表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/118

0011 - 第 1 巻 - 第 2 章 - 5


 外は日差しが明るい。よく晴れた天気のようだ。そよ風が吹き、木々の葉擦れの音が聞こえ、時折鳥の鳴き声もする。


 悠樹と萌花は、今ここが何時なのかを知らない。自分たちのスマホに表示された時間と同じだろうか、それとも大きく異なっているのだろうか。


 この木製の部屋にはエアコンも扇風機もない。ドアも開いておらず、通気は板を支えて開けた2つの窓のみ。しかし蒸し暑くはなかった。今ここはどんな季節だろう。


 三人がどれくらいこうして椅子に座っていたのか誰も分からない。やがて少女がこの静けさを破った。


 「あ…あの……おこがましいお願いかもしれませんが、もしお二人がよろしければ、しばらくうちに泊まりませんか? も…もちろん三食のご心配もありません」


 少女は二人の現状を理解し、そう提案した。


 二人は顔を上げ、萌花は少し考えて、それから悠樹を見て彼の返事を待つ。


 彼女は悠樹が自分より理性的で、物事を計画的に進められることをよく知っていた。それ故、こういう決断が必要な時には常に悠樹に主導権を任せ、自分は補佐に回る。


 完全に信頼する。けれど盲従ではない。もし悠樹の言うことやすることに間違いがあると感じた時、彼女は遠慮なく異議を唱える。


 ただ、悠樹はいつも二人のために最善の選択をする。二人の過去の経験からも、そうすることはいつも正しい、と示されていた。


 だが悠樹は頭を働かせず、また俯く。


 この提案はおれたちにとって大きな助けになる。けど、初めて会った人の家に厄介になるなんて本当にいいの?


 令狐さんの家族の意見は?


 迷惑かけちゃうんじゃない?


 ……


 などと、彼はそのような問題を考えていた。


 しかしそれは、本当に少女のためばかりではなく、一番の原因は逃げていることだった。


 認めたくない。


 この提案を受け入れると、現実を認めたことになる。<特別ではない自分が異世界に飛ばされてしまい、帰る方法も分からない>という現実を認めることになってしまう。


 彼はそうして現実逃避のために、頭を空っぽにしていたのだ。


 パッ。


 近距離からの叩き音と顔に感じる感触に彼は驚いて、ハッとした。


 それは萌花だった。洞察力が優れていた悠樹は、現実逃避している時、萌花が自分の背後に来ていることにすら気付かなかった。


 萌花は悠樹の後ろで指先を下に向け、挟むように両手で悠樹の顔を軽くパチンと叩いた。


 「……え? どうしたの?」


 「こっちが”どうしたの?”よ。せっかく令狐さんが私たちにこんな親切な提案をしてくれたのに、なに呆けてるの?」


 萌花は少し怒った。


 「……」


 けど悠樹はまた黙った。


 「もう。ほら、一緒に深呼吸して。吸ってー」


 悠樹が動かなかったので、萌花は彼の頬をつまんで上下左右に捏ねて揉んだ。


 「いたい」


 「なら早くして。ほら、吸ってー」


 悠樹は仕方なく萌花の言う通りにした。


 「吐いてー。吸ってー。吐いてー」


 「ふうぅー」


 気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。これは二人が親から学んだことで、とても役立つ方法だった。


 2回一緒に深呼吸を終えると、萌花は手を悠樹の顔から離し、彼の両肩に置いた。


 「どう?」


 「……うん。だいぶ落ち着いた。ありがとう、萌花」


 「じゃあ教えて。私たちはどうしたらいいの?」


 悠樹の目に元気が戻った。彼は口元を綻ばせ、半分双丘に隠された萌花の顔を見上げながら言う:


 「うん! 今考えるから、萌花は座ってて」


 「うん!」


 萌花も目を細めて笑い、席に戻った。


 少女はこんな二人の様子を見て、とても不思議そうにしている。


 萌花のおかげで、塞がれていた悠樹の思考が再び動き出した。彼は少女の提案とこれからのことを考え始める。


 二人が異世界に来て、元の世界に戻る方法はない、手がかりも掴めない。それでも彼らは帰らなければならない。あの楽しい家庭に、親の元に。


 帰るためには、ただ座っていてなにもしないわけにはいかない。


 二人の認識では、魔法陣は完全でなければ効果がない。だから地下室のあの崩れた魔法陣はおそらくもう使うことができないと考えている。


 100%そうとは言い切れないが、不確かなものに期待するよりも、自分たちで帰る方法を見つけたほうがいい。その魔法陣がまだ使えるかどうかを知るためにも、様々な情報を集める必要がある。


 二人が持っているお金はこの世界では言うまでもなく使えず、衣食住の全ての目処がたっていない。悠樹はそれを考えるだけで不安になった。少女の提案を受け入れるなら、少なくとも食事と住まいという基本的な生命線の要素を確保できる。


 彼らには他の方法が全くないわけではないが、一番目立たない方法は少女の家に泊まることだろう。


 現在、彼らがこの世界の人間でないことを知っているのはこの少女だけであり、彼らが接触したこの世界の人間もこの少女だけだった。だからこの世界の……少なくともこの都市の文化や風習を理解するまでは、少女の提案を受け入れるのが最も安全なはず。


 悠樹は少女の提案を受け入れることを決めたが、気になる点は確認する。


 「令狐さんの提案はおれたちにとって非常に助かるんですが、本当にいいんですか? 初めて会ったばかりのおれたちを家に泊めるなんて、ご家族の同意は得られるんですか? もし令狐さんの家に迷惑をかけるようなら……」


 「どうかお構いなく。私の両親は……ずっと家を空けていますので。家にいても私と同じことをすると思います。それに、もしお二人がうちのあの魔法陣らしきもののせいでこの世界に来たのなら、私たちはなおさら無視するわけにはいきません。どうかお役に立てさせてください!」


 「令狐さん……」「えっ!?」




 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