0111 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 19
周りは完全に暗くなっていた。
皆がエネルギーを補給した後、千里は集団の全員を呼び集めた。人々は焚き火を囲んで半円を作るように座り、千里は中央よりの位置に立つ。円の空いた部分には、縄でがんじがらめにされた大牙深団体がおり、誰も近づこうとはしなかった。
千里:「それじゃあまず、被害に遭った人たちに意見を聞く。座ったままでいい」
人々の視線は一斉に侵害された3名の女性、特に麻里香に向けられた。
麻里香:「…………殺す」
千里:「……君の気持ちは分かる。だが、残念ながらそれはできない」
千里の言葉に、麻里香の顔面がビクッとし、ヒステリックな口調になる。
麻里香:「どうしてよっ!? あんなクズども、生き残らせて何になるの!?」
斗哉:「オレも同じ意見だ。あいつらは殺した方がいい。なんでダメなんだ?」
千里:「むっ…………じゃあこうしよう。まず投票で、どれくらいの人がその考えに支持するか見る。皆も聞いたな、大牙深団体の全員を殺すことに賛成の者は手を挙げてくれ」
集団内では顔を見合わせる者が多かったが、手を挙げたのは大翔と斗哉だけだった。
千里:「よし。次に、反対の者は手を挙げてくれ」
今度は進、紗奈、千里、そして那帆が手を挙げた。
麻里香:「あなた……どうして……?」
他の人はともかく、同じく大牙深団体に侵害された女性の一人である那帆までが反対したのは、麻里香の予想外だった。
那帆:「…………いくらなんでも……人を殺すのは……いけないと思います…………然るべき罰を受けてさえくれれば………………」
那帆は自分の腕を掴み、視線は傍らの地面に向けたまま、少し縮こまり、勢いがない。
もう一人の被害を受けた女子学生は反対とも発言ともしなかったが、その表情から賛成していないことは皆にも伝わった。
千里:「……他の態度を表明しなかった人は中立とする。この結果を見て安心した。先の質問に戻る。そうするのは違法だからだ。もしヤツらの襲撃中に反撃でヤツらを傷つけたり死なせたりするなら、正当防衛権があるから大きな問題にはならない。だが今はヤツらからの侵害は終わっている。この時点でヤツらを傷つけるのは犯罪だ。故意の傷害か殺人という。ヤツらを傷つけてはいけない上、縛り上げた以上、ヤツらを保護する義務さえある。瀕死の大牙深の面倒も見ないとならない」
斗哉:「はあ??」
駿:「えっ??」
集団内には法律に詳しい者はいない。皆、<犯罪者を保護する義務がある>という話に非常に驚き、小声で話し合い始めた。
麻里香:「……保護……? あの畜生どもを保護すると……?」
千里:「そうだ。俺も皆と同じように、ヤツらの手足をもぎ取りたいと思うが、手続き上の正義からそれは許されない」
斗哉:「それは元の世界での話だろ? “ここは異世界だ”とか言ってたのはお前だぞ?」
千里:「その通りだ。じゃあお前の意見は、<ここは異世界だから、元の世界の法律に縛られない>ってことか? このセリフ、どっかで聞き覚えがないか?」
斗哉:「うぬっ…………」
それはまさに大牙深の論調そのものだった。
千里:「ただ自分の欲望のままにヤツらを殺せば、俺たちもヤツらと同じレベルだ。それに、もし明日突然元の世界に戻ったらどうする? その時点で殺人犯として逮捕される。一時の痛快のために、自分の未来を賭けたいか? 俺は絶対に嫌だな。ヤツらを不具にしただけでも犯罪者になる」
千里の言葉は、麻里香、斗哉、大翔の三人を沈黙させた。
宏人:「……だが現実問題、あいつらをどう処置するんだ? お前の言う通りにしたって、みんな納得いかないだろ? あいつらに傷つけられた者へのけじめはどうつける?」
千里:「……そこが最も難しい点だ。だからこそ冷静になって、法律に触れず、かつ皆が納得できるバランス点を見つける必要がある」
宏人:「ん……そんなバランス点、本当にあるのか」
千里:「とにかく、まずは皆の意見を述べ合おう。蒼太郎、真部、お前たちの見解は?」
真部:「うっ……」
千里は一時的に場を鎮めた。
その後の1時間以上にわたり、集団の者たちはそれぞれ意見を述べた。
まず全員が<大牙深団体の脅威を除去する>ことを絶対的な前提とした。麻里香が自身を侵害した5人の男を殺すことを主張し続けた以外では、現在<不具にした上で追放>と<拘束と監禁を継続>の意見に分かれている。
