………」
二人は深く眉をひそめた。
詩織とカーリンは水の魔法使いではあるが、彼女たちには二人と一緒に次の町まで同行する理由も義務もない。なので、二人には<詩織やカーリンに助けを求める>という選択肢はないのだ。
手紙で連絡を取ろうにも、一般の手紙も掃討大隊によって運ばれるため、今から書いても間に合わない。
手がかりがそこにあるのに、何も行動ができない。この焦燥感が二人を苛む。
夕食時、二人が上の空だったため、カーリンが尋ねた。
「今夜の料理は、お二方のお口に合いませんでしたかしら?」
「あ、いえ…………実は……」
悠樹はカーリンとライナ会長に事情を説明した。
「そうですのね……申し訳ございませんが、水の魔法使いに関してはどうしてもお力にはなれませんわ」
「いえ、そんなこと言わないでください。分かってますから」
夕食後、何も解決策が思いつかないまま、二人はしょんぼりと部屋に戻り、休むことにした。
読んでくれてありがとうございます。
もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)
もしよければご評価を!




