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0041 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 8


 「なッ!?」


 三人は思わず息を呑む。その表情は、恐怖とまさかの思いが入り混じっていた。


 一歩後ずさる詩織。


 三人はこの男たちが放火の目撃者だと思い込んでいた。自らが犯人だと告白するとは、まったくの予想外だったのだ。


 彼らが放火の犯人? じゃあなんでわざわざおれたちにそれを知らせに来たんだ? 彼らがおれたちをここに誘い込んだ理由はなに?


 と、悠樹はそう考え、この男たちの意図が理解できなかった。


 萌花と詩織を庇うように腕を伸ばして前に立ち、悠樹は鋭い視線を男たちに向ける。


 この屈強な二人に力で対抗できないことは分かっている。だからこそ、頭をフル回転させて対応策を考えていた。


 「おーおーおー、そんなに怯えないでくれ。大声を出さないでくれよ? 話はまだの途中なんだ!」


 三人の激しい反応を見て、男たちはすぐに宥めた。


 「火をつけたのは確かにオレらだが、指示されてやったんだ! おまえらと恨みもないのに、ただの嫌がらせで放火するわけないだろ? そう思わないか?」


 「……指示された? 誰に?」


 「カーリン・ライナって女にだ!」


 「なにっ!?」「……ッ!!」「!?」


 三人は再び、男たちの言葉に驚愕した。


 カーリン・ライナ。それは、ライナ商会の令嬢の名前だ。カールズ城でこの名前を持つ者は1人しかいない。


 「……どういうこと……ですか?」


 詩織は弱々しく問いかけ、その詳細を知りたい。


 「あの女、おまえさんの店を買い取りたがってたんだろ? 店が空き地になったほうがやりやすいから、おまえさんに無理やり承諾させるために、オレらを金で雇って放火を命じたんだ。あの女、金と権力にモノを言わせて、オレらが断ったら生きていけないようにするとまで脅してきたんだよ!」


 男は悔しそうに事情を説明した。



 “今はそのお気持ちがなくとも、後々お考えが変わることもございますわ。未来のことは誰にも分かりませんもの”



 三人の脳裏に、その言葉が鮮明に蘇った。


 それは、悠樹と萌花がカーリンと初めて会った日に、悠樹が詩織に代わってカーリンの申し出を断った際に彼女が言った言葉だった。


 「…………」


 三人はまた互いの顔を見合わせた。


 あの日以来カーリンから何の嫌がらせもなかったため、三人は問題は解決したものと思い込み、まさかこんな形で再燃するとは夢にも思わなかった。


 どんな手段を使ってもアトリエが手に入らないのであれば、<アトリエ>でなくしてしまえばいい。


 理屈は単純だが、そこまで疑う者はいなかった。


 「そんな……ひどいよ……」


 俯く萌花の肩が微かに震えた。


 「な…なるほど、やっぱりおまえらも心当たりがあるんだな」


 男は口元を僅かに緩めた。その顔を見て、悠樹は不快感を覚える。


 詩織は再び無表情になり、彼女からは悲しみも怒りも感じ取ることができなかった。


 「そんでよお、オレらがイヤイヤやったら、あの女が手のひら返しやがったんだ! 守護騎士をけしかけてオレらを捕まえようとしやがる責任を全部オレらになすりつけて、身代わりにしようって魂胆だ! 今、カールズ中を探し回ってるぜ。オレらに金もコネもない。あの女がオレらを始末するなんて、蟻潰しみたいなもんなんだ! 頼む、オレらを助けてくれよ!」


 「そうだそうだ!」と背の高い男も同調する。


 悠樹は二人の話をすぐには信じなかったが、否定する材料も持ち合わせていなかった。


 この二人が悠樹たちに声をかけてきた時から、悠樹はなにか妙な違和感を感じていた。


 彼が考えを整理して、その違和感の正体をはっきりさせようとしていると、前方から女性の声が聞こえてきた。


 「――見つけましたわ!」


 その声の主は、まさに今彼らが話し合っていた人物、カーリン・ライナである。


 カーリンの傍らには数人の守護騎士と一人のメイド。彼女たちは急ぎ足でこちらへ向かっている。


 それと同時に、悠樹たち三人の背後の路地のもう一方からも、スカーベンジャーに見える一人の男と一人の女、そして二人の守護騎士が入ってきた。


 そちらも「見つけたぞ」と言っている。


 「うわあああ! あの女ら来た! た…助けてくれ!」


 背の低い男と背の高い男は驚き、恐怖に顔を歪ませた。


 追い払われた者や残っていた者たちが騒ぎに引き寄せられ、路地の周囲は見物客で埋め尽くされた。


 この時、カーリンは男たちの背後に立つ詩織たちに気づき、わずかに怯えた表情を見せた。


 「れっ…令狐さん……どうかあの人たちのそばからお離れくださいまし! あの人たちが、貴女のアトリエに火を放った犯人なんですわ!」


 カーリンがその二人を指差しながら大声で叫んで、見物人たちは彼女の指差す方向を一斉に見た。


 「犯人が見つかったのか?」


 「彼奴らだってよ」


 「え? あの二人ってスカーベンジャーじゃなかったっけ?」


 「まことか? スカーベンジャーが放火?」


 ……


 人々は口々にその二人について噂し始め、それが背の高い男を慌てさせた。一方で、背の低い男は落ち着き払っている。


 「さあ、君たち、こっちへ来なさい」


 悠樹たちの背後にいる守護騎士の一人が声をかけた。


 萌花と詩織が悠樹を見る。彼が頷くと、三人は守護騎士たちの後方へと移動した。


 「お…おいっ! おまえら行くなよ! あの女どものウソに引っかかるんじゃねえ! ……チッ」


 すると背の低い男が焦りを見せ、三人を睨みつけるように舌打ちを一つ。そして突然、カーリンと見物人たちへ向けて大声を張り上げた。


 「オーオーオー! 認めてやるぜ! 火をつけたのはオレらマーチ兄弟だ! だがなァ! それを命じたのはそこの女だァ!!」


 彼はそう言いながらカーリンを指差した。




 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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