0020 - 第 1 巻 - 第 2 章 - 14
「……だから、こんな失礼な試しをしてしまって、あなたを傷つけたかもしれません。本当にごめんなさい」
悠树が立ち上がり、少女に45度のお辞儀をして謝罪した。彼に継ぎ、萌花も同じようにした。
少女はそんな二人を見て、呆然としている。
……あ……嫌われていなかったのですね……
悪者にされていなかったのですね……
……よかったです……
などの感情が胸に込み上げてきて、少女のあの一抹のオレンジ色の光がこぼれそうとする。すると彼女は慌ただしく体を背け、悠树と萌花に見せないように涙を拭いた。
少し気持ちを整えたあと、彼女は再び二人のほうを向いて、立ち上がった。
「あの……謝らないでください! その……元々は、この世界に来たばかりのお二人が不安にならないように、余計なことを話さないつもりでいました。けれど、それが逆にもっと不安にさせてしまいまして……本当に申し訳ございませんでした!」
そう言って、少女も二人にお辞儀をした。
二人はここでの謝罪の仕方が彼らのところと同じなのか、それとも少女がただ彼らを真似ているだけなのか分からなかったが、その行動に親近感を抱いた。
「いえ、おれが変なだけです。普通の人なら、おれみたいにこんな無意味なことをしないと思います。令狐さんはどう見ても悪い人に見えないですから」
「いえいえ、<人は見かけによらない>という言葉がありまして……あっ! そ…その、私が自分のことを悪い人に見えないと言っているわけではありません。あの……」
「いえいえいえ、おれたち、こんなにもいい人に会うなんて初めてかもしれません」
「いえいえいえいえ……」
「もう、なにしてんの」
萌花が腰を伸ばして、両手を腰に当ててため息をつき、悠树と少女の”いえ”のループを中断させた。これにより、悠树と少女が気まずい笑みを交わし合い、話を続けることができる。三人はまた座った。
「コホン。じゃあ続くとしましょう。おれは恩知らずになるところでした。追い出されても文句を言えない立場にあると理解しています。それでも、このまま令狐さんの家にいさせてもらえないかお願いしたいです。恥知らずだと分かっていますが、せめて今夜だけでも泊めてもらえれば、おれたちの大きな助けになります」
これで<善良な少女を傷つけたのに、図々しくも彼女を利用するゲスだ>と思われてもかまわない。萌花が苦しむよりずっといいからだと、悠樹は考えていた。
実を言えば、悠树と萌花が少女の家に泊まらなくとも、お金を得てライフラインを一時的に維持する方法がある。しかし、今は夜遅く、宿の場所も分からず、その方法が1回でうまくいく保証もなかった。
だから今、二人にとって最良の選択は、依然として昼間に少女と話し合ったあの案である。
「あの……そんなこと言わないでください。本当に気にしていません。むしろ、隠れた危険を取り除こうとするのは、とても安心感を覚えさせます!」
少女が微笑んだ。
悠树は彼女の言葉に意外と嬉しさを感じた。当事者の彼女が責めるどころか、自分の行動を肯定してくれるなど、悠樹は考えもしなかったのだから。
「ですから、もしお二人がよろしければ、どうぞしばらくうちにお泊りください」
「ありがとうございます! 令狐さん」
「詩織ちゃん、ありがとう!」
悠树の予想通り、少女はまた同意し、互いに助け合う関係を確定した。彼は少々潤んでいる少女の目尻を見て、心の中でもう一度彼女に謝った。
こうして、他人から見れば全く必要がないかもしれない試しが終わった。
もしここに召喚されたのが悠树一人だったら、彼はおそらくこんなことをしなかっただろう。だけど、萌花も一緒だったから、話も別だった。
彼は萌花の安全を確保するためなら、たとえこのような人に嫌われるかもしれないことでも、過剰かもしれないことでもする。それは萌花のためだけでなく、<二人が平安で一緒にいられる>ためでもあった。
その後、三人は2階に戻った。
二人が少女が部屋に入るまで見送ると、萌花はまた悠树の部屋にやってきて、彼女らはしばらく一緒に寝ることにした。
二人は横になって、布団を掛けた。
「私たち、ズルかったよね。詩織ちゃんは頷いてくれるって分かってたのに、ああして聞くなんて」
「うん、ズルかった」
少女が良い人だと分かっていながら、助けてもらえるかを聞くのは、彼女の善意を利用していないなど言えるはずもなかった。
しかし、今の二人の状況ではなんでも理想的に行うことはできない。なので萌花はこうするしかなかったことに対して、少し愚痴をこぼした。
普段、他人との関係をうまく築けない二人は、他人に迷惑をかけたり、借りを作ったりするのを極力避けていた。だが今回、少女は間違いなく彼らの恩人である。
「だから、機会があったら令狐さんに恩返ししなくちゃね」
「そうだね」
「さ、寝よう」
「ところで、悠树」
「うん? なに?」
「さっき、なにで自分を傷つけたの?」
「あっ……」
悠树はこのことを萌花が気にしているとは思わず、今、問い詰められている。
「大丈夫、ただ指を噛んで血を出しただけだよ。それにほら、『ヒール』されたあとは傷跡も全然ないよ~」
萌花が悠树のその指がなんともないのを確認したら、ふくれて口を尖らせ、黙って彼を睨む。
「ン…んん……」
悠树は萌花の無言の圧力に押されて、なにを言えばいいか分からない。
けどすぐに萌花のふくれた顔はしぼんでいった。彼女は悠树を責めたかったわけではなく、ただ彼が傷つくのを見たくなかっただけだ。
「……なんで事前に言ってくれなかったのよ」
彼女はそう言いながら悠树のその指をそっと包み込むように撫でた。
「最初はそんなつもりなかったんだけど、ただ『ヒール』の話になったら、急に魔法の感覚を体験してみたくなって……うん……ごめん」
「分かればヨロシイ」
「うん」
「じゃあ、寝よう」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
今日はたくさんのことがありすぎて、二人は心身ともに疲れており、お互いにおやすみを言い合ったあと、すぐに意識が遠のいていった。
相手の穏やかな呼吸音と息、慣れない寝具、家や家具の木材の匂い、遠くから時折聞こえる虫の鳴き声、馴染みの感覚とよくしらぬ感覚が入り混じる。二人は安心すべきか心配すべきか分からないが、今は脳がそれ以上を拒んだ。
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