0053 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 20
【全体】
翌日の朝、悠樹と萌花はスカーベンジャーギルドへ相談に出かけた。一方、詩織とカーリンは客間で紅茶を飲みながらくつろいでいる。
「令狐さんはすぐにアトリエを再建するおつもりでしょうか?」
「……はい、そう考えています」
「それなら、ぜひ私にご紹介させてくださいまし! 当商会は良い関係を築いている建設業者がいますわ。私から紹介すれば、仕事が早くて丁寧なだけでなく、費用も割引していただけますのよ」
「そうですか。では、ぜひよろしくお願いします」
「分かりましたわ! 設計者には安全面を特に重視するように伝えておきますわね」
詩織が同意すると、カーリンは微笑みながら嬉しそうにテーブルの上の紅茶を取り、一口すすった。
「安全……あの、ライナさん。一つ聞いていいでしょうか」
「もちろんですわ。どうぞ」
「あの時、私のことが心配だから、うちのアトリエを買い取って一緒に経営したいと言っていました。どうして私のためにそこまでしてくれようとしたのですか?」
カーリンは紅茶のカップを持つ手が思わず震え、紅茶がこぼれそうになった。
彼女は急に緊張し、目をキョロキョロさせながらも詩織の目を見られなかった。声も上ずり、震える手で持ったカップとソーサーがカタカタと音を立てる。
「そそそそそそソレはぁー……!」
傍らにいたポーラが心の中で「こんなに早くチャンスが来るとは思わなかった」と思った。
「お嬢様に代わって、この質問にお答えさせていただきます」
「ポっ…ポーラ!?」
「令狐さま、カーリンお嬢様とは学舎時代の同期だったことをご記憶でしょうか?」
「はい、もちろんです。ポーラさんも……そうでしたよね」
「はい。当時、私とお嬢様は同じクラスで、令狐さまは隣のクラスでした。その頃、お嬢様は常にクラスで一番の成績でした。しかし、算数以外の科目では、令狐さまにわずかながら及ばず、そのことをお嬢様は非常に気にしておりました。寝ても覚めてもそのことばかりを考え、執着と言っていいほどに」
「ちょっとッ!? それはさすがに言い過ぎですわよ!」
「お嬢様は一方的に令狐さまをライバル視しておりました。テストで少しでも令狐さまより点数が良ければ、2日間は家族に自慢して回るほどでございました。そのような行動は卒業まで続いたのです」
詩織は笑みを浮かべた。一方カーリンは顔を赤らめ、恥ずかしそうに視線を外す。
「卒業後、私たちには接点がありませんでした。その2年後、令狐さまとお嬢様は同じ時期に魔法回路の鑑定を受け、偶然にもお二方とも水の回路を持ち、水の魔法使いになられました。そのため、お二人は教会の教室で魔法の知識を学ぶことになり、再会しました。最初、お嬢様は昔と変わらぬ態度でしたが……」
「……もういいですわ、ポーラ。これからは私が話しますわ」
カーリンは紅茶を置いた。さっきより緊張していないように見える。
ポーラはそんなカーリンを見て、少し安心したように微笑んで「かしこまりました、お嬢様」と、一歩下がって元の位置に戻った。
「……ポー……彼女が言った通り、教会で魔法の知識を学び始めたばかりの頃は、私は一方的に貴女をライバル視していて、さらには嫉妬さえしましたわ。貴女は勉強もよくできて、魔法の才能もとても優れていましたから。学舎時代と違うのは……商人の娘として父から教育を受け、表情や気持ちを隠すことを学んだことです。そしてその時、私は貴女も……何かを隠しているのではないかと疑っていましたの。例えば、成績が良いのは何か手を使ったのではないか、裏で他人を見下しているのではないか、そしてその善良な顔は偽装なのではないか、などと。ですからその頃、私は貴女をよく観察して、何かしらのしっぽを掴もうとしていましたの。申し訳ございませんでした」
「えっと……」
カーリンは椅子に座ったまま、上半身を少し傾けてお辞儀をし、謝意を示した。詩織はこれにどう反応すればいいのか分からない。
「しかし、長い間観察するうちに、貴女の成績の良さは純粋な勉強熱心さから来ていると分かりましたの。そして頭脳も才能も優れた貴女が、私のように人を見下すことなく、とても純真で優しく、常に人を助けていたことも。それがはっきり分かった時、私は自分が恥ずかしくてたまりませんでしたわ。それから私は反省し、性格の悪いところを一部直しました。貴女のおかげで、私の性格がより悪くならなかったと言えますわ」
