0052 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 19
【詩織】
ふと気がつくと、昨日の夜と同じように窓辺に立ち、月を見上げていました。
澄んだ月光が庭の木々を照らし、枝葉の影がライナさんの用意してくれたパジャマの上で微かに揺れています。
大金貨100枚……アトリエを再建して、余裕のある生活ができるようになりますね。でも……
………でも、なんでしょう……?
……頭の中が混雑していて、考えるのが遅いです。
皆さんが、私の一人きりを心配してくれています。アトリエが再建されたあと、店員さんを雇った方がいいのでしょうか。
それとも、ライナさんの提案を受け入れて、アトリエを売きゃ……
いいえ……それはできません。
アトリエはお祖母さんが私とお母さんとお父さんに残してくれたものであり、私たちの家でもあります。売るわけにはいきません。<アトリエ・令狐>は、ずっと存在し続けなければ。
それに、今回の件を経て、ライナさんの意向が変わっていないかも分かりませんしね。
……アトリエが焼失してしまったこと、そして大金貨100枚の賠償金のこと、どれも実感が湧きません。まるでアトリエがまだそこにあって、私たちはただライナさんのお家に遊びに来て、お泊まりしているだけのような感覚です。
私……たち……
猫森さんと百合園さんのお二人がうちに来たこの1ヶ月、私はまるで素敵な夢を見ているかのようでした。
ですが、その前や今と比べると、この夢の方がずっと現実味があります。
しかし、数日前にお二人が旅立つことを意識した時から、私は夢から少しずつ目が覚め始めたように感じています。
ねえ、おばあさん。
私は……ちゃんと言いつけを守って、強い子になって、泣かいないでいたよ。
でも……
お母さんとお父さんはもう8年も音沙汰がなくて、おばあさんももういない……
家は焼けてしまって、思い出の品々も、みんなで一緒に過ごした痕跡も、すべて消えてしまった。
たとえあの場所に新しいアトリエを建て直しても、そこは……私たちがいた家だと言えるの……?
ねえ、おばあちゃん。私は……しおりは……どうしたらいいの……
……おばあちゃん…………




