0112 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 20
千里:「みんな、一緒に止血をっ!!」
斗哉:「待て!」
大翔が既にナイフを捨てたのを見て、千里はすぐにその5人の止血に向かおうとしたが、斗哉にぐいっと引き止められ、進や紗奈など他の者たちも足を止めた。
千里は斗哉を振り返り、「何を待つのだ?」という表情で問いかける。
斗哉:「…………これでいいんだ」
千里:「……何がだ?」
斗哉:「とにかくなにもしないでおけ。どうせ奴らがもう助からないってのは分かってるんだろ」
千里:「ぐっ…………お前、何を考えてる?」
その5人は横向きに倒れ、激しくもがいていた。だがもがけばもがくほど血液の流失は早まる。大牙深と倉岡は気管も切断され、血液が逆流して気管に流れ込み、気流とともに泡立つ音を立てていた。
10秒も経たないうちに、彼らのもがく勢いは急速に減少し、顔色は真っ赤から青白く変わり、身体はぐったり。一部の筋肉だけが反射的に痙攣し、瞳孔は散大し、意識を失っていく。
地面に流れ出た血は繋がり合い、血の沼のようになり、生臭い匂いを放つ。
間もなく、喉を切られた5人は全員死亡した。
大翔は冷ややかな眼差しで彼らの死体を見つめる。
千里:「………………二人とも説明してくれ」
もはや取り返しのつかない事態に、千里はやや無力感を見せた。
斗哉:「……言っとくが、オレとコイツが示し合わせてたわけじゃない。おい、佐藤、なんで奴らを殺した?」
大翔:「…………死ぬべきだったからだ」
千里:「………………」
斗哉:「残りの4人はどうする?」
大翔:「…………俺に関係ない」
斗哉:「……なるほどな。じゃあ他の奴には手を出さないんだな?」
大翔:「……ああ」
斗哉:「他に隠し持ってるもんはないな? ボディチェックするぜ」
ボディチェックの結果、大翔が持っていたのは1本のナイフだけであり、他の危険物は所持していないことが確認された。
斗哉:「おまえはここに立ってろ。進、悪いが棒かなんかで床のナイフをどかしてくれ」
進:「…………ああ……」
斗哉:「佐藤、この5人を殺した責任、取るよな?」
大翔:「…………………………………………」
斗哉:「オレはおまえになにかするつもりはない。ただ、万が一日本に戻った時、これはおまえがやった事に異論はないな?」
大翔:「………………ああ」
斗哉:「よし。じゃあさっきの話の続きだ。この件で、千里、おまえは一つ見落としてた。それは、おまえは中国人だってことだ。日本の法律は中国のとまったく同じじゃないだろ?」
千里:「……俺の国には属人制度がある。中国の公民であれば、どこにいようと、たとえ異世界であれ、中国の刑法に触れれば追及される。法律に詳しいわけじゃないから、日本がこの方面でどうなってるかは知らない」
斗哉:「ならちょうどいい。おまえはこの件には関わるな。ここにいる奴でおまえ以外は全員日本人だ。あ、本来もう1人いたが、もう死んだ。外国人であるおまえが率先してこれを処理するのは本当に問題ないのか? 国際問題とか外交問題とかにならねえか?」
千里:「それは…………」
斗哉:「おまえが奴らを傷つけちゃいけないって言い張るのは、責任を問われるリスクを負いたくないからだろ? だったらもう関わるな。もしリーダーって立場上どうしても関わらなきゃいけないなら、この件に関してだけその立場を外してやればいいだろ。オレがこの件の責任者になる」
千里:「………………奴らをどうするつもり?」
斗哉:「心配すんな、殺したりはしない。元々9人もいると負担が大きすぎるが、4人になったならなんとかなるだろ。奴らの手を潰すんだ。そうすりゃ縄を解かれてもオレらに勝てないし、治るのになん週間もかかる。その後は縛ったままにする案で行く」
千里:「うーん…………」
斗哉:「みんなも聞いたよな、状況が変わった。もう一度投票するぞ。今度は中立はなしだ。賛成じゃなかったら反対と見なす。5人殺しちゃったのは佐藤がやった事で、残り4人のことはオレに任せる。千里の奴とは無関係だ。仮に本当に日本に戻ったとしても、あの4人の処置に関してなんか問題があればオレが責任を取る。だから安心してくれ。まあ、しばらくあの4人と同じ場所にいることになるから、女たちにはちょっと我慢してもらうが。監視はする。どうだ、反対する奴がいたら手を挙げてくれ」
集団の者たちは顔を見合わせ、小声で話し合うが、手を挙げる者は1人もいない。
