0044 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 11
「犯人はライナさんの発言を何度も遮り、会話の主導権を握って有利に運ぼうとしています。特にアトリエの店主である令狐さんに信じ込ませようとしてるんです。こうやって、ライナさんを主犯に仕立て上げ、自分たちは無理やり従わされた被害者だって言い張って、罪を軽くしようとしているんでしょう」
悠樹の言葉を聞いて、背の低い男はまたイラついた。
「テメェ、なにをデタラメ言ってやがる!? 証拠でもあんのかよ!? それとも、あの女とグルなのか!?」
まるでその言葉を待っていたかのように、悠樹は口元に微かに笑みを浮かべた。
「それだ。あなたたちは多分、自分たちの嘘を暴く証拠が誰も持っていないと分かっているから、今ここで風向きを自分たちの有利な方に持っていこうとしてる。そうすれば、このあと誰かが疑っても、あなたたちは逆にその疑問を抱く人がライナさんとグルなんじゃないかと言って、プレッシャーをかけて黙らせることができるし、あなたたちの話に乗せられた人たちもその方向で考えるようになるだろう」
背の低い男の首筋に青筋が立ち始める。
「君の言っていることにも一理ある。だが、教会は一方の言い分のみを聞いて決めるようなことはしない。我々はきちんと全ての調査を行ってから判断する」
「では隊長さん、その調査はここで、完全に公開された形でやるんですか?」
「そんなわけがない。まず関係者全員を教会に連れて行き、そこから各所を調査することになる。調査が終わるまでどちらも教会から出ることはできない」
「それが問題なんです。それでは犯人がさらに有利な立場に立つことになります」
「何?」
隊長はすごく驚き、眉をひそめた。
「今この場で風向きを修正しないと、このあとおれたちがここを離れたら、この話はどんどん広がっていって犯人が有利になるんです。調査の結果がどうなろうと、ライナ商会の声望は大きなダメージを受けるでしょう。たとえ後で証拠が出てきて犯人が罪をなすりつけたと判明しても、その時には教会が買収されたんじゃないかっていう疑いが出てくるかもしれません。彼らを信じる人が増えれば、教会も重い判決を下しにくくなるんじゃないですか? これが『輿論』を操るということです」
「輿論、か……」
「ましてや、彼らがさっき見せた余裕ぶりからして、有力な証拠はおそらく見つからないでしょう。だから令狐さんが彼らを信じてしまって、彼らの側につけば、事態はまさにその方向へ持っていかれるかもしれません」
悠樹は言いながら詩織の方を振り返った。詩織は困惑した表情で眉をひそめている。
周囲の人々は小声で悠樹について話し始めた。
「今の話ってどういうこと? 私、よくわかんない」
「あの人、この店に関係ある人じゃないの? どうして商会の味方してんだ?」
「もしかして、あの兄弟についてなにか知ってるかな」
……
「おれが誰かはどうでもいいことです。おれがこうして話してるのは、ライナ商会を助けたいわけでも、目立ちたいわけでもありません。ここにいる皆んなが騙されないように、事件の関係者が余計なトラブルに巻き込まれないようにしたいだけです」
隊長も顎に手を当てて少し考えた。
「では、なぜ彼らが罪を擦り付けていると確信する? 何か根拠があるのか?」
「あります」
「ほう? 話してみてくれるか」
悠樹の言葉はその場にいた人々の注意を引きつけただけでなく、背の低い男が意のままに他人の発言を遮ることができないようにしていた。
なので今回、背の低い男はなにも言わず、ただ悠樹を険しい目つきで睨みつけているだけだった。悠樹はその視線に耐えながら話を続ける。
「……あなたが最初に言ってたのは“ライナさんが手のひらを返して、責任を全部押し付けようとしている”ってことだったよね」
「ああ、そうだ! それがどうした!」
「じゃあ、それをした場所はどこだ?」
「あぁ?」
「あなたたちは心を読む能力を持ってるわけじゃないよね? なら、あなたたちは必ずどこかでライナさんと話し合っていた。話し合っていたから、ライナさんがあなたたちを陥れようとしていることが分かった。それが分かったから、あなたたちはここに戻って令狐さんに助けを求めた、違う?」
男は悠樹の後ろにいる2人のスカーベンジャーを一瞥し、彼らが悠樹にそのことを話したんじゃないかと推察した。
彼ら兄弟が追われていたことを目撃した者が多いので、男はスカーベンジャーと食い違うことを言えば自分に不利になると考えた。
「……ち…違わねえ。ここに来る前に、23番街の廃棄レストランの近くであいつらと次のことを相談してた。そんであいつらが陥れようとしてきあがったから、オレらは仕方なく逃げた」
「あなたたちとライナさんたちがその場所にいた理由は?」
「はぁ? そりゃ、話すためにあらかじめ場所を決めてたからに決まってんだろが」
「そう。なら、もしライナさんが本当にあなたたちを陥れるつもりだったとしたら、なぜわざわざあなたたちと約束した場所に行ったんだ? 直接教会に通報すればよかったんじゃないか? わざわざ手のひらを返すよって知らせてどうする?」
「ぐッ……!!」
悠樹の質問に、背の低い男は顔色を変えて動揺し始めた。それを見た背の高い男も次第に焦りを見せる。
周囲の人々は「そうか!」と合点がいったように声を上げ、この問いについて討論を始めた。
「ん…んなこと、オレらが知るかよッ! オレら兄弟がビビるのが見たかったんじゃねえのか?!」
「ビビる? ライナさんの護衛たちは、あなたたちがむしろ凶暴だって言ってたけど?」
悠樹がそう言うと、彼の後ろにいた男性のスカーベンジャーが颯爽と一歩前に出て話を繋いだ。
「ああ、そう言ったのは俺だ! 俺の名はダニエル、<精鋭>級のスカーベンジャーだ。ライナ商会の会長に頼まれて、今は娘さんの護衛をしてる。さっきここに来る前、23番街で俺ともう一人のスカーベンジャーが陰から彼女たちとこいつらを見てた。なにを話してたかは聞こえなかったが、強気だったのはこいつらで、怖がってたのはライナのお嬢様とメイドのほうだった。こいつらの言ったことと全然違う!」
「お…オメーらはあいつの家の金で雇われてる護衛だ! 当然そう言うに決まってんだろが!」
「お? じゃあお前は、雇い主がなにをしようと、俺は金さえ貰えば肩を持つってか? いいぜ、この件はそれだけ重大だ。俺は今の言葉にスカーベンジャーとしての信用を賭ける!」
ダニエルは毅然とした態度で言い切った。
スカーベンジャーが法を犯せば、スカーベンジャーギルドによって資格が剥奪されるだけでなく、法律上もより重い罪に問われることになる。
これはつまり、ダニエルが自分の将来を賭けて、その発言の信頼性を保証しているということだ。
「おぉ! 立派じゃないか、小僧。ならオレもその証言を保証してやろう! オレはランラ、同じく<精鋭>級のスカーベンジャーだ」
「姐御も大胆だな!」
女性のスカーベンジャー、ランラも保証を申し出た。
2人の<精鋭>級のスカーベンジャーが同じ証言を保証するのは、かなりの影響力を持つ。
「<精鋭>級のスカーベンジャーの証言か……」
「しかも2人だぜ!」
「あの男、ギルド長の息子じゃなかったか!?」
「マジかよ! そりゃ嘘なんてつけねぇよな!」
……
ここに至って、『輿論』の流れは一変し、さっきまでカーリンを非難していた声も、今ではマーチ兄弟への疑問に変わりつつあった。
読んでくれてありがとうございます。
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