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0050 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 17


 翌朝、数百人の掃討隊が大々的に出発した。


 朝食の時、詩織の目尻の腫れに皆は気付いたが、気づかぬふりをして触れずにいた。


 朝食後、詩織、悠樹、萌花、カーリン、そしてライナ商会の数名の従業員がアトリエの廃墟に向かい、何か焼け残っていたものがないかを確認しようとした。


 しかし、現場は既に守護騎士たちによってほとんど片付けられており、地面には何がなんだか分からない焼け焦げた残滓が残っているだけだった。


 詩織が現場の守護騎士に尋ねると、焼け残った物品は守護騎士たちによって集められ、詩織が引き取れるように包みとしてまとめられていたとのこと。


 その中に価値のあるものはもうほとんどなさそうだったが。


 守護騎士たちに感謝したあと、詩織は包みを開けた。


 中には、いかにして火から免れたか分からない少女の人形が一つ、部分的に焼けた革の防具が2つ、無傷の薬剤が数本、そして詩織にも用途がわからない小物がいくつか入っていた。


 悠樹と萌花は、その2つの革の防具が自分たちの買ったものではないことに気付き、胸が痛んだ。


 詩織は包みを包み直し、荷車に載せた。


 その後、皆で手分けして地下室から書物や他の重要な品々を荷車に積み込み、ライナ家へ運んだ。


 ライナ家に戻って少し休んだあと、関係者たちは応接室に集まり、賠償問題についての協議を行った。


 今回の事件はライナ商会の信望にも関わるもので、本来ならライナ商会の会長であるカーリンの父親も協議に参加するべきだった。


 けれどカーリンの強い要望により、彼女が引き起こしたこの事件の責任は全て彼女自身が負うということで説得され、ライナ会長は結果が適切であれば、特に干渉はしないと表明した。


 午後、商人ギルドから関連問題の専門家が数名派遣されてきた。


 一日がかりの協議の結果、カーリンが詩織に対して財産の損失と精神的な損害を含む賠償として、大金貨100枚を支払うことが暫定的に決定された。


 夕方、ランラとダニエルはライナ会長の執務室に報酬を受け取りに訪れた。


 「カーリンのために、この事件で価値のある証言と保証をしてくれたお礼として、特別ボーナスをつけておいたよ」


 会長は引き出しから2つの金袋を取り出して二人に渡した。


 「それはありがたい!」


 「おお、どうも」


 ダニエルは嬉しそうに金袋を開けて中をちらりと確認する。一方のランラはもっと落ち着いていた。


 「カーリンがお世話になったのう。元々君たち二人を2ヶ月雇ったのは、休暇を取ったカーリンの護衛の代わりだったが、君たちの働きぶりは良かったぞ。どうだ? うちの商会と長期契約を結ぶ気はないかい?」


