表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/109

0108 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 16


 千里のサイド。黒水の矢による援護もあり、高木は飛び蹴りの衝撃から姿勢を立て直していた。


 彼の使い捨てマスクは2週間以上使用され、すでに緩んでおり、その上に蹴りまで喰らったため、片方の耳掛け紐が切れてしまった。彼は乱暴にマスクを引きちぎり、傍らに投げ捨てる。


 野球帽は弾き飛ばされ、マスクもなくなった高木の顔が初めて晒される。


 後方に隠れていた慧子がそれを見て「あれ? あの顔は……」と呟いた。


 千里の飛び蹴りは高木を怒らせたようで、表情を硬くし、殺気立った眼差しで千里を睨みつけ、再び両腕を防御姿勢として千里へ突進した。千里もまた距離を保ちつつ攻撃を続ける。


 今度の高木は跳ぶようなステップで位置と前進経路を頻繁に変える。攻撃がなかなか有効に命中せず、千里は眉をひそめた。


 あっという間に高木は千里との距離を詰め、千里は再び接近戦モードに切り替えた。


 幾度かの攻防の後、高木は大きく体を乗り出すような左ストレートを放った。千里は絶好のチャンスと見て、これをかわしながら反撃しようとする。


 だがその時、高木の右手の位置が非常に不自然なことに気づいた。


 高木の体に遮られて見えないものの、千里は高木の右腕の方向からその手の平が下向きになっていると判断した。格闘家がこのような時にする動きとは到底思えない。そう考えると、この大振りな左ストレート自体が何かを隠すための囮のように思えてきた。


 千里:「ッ!!」


 脳内の警鐘が狂ったように鳴り響き、千里は緊急に全力で後方へ跳び退く。


 次の瞬間、千里の腹部がさっきあった場所を一道の寒光がかすめ切る。


 高木:「…………ほう。これを避けるか」


 それは高木の右手に握られているナイフだった。あの誰も見たことのない、折り畳みナイフ。


 千里は大きく距離を取った。


 千里:「……4本目……」


 危険な瞬間に千里の心臓は爆発しそうなほど激しく鼓動し、全身に冷や汗が走った。


 宏人のサイド。ハチマキをした男の猛攻により、宏人の盾は破壊された。固定に使っていた蔓の幾本かが切れ、枝の半分は宏人の腕にぶら下がり、残りの半分は地面に散らばっている。


 ハチマキをした男:「ははっ! これで終わりだ!」


 宏人:「……うぐ……っ!」


 宏人の左前腕の傷はさっきより増え、流れる血が幾筋もの痕を作っている。


 ハチマキをした男はニヤリと笑いながら再び棍棒を持った手を上げる。宏人は覚悟を決めて耐え続けようとした。


 ガンッ!


 ハチマキをした男:「おぐああッ!?」


 斗哉:「終わりなのはおまえだがな」


 斗哉が戻ってきて、背後からハチマキをした男の後頭部をバットで殴った。


 ハチマキをした男は前方へ倒れこみ、宏人は慌ててよけた。


 ハチマキをした男は片膝をつき、左手で体を支え、ナイフを持つ右手で殴られた箇所を押さえ、目を回して「……うっ……ぐぐ…………」と声を漏らす。


 確かに前後から挟み撃ちにされた。


 斗哉:「やっぱ硬えな、ハチマキのせいか? だったらもう一発っ!」


 ハチマキをした男:「ぐあっ!」


 斗哉が再びバットを振り下ろす。今度は斜めにハチマキをした男の左首筋を打った。


 ハチマキをした男は体を少し右に傾けるようにして倒れていく。意識を失い、両手に握っていた武器は離れた。


 宏人:「……ハあ……はあ……はぁ……助かった…………いや、そもそもこんだけやられたのはお前のせいもあるような?」


 斗哉:「ははっ! 倒したんだし、細かいことは気にするな。このナイフ、持っとけ」


 斗哉はハチマキをした男の2つの武器を拾い、ナイフを宏人に渡し、骨の破片を埋め込んだ棍棒は森の中へ力任せに投げ込んだ。


 左側。他の前衛が戦っている中。


 駿の盾には傷がたくさんつき、腕も切られていたが、彼は張三の変化に乏しい攻撃パターンに次第に慣れてきていた。傷を負う頻度が大幅に減っただけでなく、隙を見て張三を攻撃できるようにもなっている。


