0049 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 16
この時、カーリンがすぐに一歩前に出て、深々と詩織にお辞儀をした。
「本当に申し訳ございませんでしたわ、令狐さん」
「ど…どうか頭を上げてください、ライナさん。悪いことをしたのはあなたではありませんから……」
カーリンは頭を上げると、詩織の目をまっすぐ見つめ真剣な眼差しを向けた。
「いいえ。どうあれ、この件は私が原因なことに変わりはありません。令狐さんにこれほどの損害を被らせてしまった責任を、私は取らなければなりませんわ。今回の事件によるお三方の損失を、全額賠償させていただきますわ」
ライナ会長以外の皆がカーリンの気前のいい申し出に驚く。ダニエルは「おお! お嬢様太っ腹ぁ!」と明るい声を出した。
「本当に……いいのですか?」
詩織にとって、これはまさに願ってもない話だった。
「ええ。これは単に私自身やライナ商会の顔を守るためではありませんの。一個人としてそうしたいのですわ。でないと罪悪感で毎晩眠れなくなりそうですから」
カーリンは申し訳なさそうにする。その正直な態度と賠償の申し出に、詩織もようやく笑顔を見せた。
「分かりました。ではよろしくお願いします」
悠樹と萌花は顔を見合わせ、互いの目に詩織への喜びを浮かべて。カーリンも元気を取り戻し、得意げに折りたたみ扇子を開く。
「では、戻って詳しっ……」
だが、彼女の言葉も扇子で顔の下半分を隠すお馴染みの動作もぴたりと止まった。
「ところで、お三方はどこにお泊まりになるのかしら?」
「私たちは、しばらく教会にお世話になるつもりです」
「それなら、私たちの家に来ませんこと? 教会よりは快適だし、相談もしやすいですわよ! ね? パ…お父様」
ライナ会長は「そうだのう」と頷いた。
「えっと……」
詩織は悠樹と萌花に視線を走らせ、二人の意見をうかがった。
二人は目を合わせ、悠樹が少し考えてから返事をした。
「おれたちはどっちでも問題ないよ。詩織が行きたいなら、おれたちも一緒に行く」
カーリンのことを観察していた悠樹は、彼女がおおむね善良な人間だと判断している。
「分かりました。では……お世話になります」
「ええ! お世話しますとも!」
カーリンはにっこりと嬉しそうに笑った。
皆の話がまとまったところで、隊長が開口する。
「他の問題は皆さんで話し合うことにして、令狐さん、現場の管理は今晩こちらで行うが、明日中に地下室の財産を移動していただきたい。もし荷車が必要ならば手配する」
「分かりました。ありがとうございます」
「それなら、まずはうちに運びましょう。荷車もこちらで用意しますわ」
カーリンが提案し、詩織もそれに同意した。隊長は軽く会釈して付け加える。
「それから、さらに調査を進めるために、皆さんには明日から1週間、カールズ城を離れないでいただきたい」
皆がそれぞれ了承の意を示す。
「何か問題があれば、いつでも教会に来てくれていい。それでは、失礼する」
そう告げるや、隊長は立ち去った。
「それでは、もう遅いので、私たちも帰りましょう。今晩はシェフに言って豪華な夕食を用意させますわ! ランラさんもダニエルさんも、ぜひお越しくださいまし」
「それは楽しみだな」
「おっしゃ! 今日は思いっきり食べるぞー!」
そうして一行は教会を後にし、ライナ家へと向かった。
夜、食卓には豪華な料理が並び、ライナ会長は悠樹に感謝の意を述べた。
「カーリンと商会をあの危機から救ってくれて、本当にありがとうな。お礼として、うちの商品で気に入ったものがあればなんでも贈るよ。それか現金でもいい」
「えっと……少し考えさせてください……」
「うむ、思い付いたら私かカーリンにいつでも言ってくれな」
しばらくして、楽しい夕食が終えった。
今日は色々なことがあったため、皆心身ともに疲れ果てている。悠樹と萌花、そして詩織は、それぞれ自分の客室に戻り、休息を取ることにした。
悠樹と萌花は入浴を済ませ、カーリンが用意してくれた上質なパジャマに着替えた。
二人は柔らかくて寝心地のいいベッドに横たわり、「さすが大商人の家だね」と感嘆の息を吐いた。
ライナ商会はカールズ城では中上位、その邸宅も当然ながら豪華だった。
石造りの塀と頑丈な鉄製の門に守られており、さらに私設の警備隊までいるという万全の警備体制が、悠樹に安心感を与える。
「明日、掃討隊が出発しちゃうんだね」
萌花は天井を見つめながら淡々とつぶやいた。
「そうだね」
「私たち、いつこの町を離れるんだろう」
「……少なくとも1週間以内は無理そう」
二人はしばらく沈黙する。
「…………悪い人って、やっぱりいるんだね」
「……ああ、しかも思った以上にひどい」
「だよねだよね」
「ライナさんをゆするために、あの兄弟は放火なんて非道な手段を思い付くとは……ライナさんが指定したのは今日でよかっ……いやよくはないけど、もし別の日にしてたら……」
「うん……詩織ちゃんに手を出すようなことをするのは考えにくいけど、もしライナさんが指定した時間が私たちが去った後だったら、本当にあの二人の思い通りに進んでたかも。そしたらどうなってたか……」
「うん。でも、もしかしたら、ライナはおれたちにも<迷惑客>を見せたかったのかもしれない。それで令狐さんを説得させようと」
「おー。確かに私たちから提案したほうが詩織ちゃんには効果的だもんね」
そう言うと、萌花はニンマリと笑みをこぼす。
「さすがユウキ~! よっ! 名探偵!」
「やめて……」
「えー~いいじゃん~! せっかく異世界でヒーローやったんだから! 犯人の前に出て“異議ありッ!!”って言った時とかぁ、犯人と戦った時とか、超~カッコよかったよ?」
「そんなこと言った覚えはなぁい……」
「口元また緩んでるよぉ~ もお~ツンデレなんだから~」
こちょこちょこちょこちょっ!
「いやんっ! あはははっ~~~や…やめっ、ハハハハ~!」
この世界に来て、二人の一緒にいる時間が増えたからか、悠樹が萌花にくすぐりを仕掛けることも多くなっていた。
「ハハははは~ハあーはあーはぁーふぅ…………そ…そういえば、ツンデレで思い出したけど、ライナさんが詩織ちゃんと一緒にお店を開きたいって言ってた話、あれってどういう意味だろうね? もしかして女の子同士のアレかな?」
「……何とも言えないなぁ……」
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