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0040 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 7


 「では始める。まず発火時刻から。炎が目視確認されたのは12時10分頃。近隣住民が12時5分頃に木材の焦げ臭を感知したが、昼時だったため調理の匂いと誤解した模様だ。これが最初の発火臭と推定され、発火時刻は12時00分から05分の間と見ている」


 「12時……」


 詩織は眉をひそめた。


 「もう一度確認させてもらうが、お三人が出かけたのは11時30分頃だった、間違いはないか?」


 「はい」


 「外出時、アトリエで火気は使っていなかったか?」


 「はい。休みの日でしたので、薬草釜には火をつけておらず、お昼も家で食べる予定はありませんでした。ですので、朝以外は火を使っていません」


 「朝に使った火は完全に消えていることを確認したか?」


 「はい。その点は私たちも十分に注意しています」


 ここで隊長は悠樹と萌花に目を向ける。


 「間違いはないな?」


 二人は強く頷き、「はい」と答えた。


 詩織の家は全て木造であり、詩織は当然、火の取り扱いに常に気を配っていた。また、レンズの集光を避けるため、詩織の家ではガラス器具を直射日光の当たる場所には置かず、ガラス窓すら設置していなかった。


 三人はそれを隊長に説明した。


 「なるほど。では<火の不始末>や<自然発火>の可能性は低い。残るは<放火>か<人的事故>、あるいは<愉快犯>だ。ちょうどその時間帯は昼食時で、街の人通りも少なかったため、残念ながら現時点では人的な要因に関する目撃証言は得られていない」


 「……人的……」


 「差し支えなければ、人と恨みを買うようなことは?」


 「…………ない……と思います」


 詩織のことを知っている人なら、彼女が誰かと恨みを持つような人間ではないと思うだろう。


 悠樹は少し考えたて、補足する。


 「少なくとも客観的にもおれたちの主観的にも、おれたちは誰かと放火されるほどの恨みを買うようなことをしていません。こんなことになったのは、おれたちから誰かを敵に回したわけじゃないと思います。他の人がどう思っているかは……おれたちには分かりません」


 「承知した。引き続き調査を進める」


 「……ありがとうございます」


 「礼には及ばん。これが任務だからな。ところで今夜の身の寄り先は? 差し当たり教会が引き受けられるが」


 「……」


 悠樹と萌花は黙り込み、詩織の返事を待った。


 「…………すみません、少し考える時間をください」


 「もちろん構わん。この後いつでも我々に伝えるか、直接教会まで来てくれれば受け入れる。それでは、私は調査に戻る」


 「ありがとうございました」


 隊長はその場を離れた。


 「お二人は今夜どうしますか? 明日の朝早くに出発するなら、教会よりも宿屋の方がギルドに近いのですが」


 悠樹と萌花は視線を交わし合う。


 「明日は出発しない。こんなことが起きたのに、令狐さんを放って、自分たちのことだけを考えてここを離れるわけにはいかないからね」


 「……え?」


 「そっ。せめてこの問題が全部解決するまではここにいるよ」


 二人の言葉に詩織は驚いた。


 「そ…そのようなことをしなくていいのです! ギルドの掃討大隊は月に1度しかありませんし、私のせいでお二人を巻き込むわけには……」


 「おれたちがそうしたら、令狐さんは困るの?」


 「そ…そんなことはありません……ですが……」


 「なら、いいじゃない」


 悠樹は微笑んだ。萌花は詩織が胸の前で握っていた左手を取り、両手の手のひらに乗せる。


 「詩織ちゃんは一人暮らしだっただけでも大変なのに、今こんなことになって、きっと心細いよね。今までたくさん助けてもらったんだから、今度は私たちに詩織ちゃんを助けさせて、ね?」


 萌花は詩織の手を温かく包み込んだ。


 詩織の手と心は、その温もりを感じ取った。


 「百合園さん……猫森さん……ありがとうございます」


 本来なら、悠樹と萌花は一刻も早くフェンスビ央国に向かい、元の世界に戻るための活動を進めるべきだった。


 しかし、二人は迷うことなく詩織のそばに残り、彼女が困難を乗り越える手助けをする道を選んだ。


 二人は今回の掃討大隊に参加しなかったことで、活動にタイムロスが生じるかもしれない。それでも気持ちからであれ、良心からであれ、二人は今のこの選択を後悔することはないだろう。


 「じゃあ、今からどうする? 教会に行く?」


 悠樹がそう聞いて、詩織は少し考えた。


 「うん……あの、もう少し焼け残ったものがないか探してみたいです」


 「いいよ、手伝う」


 「一緒に探そ!」


 「ありが……」


 「――ここにいたのか!」


 詩織の言葉が終わる前に、三人は声をかけられた。


 それはさっき隊長が見つけた時と同じような言葉だったが、今回は見知らぬ二人の男だった。


 二人の男は、一人の背が高く、もう一人は少し低い。


 背の高いほうは体格ががっしりしており、頭にはバンダナを巻き、背中には剣を背負っていた。背の低い方も高いほうには及ばないものの、筋肉質で、腰には短刀を差している。彼らはスカーベンジャーに見えた。


 彼らは腰を曲げ、膝に手をついて、額には汗を浮かべて息を切らしている。どうやらどこかから急いで走ってきたようだ。


 三人が、この二人の男が自分たちに話しかけていることを確認すると、悠樹は男たちに「なにか用ですか……?」と聞いた。


 男たちは腰を伸ばし、前に立っている背の低い男が答える。


 「ちょっと大事な話があるんだ。特にその嬢さんに」


 そう言いながら、男は詩織のほうを見た。


 「な…なん話でしょうか」


 男は周囲を見回す。


 「……ここじゃ話しづらい。路地の方で話せないか?」


 そう言われて、三人は警戒した。悠樹は少し眉をひそめる。


 「……どうしてここじゃ話せないんですか?」


 「お…おっと、見知らぬ男二人に話しかけられて、警戒してるんだな。安心しろ、オレらはなにもしない。ただこれは他のやつに聞かれたらやばいだけだから。時間がない、路地に行かないならせめてその入口でもいい。このへん守護騎士がめっちゃいるから、そこなら安心できるんだろ?」


 「……」


 悠樹、詩織、萌花は顔を見合わせた。


 “時間がない”の意味を問いたかったが、男の急ぐ様子と、路地入口が守護騎士の視界内にあるのは事実。たとえ彼らが悪党でも手出しはできないと悠樹は判断し、問題はないと考えた。そして詩織と萌花に頷いて合図を送る。


 三人は男の提案を受け入れ、その男たちと一緒にアトリエの脇にある路地の入口まで向かった。


 二人の男は路地の入口の外側に立ち、悠樹たち三人は内側に入り、両者の間には少し距離を置いて会話を始めた。


 「……それで、どういう話ですか?」


 悠樹が尋ねると、二人の男は再び周囲を見回し、守護騎士たちの視線を気にしているようだった。


 「この店に火を付けた犯人の話だ」


 「っ! 犯人が分かるんですか!?」


 背の低い男の短い言葉に三人は驚愕し、一瞬で焦りだした。


 「ああ、火をつけたのはオレらだ」




 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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