斗哉:「反対する奴はいないんだな? じゃあこれで決まりだぜ?」
楓:「…………………………」
進:「斗哉…………」
駿:「……いいんじゃないか」
女性の声:「それならひとまず安心かな……」
千里:「……俺にとっては都合がいい話だが、本当にいいんだな? 責任を自分に背負い込んで」
斗哉:「問題ない。こういうチンピラどもへの対処法は慣れてるからな。どうせ5人殺したのはオレじゃない。手を潰すくらいじゃ大した波風は立たねえさ」
千里:「……」
斗哉:「……あの時はおまえの投槍がなかったら、楓は大牙深の奴に捕まってたかもしれねえ。この件、おまえにはやりづらい、オレにはできる。だったらオレにやらせろ。これでチャラってことで。それに、オレは奴らを傷つけることが悪いとも思わないし、悪人だけがそうするとも思わねえ。奴らが先に悪意を持ってオレらを傷つけに来たんだ。こっちが先になにかしたわけじゃないし。たとえ『ケモノ』だとしても、オレはいい『ケモノ』だぜ、はは」
千里:「……ふっ。わかった、そうしよう」
二人はそう笑い合い、責任の引き継ぎを完了させた。
斗哉:「佐藤、オレはおまえを罰したりはしない。だが、どう言おうがこれは危険なことだ。だからこれからおまえは二度とナイフを握るな。さもなくば追い出す」
大翔:「…………早乙女さんを傷つけるヤツさえいなければな」
斗哉:「ふん……戻っていいぞ」
すると大翔は麻里香の前に戻った。
麻里香はさっきの光景に少し驚きはしたものの、同時に慰めも感じていた。
大翔:「早乙女さん、あの畜生どもは始末しまよ」
麻里香:「………………うん……」
大翔は麻里香に血の付いた手を差し出し、麻里香の目をまっすぐ見つめて言う。
大翔:「好きです。早乙女さんのことは俺が守ります。付き合ってください」
麻里香:「……………………………………………………」
麻里香は視線を逸らした。
彼女はうつむき、同意も拒否も示さない。
集団の者たちの表情や心情は様々で、これほどコアな告白を見た者はいなかった。
しばらくして、麻里香はゆっくりと手を伸ばし、大翔の手を軽く握った。
大翔は麻里香を抱き寄せる。
麻里香は抵抗しなかった。麻里香が同意したのかどうか、誰にも確信はない。おそらく大翔にも分からないだろう。
斗哉:「……見せつけてくれるなあ。さあ、これの処理をするか」
斗哉の言う“これ”とは、大牙深団体のメンバーの死体、そして地上に広がり凝固し始めた大量の血液のことだ。
彼は動き出そうとして、まだ言い忘れていたことを思い出す。振り返って黒水、斜め前髪の長い男、四谷、ハチマキをした男の犯罪団体の残党4人に向かい、凶悪な表情を作った。
斗哉:「テメーらのこと忘れるところだったぜ。聞いたな、明日にはテメーらの右手を叩き潰す。それがテメーらの一番いい落としどころだ。それ以上のことになりたくねえなら、抵抗するんじゃねえぞ。逃げようとか反撃しようとかはなおさら考えるんじゃねえ。さもないとなにが起きるか分かったもんじゃねえからよぉ」
黒水:「…………………………」
黒水は沈黙を貫いていたが、今の面持ちは拘束された当初とは明らかに違う。あの時はどうにか脱出方法を考えているようだったが、今や目を閉じて鼻でため息をつき、緊張していた筋肉を緩めて巨大な根元にもたれかかり、すでに諦めた。
ハチマキをした男:「……ぐっ………………!」
ハチマキをした男は衝撃から少し回復していた。やや不服そうだが、反抗はできない。
四谷:「……うぐっ……………………うぐっ……」
四谷は依然として恐怖に取り憑かれている。失禁したため、他の者たちは少し位置を動かし、彼と距離を置いた。
斜め前髪の長い男:「………………クソッタレが…………ちくしょう…………」
斜め前髪の長い男はぶつぶつと罵りつつも、反抗できない現実を受け入れたようだ。
その後、斗哉、駿、30代の魚捕り男、40代の男性の4人は、大牙深らの死体を森の中へ引きずり込んだ。この森は夜はほぼ真っ暗で移動できないため、人々の目に付かない場所に一旦運び、夜明け後に搬出するしかない。
敏之は隙を見て比口と倉岡の身体から奪われた紙幣を搜し出した。その一部は血で染みていた。
集団の男たちは大量の葉、枝、石を持ち寄り、地上の血痕を覆った。そうすれば人々の心も少しは楽になる。
千里は冷たく冴え渡る異世界の星空を仰ぎ、思考に沈んだ。
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