表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/118

0013 - 第 1 巻 - 第 2 章 - 7


 レストランに向かう途中、少女が前を歩き、悠樹と萌花はその後ろ約2メートルほどのところに、距離を保ちながらついて行った。


 道中二人が目にしたのは、質素な服装の通行人、レンガと木材の混合素材で建てられた家屋、乱雑に敷かれた石畳の道、電気が存在しない街並み、道の両側に木材で組み立てられた露店。これらが、ここが中世の文明レベルであることを確信させる。


 通行人の外見は地球人と変わらず、二人が期待していた獣耳娘やエルフはいなかった。一瞬、二人はただどこかに旅行に来ていただけだと錯覚したが、通行人の手に持った長槍と盾、魔法の杖、腰に差した剣と物を入れる布袋がそれを打ち消した。


 そして、レストランへ向かう約10分の道中、二人は現代的な服装をした人や、現代人が引き起こした騒動を見かけなかった。まるで自分たち二人だけがここに召喚されたかのようだった。


 他の人たちはどこにいるの?


 と、二人の心にはまた一つ疑問が浮かんだ。


 レストランに到着し、三人は隅の席に座り、注文を取るのは当然少女令狐詩織である。


 レストラン内はまだ混雑するほどではなかったが、すでに多くの客が食事をしていた。村人風の者、個性的な装いの者、そして武器を携えた者たちが入り混じっている。


 あるテーブルには二人の男が腰かけている。二人とも見るからに強靭な肉体の持ち主で、ノースリーブの革ジャンからは隆々たる腕が覗いていた。手元には剣と斧が。剣は鞘に収まり、斧の刃は古びた布で包まれている。布には、赤黒い染みが滲んでいた。


 この男たちが『スカーベンジャー』である。彼らは常に『猛獣』と戦っていた。


 周囲の客たちはその武器を特に気にする様子もなく、ごく当たり前のように受け入れている……いや、この世界ではそれが日常なのだ。


 武器を持った人がイカれて人を傷つけたらどうするの? と悠樹は心配をしていた。


 しばらく待った後、15、6歳くらいのウェイターの少年が、何の生物か分からない料理を運んでくる。


 最初、悠樹は自分と萌花が食べても大丈夫かと心配していたが、よく考えたら、この世界でなにも食べなくても死ぬだけなので、先に数口食べて、問題はなさそうだと確認してから萌花に食べさせた。三人は食事をしながら会話を交わす。


 「こんな木製の食器を使うのは初めてで、この触感も新鮮だね。この串焼きも美味しい」


 「この焼きキノコもすごく香ばしくて、一口サイズでめっちゃおいしい~」


 「お口に合って何よりです」


 「えっと、ところで、この焼肉……もしかしてあの『猛獣』じゃないですよね?」


 「いいえ。この店では猛獣料理は出していません」


 「”この店では”……ってことは、猛獣料理を出す店もあるんですね……」


 「はい、カールズ城には何軒かありますよ」


 「わあ……」


 「猛獣の肉っておいしい? 詩織ちゃんは食べたことある?」


 「いいえ、なんだか少し怖くて……あっ! 猫森さん、それはっ……!」


 「ん?」


 少女が突然声を上げる。悠樹が顔を上げて「なに?」と問うより先に、舌がその理由を伝えていた。


 青ぶどうほどの大きさで、赤い皮に白い果肉の丸い果実を、悠樹は一口で半分かじり取った。透明な果汁が口内に飛び散り、未体験の刺激が脳天を貫く。


 酸っぱい、とても酸っぱい。この果実は皮が薄く果汁たっぷりで、味わいはレモンと未熟なプラムを足したようなもの。清涼感はあるものの、強烈な酸味が襲う。肉料理の風味づけや、水で割って飲むのが一般的な使い方。生でかじる者などまずいない。


 とにかく、とても酸っぱいのだ。


 「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐお゛お゛お゛お゛お゛おおおおおおおおおおんんんんんんんん!!!!!!」


 悠樹の顔が酸っぱさで歪み、涙が目尻に浮かび、口の中で大量の唾液が酸味を和らげるために分泌された。


 「ゆっ…悠樹!」


 「猫森さん! 大丈夫ですか?」


 大大大丈夫夫夫じゃななない。悠樹は無言で答えた。


 「これはカーデリム果実と言いまして、直接食べることもできますが、非常に酸っぱいんです。お二人に事前に説明せず……申し訳ありません……」


 苦痛の表情でその半分の果実を飲み込み、微かに震え、虚ろな目をしながらも、悠樹は平静を装う。


 「……大丈夫……おれが不注意だっただけですから……」


 少女にとって、カーデリム果実は子供の頃から身近な存在。その特性を知っているのは当たり前で、食事をするには食器が必要のと同じくらいの常識だった。しかし、初めてこの果実を見る悠樹と萌花にとっては、<料理と一緒に出てきた果実>という認識しかなく、警戒せず口にしてしまうのも無理もない。


 「その……これからは、何か分からないことがあれば、遠慮なく私に聞いてください。こんなことのないように、私も気をつけてお伝えしますね」


 「うん……それじゃあ、頼みますね……」


 悠樹は苦笑いする。


 一体どれくらい酸っぱいんだろう? と萌花は好奇心に駆られ、悠樹の手に持っているその半分のカーデリム果実を舌でぺろっと舐めてみた。


 そして彼女の顔も酸っぱさで歪んだ。




 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