0051 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 18
「フェンスビ央国に行くつもりです」
「フェンスビか。正方向だしそう遠くはない。メイジェ城の次だ。ああ、自分で出発するなら、前もって数日前にはギルドで予約しないとダメだぞ。こういう1、2ヶ月もかかる案件はスカーベンジャーの予定を見ないといけないからな」
「え? じゃあ今日掃討隊が出発したばかりだけど、まだ予約できますか?」
「今月の状況は俺も知らない。ギルドに聞いてみるといい」
「大体どのくらいの人数が必要なんですか? あと料金は……」
「団体の場合は編成次第だな。君たちみたいな少人数の場合、通常は最低でも3人以上の戦闘要員と1人『ヒール』が使える魔法使いが必要だ。スカーベンジャーのランクが高いほどいい。まあ、その分料金も高くなるがな」
「ん…………その編成での安全性はどうですか?」
「今言ったのは<小型の猛獣群に対応できる>単位だ。掃討隊が出発してから5日以内なら比較的安全だが、それ以降になるとだんだん危険になる。あとは野盗の情報、それについてもギルドに詳しく聞いたほうがいい。俺はここ1ヶ月はライナ家のお嬢様の護衛をやってたから、情報が遅れてる。スカーベンジャーを雇って町を離れたいって伝えたら、ギルドがもろもろのリスク評価をしてくれるよ」
「分かりました。ちなみにお二人の料金を教えてもらえますか? 参考にしたいです」
「スカーベンジャーの料金は距離によるよ。俺の場合、ここからフェンスビまでだと……金貨12枚ってとこかな」
「オレもそれくらいだが、あんたたちなら同じく金貨12枚でいい。ただし、基本的な食いもんは雇い主であるあんたたちが用意するんだよ」
「ああ、そうそう。スカーベンジャーは自分で糧秣は持参するが、基本的な食事は雇い主が用意するのが義務ってことだ」
ダニエルとランラが相次いで答えた。
「分かりました。いろいろ教えてもらって、ありがとうございます」
「なんのこれしき。他に質問はあるか?」
「最後にもう一つだけ。もし本当に出発するなら、お二人を予約できますか?」
「7日後かぁ……ああ、俺は大丈夫だ。姐御は?」
「オレも問題ない」
「分かりました。じゃあ今のところ質問はもうないです。明日、ギルドに行って確認してきます」
「ああ」
「じゃあ、そろそろ行くよ」
そう言って、ダニエルとランラは背を向けると、歩きながら談笑を始めた。
「へぇー、小僧。さすがこの町のギルド長の息子だな。いろいろ知ってるもんだ」
「まあね、これくらい分かってなかったら、親父に吊るし上げられるぜ」
二人の背中を見送り、悠樹と萌花は問題について話し合った。
「どうしようか? もう1ヶ月待ってから行く……?」
「………………」
萌花の当然とも言える問いに対して、悠樹は黙り込んだ。
二人の前には2つの選択肢がある。
1つはおとなしくもう1か月待ち、次の掃討大隊に参加すること。もう1つは、待たずに自分たちだけで出発することだ。
あと1ヶ月待つメリットは、安全性が高く費用も安いこと。
スカーベンジャーギルドの掃討大隊と共に次の町へ向かうことは、この世界で最も安全な移動手段。参加する人数が多く、物資も潤沢で、関連する体制も整っているため、1人あたりの負担は小さい。
デメリットは、教会に要求された1週間の滞在を差し引いても、手がかり探しの活動が3週間も遅れること。
二人はこの世界の基礎知識や簡単な文字は理解できていた。他の町を調査できない3週間は、かなりの時間を無駄にしてしまう。
一方、掃討大隊を待たずに出発するメリットは、その時間を有効に使えることだ。
デメリットは、安全性が十分に確保できない点にある。
掃討大隊と一緒でも100%安全とは言えないが、自分たちだけで出発するのは危険度が格段に上がる。道中の安全は、戦闘要員の数と実力に左右されるからだ。
そして、戦闘要員の数と質は、雇う側の財力次第となる。
さらに、牛車を持つのは絶対的な条件。牛車の運搬力と耐久力なしでは、次の町にたどり着くのはまず不可能と言っていい。
二人には、そんな財力も物資も明らかに足りていない。
「ねえ……ライナさんのお父さんに聞いてみない?」
昨夜、ライナ会長は悠樹への謝礼を約束していたので、二人は何らかの助けを得られるかもしれない。
「うーん……そうだね、あとで聞いてみよう。もしライナ商会がちょうどメイジェ城へ行く予定だったら万事オーケーなんだけど……」
夕食の席で、悠樹はライナ会長とカーリン、そして詩織に事情を説明した。
――「2ヶ月後ならあるかもしれんが、現時点じゃ出張の予定はないのだよ。それに君たちに人手の手配もできない。すまんのう」
「そうですか……気にしないでください」
会長から返事をもらうと、悠樹はカーリンに尋ねた。
「ライナさん、教会に行けばおれたちと同行してくれる水の魔法使いを見つけられますか?」
「難しいと思いますわ。外へ出ることを望む魔法使いは、スカーベンジャーギルドに登録するか、直接スカーベンジャーになりますの。ですから、魔法使いもスカーベンジャーと同じく、ギルドにお尋ねになれば分かるはずですわ」
「なるほど。つまりギルドに聞けば全部分かる。いいですね」
「もし出発を決めたら、私かカーリンに言ってくれ。物資を提供するよ」
「はい、ありがとうございます」
悠樹と萌花はライナ会長に頭を下げた。
一方、詩織は自分の席で一言も発さなかった。
事件以来、詩織の気分はずっと沈んでいたから、いつも洞察力の鋭い悠樹でさえ、彼女の今の心の動きに気付かなかった。
この日、皆かなりの精力を消耗していたため、夕食後はそれぞれの部屋に戻って休んだ。
カーリンの部屋で、メイドのポーラがカーリンの着替えを手際よく進めている。
「本当にいいの? 大金貨100枚、商会にとっても大きい出費でしょ」
「そんな言い方はおやめくださいまし。あれは令狐さんへの賠償金ですわ」
「賠償金……ねぇ。もしカーリンが最初から素直に意思を表明していれば、こんなことにならないばかりか、費用も今の半分……ううん、3分の1で済んだでしょうに」
「わかってますわ! ちゃんと……反省してますわ。それに、全く何も得られなかったわけじゃありませんわよ? この事件を通じて、<自分の責任が絡むことは必ず契約書を交わすこと>とか、<人を使う時は慎重にすること>とか、<輿論を掌握する大切さ>とか、いろいろ学んだもの」
「……肝心の<素直になること>、は?」
「うぅっ……」
「……はあ……ご将来が心配ですわ、お嬢様」
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