0013 - 第 1 巻 - 第 2 章 - 7
レストランに向かう途中、少女が前を歩き、悠樹と萌花はその後ろ約2メートルほどのところに、距離を保ちながらついて行った。
道中二人が目にしたのは、質素な服装の通行人、レンガと木材の混合素材で建てられた家屋、乱雑に敷かれた石畳の道、電気が存在しない街並み、道の両側に木材で組み立てられた露店。これらが、ここが中世の文明レベルであることを確信させる。
通行人の外見は地球人と変わらず、二人が期待していた獣耳娘やエルフはいなかった。一瞬、二人はただどこかに旅行に来ていただけだと錯覚したが、通行人の手に持った長槍と盾、魔法の杖、腰に差した剣と物を入れる布袋がそれを打ち消した。
そして、レストランへ向かう約10分の道中、二人は現代的な服装をした人や、現代人が引き起こした騒動を見かけなかった。まるで自分たち二人だけがここに召喚されたかのようだった。
他の人たちはどこにいるの?
と、二人の心にはまた一つ疑問が浮かんだ。
レストランに到着し、三人は隅の席に座り、注文を取るのは当然少女令狐詩織である。
レストラン内はまだ混雑するほどではなかったが、すでに多くの客が食事をしていた。村人風の者、個性的な装いの者、そして武器を携えた者たちが入り混じっている。
あるテーブルには二人の男が腰かけている。二人とも見るからに強靭な肉体の持ち主で、ノースリーブの革ジャンからは隆々たる腕が覗いていた。手元には剣と斧が。剣は鞘に収まり、斧の刃は古びた布で包まれている。布には、赤黒い染みが滲んでいた。
この男たちが『スカーベンジャー』である。彼らは常に『猛獣』と戦っていた。
周囲の客たちはその武器を特に気にする様子もなく、ごく当たり前のように受け入れている……いや、この世界ではそれが日常なのだ。
武器を持った人がイカれて人を傷つけたらどうするの? と悠樹は心配をしていた。
しばらく待った後、15、6歳くらいのウェイターの少年が、何の生物か分からない料理を運んでくる。
最初、悠樹は自分と萌花が食べても大丈夫かと心配していたが、よく考えたら、この世界でなにも食べなくても死ぬだけなので、先に数口食べて、問題はなさそうだと確認してから萌花に食べさせた。三人は食事をしながら会話を交わす。
「こんな木製の食器を使うのは初めてで、この触感も新鮮だね。この串焼きも美味しい」
「この焼きキノコもすごく香ばしくて、一口サイズでめっちゃおいしい~」
「お口に合って何よりです」
「えっと、ところで、この焼肉……もしかしてあの『猛獣』じゃないですよね?」
「いいえ。この店では猛獣料理は出していません」
「”この店では”……ってことは、猛獣料理を出す店もあるんですね……」
「はい、カールズ城には何軒かありますよ」
「わあ……」
「猛獣の肉っておいしい? 詩織ちゃんは食べたことある?」
「いいえ、なんだか少し怖くて……あっ! 猫森さん、それはっ……!」
「ん?」
少女が突然声を上げる。悠樹が顔を上げて「なに?」と問うより先に、舌がその理由を伝えていた。
青ぶどうほどの大きさで、赤い皮に白い果肉の丸い果実を、悠樹は一口で半分かじり取った。透明な果汁が口内に飛び散り、未体験の刺激が脳天を貫く。
酸っぱい、とても酸っぱい。この果実は皮が薄く果汁たっぷりで、味わいはレモンと未熟なプラムを足したようなもの。清涼感はあるものの、強烈な酸味が襲う。肉料理の風味づけや、水で割って飲むのが一般的な使い方。生でかじる者などまずいない。
とにかく、とても酸っぱいのだ。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐお゛お゛お゛お゛お゛おおおおおおおおおおんんんんんんんん!!!!!!」
悠樹の顔が酸っぱさで歪み、涙が目尻に浮かび、口の中で大量の唾液が酸味を和らげるために分泌された。
「ゆっ…悠樹!」
「猫森さん! 大丈夫ですか?」
大大大丈夫夫夫じゃななない。悠樹は無言で答えた。
「これはカーデリム果実と言いまして、直接食べることもできますが、非常に酸っぱいんです。お二人に事前に説明せず……申し訳ありません……」
苦痛の表情でその半分の果実を飲み込み、微かに震え、虚ろな目をしながらも、悠樹は平静を装う。
「……大丈夫……おれが不注意だっただけですから……」
少女にとって、カーデリム果実は子供の頃から身近な存在。その特性を知っているのは当たり前で、食事をするには食器が必要のと同じくらいの常識だった。しかし、初めてこの果実を見る悠樹と萌花にとっては、<料理と一緒に出てきた果実>という認識しかなく、警戒せず口にしてしまうのも無理もない。
「その……これからは、何か分からないことがあれば、遠慮なく私に聞いてください。こんなことのないように、私も気をつけてお伝えしますね」
「うん……それじゃあ、頼みますね……」
悠樹は苦笑いする。
一体どれくらい酸っぱいんだろう? と萌花は好奇心に駆られ、悠樹の手に持っているその半分のカーデリム果実を舌でぺろっと舐めてみた。
そして彼女の顔も酸っぱさで歪んだ。
読んでくれてありがとうございます。
もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)




