0043 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 10
この時、悠樹たちのすぐ傍にいた二人のスカーベンジャーらしき者が小声で話し合っていて、その会話が悠樹の耳に入った。
「姐御。あいつら、さっきあっちにいた時も同じ態度だったじゃないか? 脅してんのどっちだよ」
「ああ。あのお嬢様は確かに金で好き放題する面はあるが、そこまで極端な手段に出るとは思えん」
最初に話したのは20歳くらいの男性青年。体格がしっかりしており、頼りがいがありそうな印象を与える。
隣の女性は青年よりもさらにがっしりとした体格で、髪を乱雑に高く束ねたポニーテール。背中には幅広の大剣が収められており、一目で<女傑>の風格を漂わせていた。
悠樹はその二人に向かって聞く。
「あなたたちはあの令嬢の知り合いですか?」
「ん? ああ、そうだ。オレたち、本業はスカーベンジャーだ。今はライナ商会からあのお嬢様の護衛を請け負ってる。お嬢様は護衛がべったり付くのを嫌がるから、普段は目立たぬように待機して、いざって時に駆けつけるようにしてる」
女性のスカーベンジャーが自分たちの素性を説明した。続いて、男性のスカーベンジャーが憤慨した様子で話を繋ぐ。
「君たちは事件の当事者だよな? 聞いてくれ、あいつらの言うこと、信じちゃダメだぞ。さっき別の街区にいた時、お嬢様はめっちゃ怒った様子であいつらを探してた。距離があって何話してたかは聞こえなかったが、あいつらの態度は今と同じ尊大で、とてもお嬢様に脅されてるようには見えなかったんだ」
「そうだな。むしろ、アイツらがお嬢様とメイドを脅してるようにしか見えなかった。まずいと思ってオレたちも飛び出したら、アイツらは一目散に逃げ出した。で、お嬢様がアイツらを放火犯だって叫ぶから、追いかけてここまで来たってわけだ」
「なるほど」
スカーベンジャーたち話を聞いて、悠樹はなにかを考えているようだった。その時――
「……違い……ます…………」
「お嬢様っ!」
カーリンは弁明しようとする前に、力が抜けてその場に崩れ落ちた。傍にいたメイドはすぐに彼女の上半身を支えた。
そして、メイドは怒りを込めて群衆に向かって声を張り上げる。
「皆さん酷すぎます! どうしてあのような者どもの言い分は信じて、お嬢様の弁明には耳も貸そうとしないのですかっ!?」
「もうみんなオマエらがやったって分かってんだよ! これ以上なに言っても無駄だ! 守護騎士の皆様、オレらを捕まえる前にあの女たちを捕まえてくれ!」
背の低い男がそう言うと、先ほどのあの女性の隊長が出てきた。
「状況は把握した。私はこの事件を担当している守護騎士第三中隊第九小隊の隊長だ。この者に指示されたかどうかは別として、放火をしたのは君たちで間違いないな?」
隊長にそう聞かれると、背の低い男の威勢は徐々に弱まっていった。
「お…おう……だがな、オレらはあの女に脅されて仕方なくやったんだ、そこだけは間違えねえでくれよ!」
「詳しい話は後で聞く。関係者は全員、教会まで同行願う。特に君たちは放火の実行犯だから、拘束させてもらう」
関係者とは、放火を自白したマーチ兄弟、彼らを雇って放火させたと疑われるカーリン、そのメイドと護衛、焼失したアトリエの主人の詩織、詩織の<遠縁の親戚>である悠樹と萌花、そして先ほど証言を提供した数名の目撃者を指す。
「おう……オレらは構わねえぜ」
背の低い男は抵抗する様子を見せなかった。
背の高い男が腰をかがめ、背の低い男の耳元で「あ…兄貴……本当に大丈夫なのか?」と小さい声で聞く。
背の低い男は周りの人々を見て、自信げな笑みを浮かべた。
「心配すんな、計画通りだ!」
悠樹たちの方は、守護騎士の一人が詩織、悠樹、萌花、そして2人のスカーベンジャーに声をかけた。
「君たちも聞いていたと思うが、教会まで来てもらえるかな」
「ああ」
「姐御、教会はあいつらの嘘を暴く証拠、見つけられるかな?」
「詩織ちゃん、教会行こ。後できちんと話を聞いてみよう」
「……はい」
それぞれが言葉を交わしながら、教会へと向かおうとする。
その時、悠樹は誰に向けて言ったのか、あるいは独り言なのか、小さな声で呟いく。
「……それじゃダメだ……」
「ん? なにが?」
男性のスカーベンジャーが悠樹に問いかけた。
「このまま教会へ行ったら……」
守護騎士の隊長が群衆を解散させ始めた。
「通行の邪魔になるので、関係のない者はこれ以上立ち止まらないように」
それを見た悠樹はすぐ萌花に「ここにいて!」と言って、萌花が反応するより早く数歩前に進んだ。
「えっ? 悠樹?」
「待ってくださいっ!」と、悠樹が大声を上げた。
その場にいる全員の視線が一気に悠樹に集中した
社交を極力避けてきた彼にとって、この瞬間はまさに針の筵だった
けれど、彼はなんとしても言わなければならないと思っている。
「君か、何か用か?」
「隊長さん、このままここを離れたら、犯人の思うつぼになってしまうんです!」
悠樹はマーチ兄弟を一瞥する。
背の低い男が「あ゛?」と鋭い目つきで悠樹を睨みつけ、露骨に不快感をあらわにした。
悠樹はその男と一瞬、鋭い視線を交わしたが、すぐに目を逸らした。
「というと?」
緊張で喉が渇いていたが、悠樹は必死に平静を装い、口を開いた。
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