 「オレはやめとくよ。もうすぐカールズを離れる予定なんだ。そもそも功績と評価を積むために各地を回ってる。本末転倒にはしたくないさ」


 「あー……俺はやりたいんだけど、オヤジが許してくれないんだわ。俺ももっといろんな依頼を受けて、あちこち回って経験を積まないと」


 「そうか、それなら仕方ないのう。もし次に機会があればまた頼むよ」


 「はいよ」


 「おう」


 その後、ダニエルとランラは執務室を出て会議室へ向かった。


 会議室では、ちょうど協議が一段落したところで、皆が休憩しながら雑談していた。


 「ライナ家のお嬢様、俺と姐御の護衛の仕事は今日で終わりだから、挨拶に来たよ」


 「左様でございますか、分かりましたわ。お二人には大変お世話になりました」


 カーリンは丁寧にお辞儀を返した。


 「それじゃあ、行くよ」


 「あんたたちも元気でな」


 ダニエルとランラが去ろうとしたその時、悠樹に呼び止められた。


 「あ、少し待ってもらえますか? ちょっと聞きたいことがあるんですが」


 「いいよ、なんだ?」


 ダニエルは気さくに答えた。悠樹は皆が休憩中なのを見て「外で話しましょうか」と提案する。


 そうして悠樹と萌花、ダニエルとランラは会議室を出て、中庭へ向かった。


 中庭は夕日に染まってオレンジ色へと化していた。


 「すみません、お時間を取らせてしまって」


 「気にするな。で、なにが聞きたい?」


 「元々今日出発したスカーベンジャーギルドの掃討隊に参加する予定だったんだけど、こんなことになっちゃって、それに教会からも1週間は町を離れないようにと言われました……それで、掃討隊以外に移動する方法はないかと思って」


 「他に方法は2つある。1つは何かの団体の車列に参加すること。もう1つは自分でスカーベンジャーを雇って出発することだ。団体ってのは、例えば事前に約束した個人のグループとかだな。例えば十数人くらいの、掃討隊に間に合わないが、来月まで待てない人たちが、スカーベンジャーを雇って、時間になったら一緒に出発するってわけだ」


 悠樹は「つまり他の人たちと一緒に出発するってことか……」と考えた。


 「それ以外は商会とかに頼むってのもある。商会には自前の隊列を持ってるからな。だがそれはごく稀なことだ。商会には商業機密とかあるから、めったに他人を同行させない」


 「その通りだ。だがまあ、聞いてみれば?」


 ランラは顎で会議室の方向を指し示した。


 「なるほど……結局、グループに参加するか自分たちで出発するしかないんですね……」


 悠樹はしばし考え込んだ。


 「そう聞くってことは、まだその2つの方法で移動したことがないんだな。だったら忠告しておく。掃討隊や商会の隊列以外で出発する場合は、絶対に牛車とスカーベンジャーが必要だ。どっちを欠けても自殺行為だ。牛車がないと、たとえ人間を超えた体力があって、ずっと歩き続けられるとしても、十分な食料を持っていくことはできない」


 「まっ、どっかの地域には、猛獣を狩って食いつないで、次の掃討隊に発見されるまで生き延びた化け物じみた男の話もあるがな」


 ランラが付け加えた。


 「作り話だろう、それー?」


 ランラは肩をすくめ、手を広げながら「さあな」と返した。ダニエルは悠樹に話を戻す。


 「とにかく、牛車は必須だ。自分で出発したいなら牛車を持ってないとな」


 「なるほど……じゃあ、その牛車ってどうやって手に入れるんですか?」


 「個人だと基本的に買うしかないな。牛と車両を合わせて、だいたい金貨20から30枚くらいだ」


 「うっ……うーん……」


 その金額は一気に悠樹と萌花の手持ちの金を超えていた。


 「牛車以外に、スカーベンジャーも同じくらい重要だよ。十分な数のスカーベンジャーがいないのも死にに行くようなものだ」


 「猛獣がいるからですか?」


 「猛獣もそうだが、<野盗>がいる」


 「昨日、あの隊長さんもその言葉を言っていましたが、それはどういうものですか?」


 「<野盗>ってのは、野外に潜伏して、中小規模の団体を襲って物資を奪い、命をつないでる連中のことだ。大抵はどこかで重罪を犯して、罪を恐れて逃亡した犯罪者たちだ。皆んなに憎まれてる厄介者どもだよ。昨日のあいつらも、もし逃げ切れてたら野盗になるんだろうな」


 「そうなんですか」


 「掃討隊は道中の猛獣や野盗を排除し、人々の通行の安全を確保するために存在してる。脅威を取り除く必要があるし、人数も多くて隊列も長いから、通常の移動より遅く進む。速度はだいたい他の方法の半分くらいかな。掃討隊が出発して数日経ってないうちに後から出発した車列なら、掃討隊に追いつけるから、比較的安全だ。ところで、君たちはどこに行くつもりなんだ?」




 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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