0024 - 第 1 巻 - 第 2 章 - 18
詩織の家に戻った三人は、調合室に集まった。
悠樹は2階から青色のリュックを持ってきて、中に入っている物をテーブルに並べた。
財布が2つ、折りたたみ傘が1本、冷却スプレーが1本、自作の唐辛子スプレーが1本、紙ハンカチが3パック、ウェットティッシュが1パック、ヘアゴムが4つ、ヘアピンが4つ、輪ゴムが1袋、買ったばかりの家庭料理入門書が1冊、ゲーム機の修理カードが1枚、ワイヤレスイヤホンが1ペア。
詩織は自分の家のテーブルに並べられた異世界の品々を見て、一つ一つがとても新奇で、特に異世界の文字が記された料理本に興味を持ち、好奇心いっぱいの目を輝かせて見つめている。この時、彼女は悠樹と萌花が初めて魔法を見た時の気持ちが分かった。
「あとはスマホ2台とおれたちが着てきた服、それにこのリュック、これがおれたちの全部の持ち物だ。まずは売れる物を売ってしまおう。いいよね?」
萌花がテーブルの物を少しぼんやりと見つめ、数秒考えた。そして顔を上げずに、上目遣いで悠樹をチラリと見て、おちゃめにニコッとする。
「いいけど……これだけじゃないでしょ」
リュックの隠しポケットには萌花の生理用品もあったが、彼女が言いたかったのはそれではない。
異世界の作品では、自分の持ち物を売ってお金を得るというシーンがよく出てくる。毎日悠樹と一緒にアニメを見ている萌花も当然その方法を知っていた。
だが、もしそれだけのことなら、悠樹が食事の時にわざわざ秘密にする必要はなかった。だから彼女は、悠樹にはきっと他にもアイデアがあって、それが他の人に聞かれるのを避けたいと思っている。
悠樹も口元をほんのりと緩めて、自信ありげに「そっ。でもまずはこっちがどう売れるか見てみよう」と答えた。
「うん!」
二人は言葉の裏の意味を通じ合った。詩織だけが悠樹が“全部”と言いながら、“まだなにかある”の物言いをする理由がよく分からなかった。
悠樹は財布、ヘアゴム、輪ゴム、折りたたみ傘を自分の前に、他のものは脇にどけた。
「その前に、文字が書いてあるものは外さないとね。それにスマホとイヤホンみたいに、明らかにこの世界にないものも」
悠樹と萌花は、自分たちが他の世界から来たことを他人に知られてはいけない。なぜなら、それを知った人間が彼らになにをするか分からないからだ。
だから二人は<未知の文字>や<未知の物体>を残さないようにして、謀を企む人に追跡されるのを避けたほうがより安全になる。
「じゃあ、残ったのを……令狐さん、あなたの意見が欲しいです」
突然名前を呼ばれた詩織はビックリした。
「あっ、はい! お役に立てれば」
「ありがとうございます。じゃ、まずおれの考えを言いますね。まずは財布、この2つはおれ萌花の財布です」
詩織は悠樹から渡された2つの財布を受け取った。1つは黒で、もう1つは白。黒色の財布の右下のところには白猫のシルエットがあり、白色の財布にはその逆が描かれていた。2つの財布は反対色で、お揃いもの。
詩織が財布をじっくりと見ている。
「素材はこの世界にはなさそうな化学製品だけど、この世界のお金は硬貨だけですよね? そうなると、紙幣を入れるための財布は意味ないし、バラバラにして素材だけ取り出すのも現実的じゃないから、財布は売れないと思います。中のお金も使えるはずないし、文字もあります」
萌花も「そうだね」と同意して、悠樹は詩織に「どう思いますか?」と聞いた。
「……私も使い道が思いつきません」
悠樹が言ったことのいくつかの名詞は詩織には分からなかったが、彼女の生活の中ではこんな財布を見たことがなく、他の用途も思いつかなかった。
「うん、じゃあ財布は一旦置いておきます」
悠樹は財布を料理本の隣に置き、次にヘアピンを1つ手に取った。これはシンプルな黒の細長いヘアピンで、萌花が髪型を整える時に固定用に使うもので、装飾用ではない。
「こういうヘアピンは見たことありますか?」
「はい。よくある日用品です」
「そうですか、じゃダメですね」
悠樹はヘアピンを脇に置き、次に黒い蝶結び形のヘアゴムを2つ取り出す。これは萌花の予備のヘアゴムで、今ツーサイドアップに使っている白いの2つ以外に、普段リュックには白と黒がそれぞれ2つずつ入っていた。
「これは萌花の予備のヘアゴムです。外側は飾りで、内側はゴム……えーっと、これみたいな素材は見たことありますか?」
悠樹はヘアゴムのゴム部分を数回引っ張って伸ばし、弾力性を見せたが、詩織はあまり理解できていないようだ。
なので悠樹は透明なファイル袋のような袋を取り出した。その中には色とりどりの小さな輪ゴムが入っている。彼は袋を開け、いくつか取り出して、同じように引っ張って見せた。
詩織は自分の小指よりも細いものが何倍にも伸び、元に戻るのを見て、好奇心に満ちた目をさらに大きく見開く。彼女の反応から、悠樹は彼女がゴムを見たことがないと分かった。
「その大きやつの中身はこれと同じ素材で、もっと耐久性があるものです。乱暴に扱わなければ1年くらいは使えるでしょう。小さいほうは2日くらいで切れてしまいます」
「なるほど。あの、試してみてもいいですか?」
「もちろんいいですよ」
悠樹は数本の輪ゴムを詩織に渡し、詩織はそれを宝物のように両手で受け取った。
彼女は輪ゴムをそっとつまんだり、引っ張ったりしてみた。
「なにか用途が思い浮かびますか?」
「んー……切れやすいでしたよね?」
「はい、これは低レベルな消耗品で、新品でも、力を入れて引っ張ればすぐ切れてしまいます」
「でしたら、あまり使い道はないかもしれません……」
「あー、やっぱりそうですか。何かおれの思いつかない使い道があるんじゃないかと思ったけど、やはり髪を結ぶくらいしかないですね」
「あ、ですが、これらは便利で見た目もいいし、珍しい素材なので、裕福な方に売れるかもしれませんよ」
「はい、おれたちもそう考えてました。異世界召喚の定番は、こういう物を目利きの商人やお金持ちに売ることですからね」
萌花も「そうそう!」と嬉しそうにうなずいた。椅子の上で軽く体を揺らしながら。
詩織はまだよく分からないが、彼らの考えが自分と同じであることは分かった。
「私の知り合いに商会の令嬢がいます。もし必要であれば、その商会の住所をお教えますが」
「おっ! 本当ですか! それはよかった!」「わ~」
悠樹は眉をピクリと動かし、期待で目が輝いている。
「こんなに都合がいいことってあるんですね! 知り合いの紹介があるのは本当に助かります!」
「えっと……ただ、近頃彼女とは少し問題があって、私が出るのはあまりよくないかもしれません。ですので、お二人に商会と令嬢のことをお伝えするだけになってしまいます」
「え? なにがあったの?」
萌花は、自分の目にはとても優しく見える詩織が<誰かと問題があった>ということに驚き、思わず口に出した。
「あっ、言いたくないなら言わなくても全然いいよ? ただ、その、もしなにか悪いことがあったのなら、私たちもその人に物を売るのはアレかなって思って」
「そうだね」
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