追放支持派は、大牙深団体を集団と共に置いておくことは人的・物的資源の浪費だと考える。日中は彼らの世話をし、食料を提供し、夜は見張りを立て、さらに彼らが縄を解いて武器を手にすることを常に警戒しなければならないからだ。故に、彼らの戦闘能力を奪った上で追放し、二度と集団を襲えず自生自滅に任せることを提案した。
拘束継続支持派は、大牙深団体を集団の管理下に置くべきだと考える。集団の管理から外れれば、たとえ不具にしたとしても再び襲ってくる可能性があるからだ。故に、資源が逼迫するか、人が住む町村が見つかるまで現状維持を提案した。
千里:「うーん…………不具にするのも『手続き上の正義』には違反する。眼球をえぐり出したり、足を折ったり、親指を切り落としたりするのは、全部重傷に当たる。特に去勢なんてのは侮辱的要素が強く、法的結果は深刻だ。だが、ヤツらに何もしないのも簡単に脱出される危険がある。蔓で縛ってるだけだからな。ヤツら9人を警戒するために、俺たちの労働力は大幅に低下するし、女性たちもヤツらと同じ場所にいるのは嫌がる…………確かに両立する方法を見つけるのは難しそうだ」
集団の議論を聞きながら、大牙深団体の者たちも小声で話し合っていた。
比口:「って言ってるぜ」
倉岡:「……命拾いした……のか?」
張三:「……そんなこと言われて、むかつかないか?」
四谷:「縛られてるんだから、どうしようもねえだろ」
大牙深:「…………………………」
大牙深はいつしか意識を取り戻していた。虚弱ではあるが、眼差しは依然として非常に不服で、手を縛る蔓を切ろうともがいていた。
17歳の男子高校生:「……殺されるよりはマシだろ」
――男性の声:「いや。お前は死ぬ」
17歳の男子高校生:「あ?」
大牙深:「むぐっ!?」
宏人:「……困ったな。あのクズどものせいで」
斗哉:「…………ふっ。千里、おまえ一つ見落としてるぜ。この件、実は簡単に片付けれるさ」
千里:「ん? というと?」
斗哉:「それは――」
17歳の男子高校生:「ギャアあ゛あ゛ああああああああああああ――ッ!?」
集団の者たち:「ッ!?」
一声の悲鳴が、議論に熱中の皆の思考と会話をぶった切った。人々が慌てて声のした方を見ると、そこには悪夢のような光景が広がっている。
大翔がナイフを手に、縛られた大牙深団体の者たちの背後に立ち、次々とその喉を切り裂いているのだ。
比口:「お…おいっ!! や…ヤメロッ!! ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああ!!」
千里:「止めろーッ!!」
集団の中から悲鳴が上がる。戦闘員はすぐに向かい、大翔を制止しようとした。
しかし大翔の動作は予想以上に速く、まるで頭の中で何度も練習していたかのようだった。
距離はたった15メートルも離れていないが、戦闘員が駆けつける頃には、大翔は既に4人の頸動脈を断ち切っていた。現在、ナイフは張三の頸に当てられている。
千里:「今すぐナイフを下ろすんだっ!!」
斗哉:「おまえ……!」
張三:「…………はぁ……はぁ……はぁ…………た…助けてくれ…………」
張三は恐怖で全身を震わせ、失禁し、千里に哀願する眼差しを向けていた。
大翔:「………………安心して。すぐ下ろす」
そう言うと、大翔は躊躇いなく張三の頸動脈も切り裂いた。血潮が噴き出し、双方の眼前の地面へと撒き散らされる。
張三:「ギャア゛ア゛ア゛アアああああああッ!! 嫌だ!! 死にたくないいいいい!! あああああ!! 助けて!! 助けてくれェ――!!」
大翔は張三から手を離すと、血まみれのナイフを地面に投げ捨てる。それは大牙深のナイフだった。
午後の戦闘後、集団の者は全てのナイフを回収していた。集団で元々使用していたナイフは麻里香が傷つけるために使用し、大牙深のは連続殺人犯でそのナイフも凶器の可能性があるため、その2本は別途保管されていた。
当時、大翔は進んでその2本の管理を引き受けた。彼が皆が議論している間にこっそりと目を盗んで、大牙深団体の後方へ回り込み、大牙深のナイフで彼らを襲撃するとは、誰も予想しなかった。
大牙深、17歳の男子高校生、倉岡、比口、張三。大翔が喉を切ったのは、まさに麻里香を侵害したその5人だった。
彼らは血の海に倒れ、絶え間なく湧き出る血は焚き火の光の中で黒赤く映った。
残る4人の内、黒水は顔面ひどく青ざめ、斜め前髪の長い男は恐怖に満ちた表情を浮かべる。ハチマキをした男と四谷は叫び声を上げ、涙を流す。四谷は失禁した。
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