 張三:「くそ! なんで怖がらねえんだよ! 俺はナイフ持ってんだ! 傷つけたんだぞ!」


 駿:「はっ! だからなんだ? もう傷ついたらさっさと逃げろってか?」


 張三:「違うとでも言うのか? 普通そうするだろが!」


 駿:「それはお前らみたいなクズをまずぶっ潰してからな! くらえ!」


 駿は盾で張三の棍棒攻撃を防ぐと、同じく骨の破片を埋め込んだ棍棒で張三の右上腕部を打った。


 張三:「ぎゃあああああっ!!」


 駿:「ははっ! お前も傷ついたぞ、逃げるか?」


 張三:「クソっ! クソっ! このクソ野郎がッ!!」


 張三は打たれたところから血を流し、逆上して狂ったように攻撃し続ける。


 相手の攻撃パターンを見極めていたのは、進も同じだった。


 斜め前髪の長い男は比較的慎重で、一定の戦闘経験もあるように見えたが、中学の時剣道の全国大会まで進出した経験を持つ進の方が上だった。


 彼は斜め前髪の長い男との攻防で傷一つ負わず、次第にナイフへの恐怖心も克服しつつあった。今や彼が優勢である。


 斜め前髪の長い男:「ちっ、こいつもやるな」


 進は両手で木刀を握り、無言で剣道の基本構えを取る。


 斜め前髪の長い男:「……なるほど、剣道部の学生か。ふん、それがどうした? 木刀とガキの遊びの剣道が、本物の刃物に勝てると思うのか!」


 斜め前髪の長い男が力任せにナイフを振り下ろす。進は素早く木刀の先端でこれを迎え撃ち、ナイフの切先付近を正確に受け止めた。


 すかさず、進は左足を半歩前に滑り出させ、手首を反時計回りに回転させて木刀を連動させる。突進の勢いと梃子効果を利用し、外側からナイフを押さえ込みつつ、木刀をナイフの刀身に沿って半回転して滑らせた。接触点は木刀の刃から自然に峰へと移行する。木刀は反時計回りに回転を続け、両手は瞬時に力を爆発させ、下から上へと薙ぎ上げ、ナイフを高々と跳ね飛ばした。


 即ち剣道の『巻き上げ』の技である。


 ナイフは握りの角度を強制改変された上、すぐ別方向の力が加わったため、斜め前髪の長い男の手から離れ、回転しながら後上方へ飛んでいった。


 斜め前髪の長い男が驚愕する間もなく、進は上げた木刀を振り下ろし、彼の頭部を強打する。一連の動作は一気呵成であった。


 回転するナイフは巨樹に刺さり、地面から約10メートルの高さで、戦闘中ではほぼ回収不能だ。


 斜め前髪の長い男:「うがあああああっ!」


 激痛で斜め前髪の長い男は無意識に棍棒を左右に振り回して防御をする。彼の無力化を狙い、進はその棍棒も打ち落とした。


 そして進は再び少し前に滑り出し、木刀で斜め前髪の長い男の左腰を打った。斜め前髪の長い男は鈍痛で叫び声を上げる。進は続けて両手に刀を構え、深くその腹部を突いた。


 斜め前髪の長い男は衝撃で後ろへ2步よろめく。立っていることもできず、両膝をついて倒れ、腰腹を押さえて苦しげに微かな呻き声を漏らす。


 進:「ふう…………」


 進は深く息を吐くと、斜め前髪の長い男の棍棒を拾い、駿と張三の方を見た。


 駿も優勢だったが、どうやら決定的な一撃を与える決心がついていないようだ。


 駿:「……くそ、これを使い続けたら本当に殺しちまうかもしれないぜ……ん? 進っ! もうやってけたのか! ちょっと手伝ってくれ!」


 張三:「な…やられた? お…おいっ! まさか2人でかかってくるつもりなのか! 卑怯だぞ!」


 駿:「お前らがそんなこと言う資格あるかよ!」


 進:「…………武器を置いて降参するんだ」


 張三:「はァ?! そんなことするわけねえだろ! これはここで一番の武器なんだぞ!」


 進:「人が使いこなせないじゃ意味ないよ」


 張三:「てめえなにが言いたいんだ!? 高校生ごときでも俺をバカにするのかァー!」


 張三は吼えながら棍棒で進を打つ。技巧のかけらもない攻撃に、進は容易く木刀で受け流し、反撃に出た。


 張三が棍棒とナイフを交互に使っても、進に傷を負わせることはできない。それどころか、進の反撃で手首、腕、顔、胴体を打たれ、それらの部位は痛みで充血し、武器を握る手はすでに震えていた。


 張三には逃げ出したいという思いもあったが、駿はすでに彼の背後に回り込んで待ち構えており、逃げればより重傷を負う可能性があった。


 張三:「はあ……はあ…………降参する……」


 進が反撃を強めようとした時、張三は両方の武器を地面に投げ捨て、両手を上げて降参した。


 進:「……」


 駿:「もう降参か? さっきはああ言ってたくせに。にしても進も強えな!」


 張三:「ぐっ……!」


 駿に嘲笑されても張三は口答えできなかったようだ。


 駿は張三が捨てた武器を拾った。


 進:「でもオレたち、蔓を持ってない。どうやって拘束する?」


 駿:「そうだな。やっぱり気絶させた方が早いか」


 張三:「っ!? わ…わかった! ここでじってするから! やめてくれ!」


 駿:「お前らクズの言うこと信じられるかよ。おっ? いい方法思いついた。そのままの姿勢で立て」


 駿は張三の背後から前に回り、手持ちの武器を全て進に預けると、謎の笑みを浮かべて張三の両肩を掴んだ。


 張三:「……なにする気だ?」


 駿:「おらあっ!」


 駿は張三の下半身の某所へ強烈な膝蹴りを叩き込んだ。


 張三は喉から短く「うぐッ!!!!」と声を絞り出すと、その場で崩れ落ち、丸まって無力に蠢く。


 駿:「うーっげ、気持ち悪り触感……でままあ、これで30分は起きられないだろ」


 進:「うわあ…………」


 進は少し同情混じりの眼差しで張三を見つめ、武器を駿に返した。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

 もしよければご評価を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