0035 - 第 1 巻 - 第 3 章 - 2
昼食を終えたあと、三人はスカーベンジャーギルドに来た。
「またあんたか、兄ちゃん。今朝来たばっかじゃなかったか」
受付員のスキンヘッドの中年男性は悠樹を見て、少し呆れたようにした。
悠樹がよくここでは常識とされるようなことを聞きに来ていたため、この受付員には悠樹がどこかの村から出てきたばかりの子供のように見えていた。
「おや、よく見りゃ可愛いお嬢ちゃん2人も連れてるじゃないか。なにしに来たんだ?」
「おれと彼女は次の掃討隊に同行して次の町まで行く予定なんです。そのために、戦闘訓練を受けてみようと思って。道中、何か危険があった時に少しでも落ち着いて対応できるように」
悠樹は手のひらで”彼女”が萌花であることを示した。
「ほう? 兄ちゃんはまあ分かるが、こっちのお嬢ちゃんも訓練に参加するのか?」
「……はい」
萌花は少し自信なさげに答えた。
「ふむ……まあ参加できなくはないが、スカーベンジャーになる気がないならやめとけって言っておくよ。掃討隊と一緒に移動するのが一番安全なんだ。金さえ払えばスカーベンジャーが守ってくれるんだからよ。こんなに小柄なお嬢ちゃんが訓練に参加したところで、無駄に筋肉痛になるだけだぜ」
「うーん……」
悠樹は萌花を見て、受付員の言うことも一理あると思った。しかし、萌花は受付員に向かって「大丈夫です、やってみたいんです!」と言う。
「ふう、じゃあ好きにしな。どうせ1日も持たないだろうがな」
受付員は肩をすくめて、少し見下すように言ったので、萌花はムッとした。
「そっちのお嬢ちゃんは?」
「あっ、私は付き添って来ただけです」
「じゃああんたはダメだ。中にはスカーベンジャーか訓練を受ける奴しか入れない」
それを聞いて、悠樹は事前にちゃんと調べておくべきだった、詩織に無駄足を踏ませてしまったかもしれないと後悔している。
「その……水の魔法使いなら見学が自由だと伺ったのですが……」
「おお、あんた、水の魔法使いだったのか。そういや青い水晶の杖持ってんな。なら問題ない。あんたらは金を払ってくれ、水の魔法使いのお嬢ちゃんは無料だ」
会話を終えると、悠樹と萌花は午後の訓練費を支払った。
その後、受付員が訓練エリアへのスイングドアを開き、三人は中へと進む。
スカーベンジャーギルドの戦闘訓練は、新人スカーベンジャーを対象とした訓練であり、スカーベンジャーになりたい人々への選別の場でもある。
『スカーベンジャー』は命がけの職業だ。過度な自信で命を落とさぬよう、スカーベンジャーになるには資格試験に合格しなければならない。この戦闘訓練はその最初の関門と言える。
この段階では『猛獣』と戦うことはなく、基礎訓練や対人訓練が行われる。この訓練にすら合格できなければ、スカーベンジャーになることはできない。
だが、悠樹と萌花の目的はスカーベンジャーになることではなく、単に戦闘訓練で己を鍛えることだった。だから他の参加者に比べ、特別な覚悟もプレッシャーもない。
「ねえねえ、詩織ちゃん、どうして水の魔法使いは自由に入れるの? 特権があるとか?」
「はい、そのようです。スカーベンジャーギルドの訓練では怪我人がよく出るので、救護員として水の魔法使いが常駐していると聞きました。ですが、もし怪我人が多すぎると救護員だけでは手が回らなくなることもあるので、ギルドは水の魔法使いが見学に来ることを歓迎しているそうです。これは教会とギルドの協力の一環で、治療は普段通りに怪我人から料金をいただくこともできます……」
この世界の人々にとって、水の魔法使いはまさに移動式の簡易外科病院のような存在。怪我をしたら水の魔法使いに『ヒール』を頼み、そして一定の料金を支払う。これもこの世界の常識である。
「へえ~そうなんだ~いいなぁ、お金も稼げるし、特権もあるなんて、いいなあ~……」
一緒に暮らしてしばらく、詩織は二人の性格を次第に理解してきていた。萌花のこの言葉に悪意は全くなく、ただ純粋に羨ましいだけだと詩織は理解していたので、照れくさそうに微笑む。
「えへへ……私もそう思います。アクア様が私に水元素の回路を授けてくださって、本当に感謝しています」
「はあ~、どうして私は魔法が使えないんでしょう」
「地球人だからよ」
悠樹はツッコミを入れた。
「分かってるわよ! ちょっと言ってみただけ」
「特権の話なら、スカーベンジャーにも特権があるよ」
「どんな?」
萌花は少し興味が湧いた。すると悠樹は、今朝聞いたスカーベンジャーの話を説明する。
スカーベンジャーは、魔法使いと同じく五つのランクに分かれている。
スカーベンジャーになったばかりの『新人』。
経験を積み、一部の依頼を受けられるようになる『戦士』。
豊富な経験と強い実力を持つ『精鋭』。
卓越した実力、胆力、数々の実績を持つ『勇者』。
無数の人が敬慕する『英雄』。
『英雄』ランクは、大規模な『猛獣殲滅運動』で赫々たる戦果を上げた者のみが到達できる、名実共に『人類最強の戦力』である。
各ランクにはそれぞれの特権があるが、ほとんどはギルドや猛獣に関するものだ。今の悠樹と萌花に関係があるのは入城税の免除くらいで、それもランクが『戦士』以上でないと適用されない。
「ええ~それじゃ意味ないじゃなぁい。それに私たちスカーベンジャーやらないし」
「そ。だから、おれたちはおれたちをやればいいんだよ」
「む~悠樹のイジワルぅ」
詩織は二人のやり取りを聞いて、思わずクスリと笑った。
三人は廊下を歩きながら話し続け、やがて訓練エリアに到着した。
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