カーリンは苦笑し、そばでポーラが目を閉じてカーリンの話を聞きながら、微笑んでゆっくりと「うん、うん」と頷いていた。
「そんなことがあったんですね……」
「ええ。その後、本当は貴女と良い関係を築きたいと思っていたのに、恥ずかしさからなかなか言い出せずにいましたわ。魔法の基礎コースもあっという間に終わり、私たちはまた接点を失ってしまいました。そして2ヶ月前、貴女のことを耳にしまして、助けたいと思いましたの。それにもし可能であれば……貴女と……お…お友達になりたいと……」
カーリンは言葉を続けるうちに、次第に詩織の目を見られなくなり、最後には頬を赤らめた。その様子はとても少女らしい。
「私はただ勉強が好きなだけで、ライナさんが言うほどいい人間ではありません……」
詩織の言葉に、カーリンは腰に手を当て断固たる口調で言い切る。
「いいえ、貴女は素晴らしい方ですわ。商人の娘として、さまざまな方を見てきましたけれど、貴女のような方は本当に稀な存在ですわ。ご自分を過小評価しすぎですわよ」
「……」
詩織は幼い頃から周りの人々に愛され、賞賛を受けることが多かったが、面と向かってここまで肯定されたのは初めてなので、少し恥ずかくなっている。
「……こっ…これが私の理由ですわ」
「はっ…はい!」
ポーラは表情でカーリンに「今よ!」と示唆した。カーリンもこれは貴重なチャンスであると分かっていて、逃さないようにしないとと思い、緊張しながらも切り出す。
「……今聞くのは少し適切ではないかもしれませんし、もしご迷惑でしたらすぐにお断りいただいて構いません。ただ……お友達になりたい件ですが……その、お…お考えはいかがですの?」
「私なんかでよろしければ、喜んで」
詩織はすんなりと同意した。
その答えを聞くと、カーリンは思わず口元がほころんで、満面の笑みが浮かび、喜びの感情が目に見えて伝わってきた。
「ポーラ! キッチンに伝えてちょうだい、今夜もパーティを開きますわよ!」
「はいはい、あとで伝えておきますね」と、ポーラは微笑んだ。
「令狐さん、今日から私たちはお友達ですわね!」
「は…はい」
「これから何か困ったことがあったら、何でも私に言ってくださいまし、必ずお力になりますわ!」
「ええっと……」
詩織は利益を得るために友達になったわけではないので、カーリンの好意が少々過剰に感じた。そしてまたどう反応すればよいのか戸惑っている。
この時、客間のドアが開く。悠樹と萌花が戻ってきたのだ。
二人は買い物用の布袋を抱えていて、中には物がいっぱい入っている。どうやらギルドからの帰りに買い物したようだ。
「戻りました。あれ? なんかいいことでもあったんですか?」
悠樹と萌花は皆の雰囲気が出かける前よりずっと明るくなっていると感じた。
「猫森さん、百合園さん。私と令狐さんはお友達になりましたの!」
カーリンが誇らしげに二人に説明した。二人は顔を見合わる。
「お…おめでとう?」
「よかったですね」
「ありがとうございますわ! あ、お二人の方はどうでしたか?」
「ギルドには空いてる水属性の魔法使いがもういないそうで、次の掃討隊を待つしかないです」
「そうですのね。でしたら、その時まで我が家にお泊まりになってもよろしいですわ」
「それはありがたいです」
「ありがとうございます、ライナさん!」
悠樹と萌花は気前の良いカーリンに感謝した。すると悠樹が話題を切り替える。
「ところで、今時間ありますか?」
「何かご用かしら?」
「前に教会で一度話したあの商談のことについて話したいんです」
「あら、そうですの。構いませんわ」
「でもその前に、ちょっとキッチンを借りてもいいですか?」
「キッチン? もちろん問題ありませんわ。ポーラ、お二方を案内して差し上げて」
「かしこまりました。猫森さま、百合園さま、お持ちの荷物は私がお持ちしましょう」
「大丈夫大丈夫! 自分で持ちますから」
「かしこまりました。では、どうぞこちらへ」
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