0107 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 15
進と駿のサイド。
斜め前髪の長い男:「こいつ……だったらこれはどうだ!」
進:「っ!」
棍棒に埋め込まれた骨の破片をいくらか落とされた後、斜め前髪の長い男は進もかなり手強いと悟り、棍棒のみから棍棒とナイフの混用攻撃に変更した。
それでも進は防ぎ切れるが、鋭利な武器を手にした明らかな悪意を持つ凶悪犯に直面するのは初めてであり、思わず二歩後退してしまう。
斜め前髪の長い男が振り返り叫ぶ。
斜め前髪の長い男:「おい! オマエ! 今だ、行け!」
17歳の男子高校生:「俺一人でっすか!?」
斜め前髪の長い男:「余計なこと言わず行け!」
17歳の男子高校生:「……くそっ!」
進:「しまった!」
これまでほとんど動きのなかった17歳の男子高校生は指示を受けると、中衛のメンバーたちの方へ走り出した。
彩乃:「来るよ!」
中衛のメンバーである彩乃、颯真、紗奈、健一、大翔は、17歳の男子高校生の襲来に備え、態勢を整えた。
健一が石を投げるが、17歳の男子高校生は危なげにかわした。
17歳の男子高校生:「お前……野球部か。ふん、当たるもんか!」
健一:「くそ、もう一回!」
健一が再び石を投げる。だがまたも避けられ、17歳の男子高校生の速度を少し落とさせただけだった。
それを見て、もう一方の比口が「援護しろよ!」と叫びながら斗哉と宏人をかわし、中衛の方へ走り出す。
斗哉:「止まれ!」
ヒュッ。
斗哉:「うわっ!?」
斗哉は比口を追おうとしたが、黒水の放った矢にかすりそうになる。
ハチマキをした男:「へっへい! 大人しくここにいなッ!」
そう言ってハチマキをした男は棍棒を斗哉に振るう。
斗哉がかわすと、今度は宏人に打ちつける。宏人は盾で防いだ。
宏人:「ぐっ……!」
斗哉:「ちくしょう!」
健一が3度目の石を投げた。17歳の男子高校生は「当たらねえっての!」と避け、比口も来ているのを見て再び前進を始める。
健一:「あああ! すいません! 止められないっス!」
大翔:「任せろ! おまえは後ろへ!」
健一:「わ…わかった!」
健一が後退し、17歳の男子高校生と比口が中衛たちの目前まで迫った。
高木の言う<あれ>とは、戦闘能力のない者を人質に取り、状況を有利に運ぶことだった。
集団内の非戦闘員はすでに数か所に分散して隠れており、持つ盾も前衛や中衛のものより大きく、巨大な根元に隠れるため専用に作られたものである。そのため、高木団体が簡単に目的を達成できる状況ではなかった。
故に比口と17歳の男子高校生の標的は中衛の中でたった2人の女性、彩乃と紗奈なのである。
比口:「おらあ!」
17歳の男子高校生:「どけえっ!」
比口と17歳の男子高校生はそれぞれ颯真と大翔を攻撃するが、颯真と大翔も盾で防ぐ。
すると、紗奈が突然大翔の背後から飛び出し、極限まで身を低くして、大翔と17歳の男子高校生の間へ滑り込んだ。
17歳の男子高校生:「あっ?」
紗奈の左手には、鞘代わりにタオルを切って作った布が巻かれている。
一閃。
17歳の男子高校生が反応するよりも早く、紗奈は下から上へ、超高速の居合斬りで棍棒を払い上げた。
棍棒は17歳の男子高校生の耳元をかすめて後方へ飛び、骨の破片が彼の耳に幾筋かの傷を残す。
17歳の男子高校生:「あ……あああ……」
大翔:「はああああ!」
動揺している彼に、大翔が全身の体重を預けて飛びつき、地面に倒し押さえ込んだ。
同時に、後方の巨大な根元に隠れていた亮太が大盾を構えて飛び出してくる。
亮太:「やあああああああ――ッ!」
ドッドッドッと足音を響かせながら、亮太は颯真に食い下がる比口に体当たりをかました。
比口:「な…なんだ!? うわあっ!」
比口は吹き飛ばされ、地面に尻餅をついた。
彩乃:「ナイス! やあっ!」
彩乃はそこへ駆け寄り、轉身して回し蹴りを放つ。
比口:「うぐおっ!」
回し蹴りが比口の側頭部を直撃し、彼を地面に倒す。続けて亮太が大盾ごと彼の上にのしかかった。半月以上にも及ぶ野外生存で、かつてふくよかだった亮太はかなり痩せたとはいえ、それでも十分な重量があり、比口は悲鳴を上げる。
30代の魚捕り男:「今だ!」
40代の魚捕り男:「行くぞ!」
中衛の危険が去ったようだと、後方にいた30代の魚捕り男と40代の魚捕り男も飛び出してきた。
30代の魚捕り男は17歳の男子高校生の押さえ込みを手伝い、40代の魚捕り男は蔓で撚ったロープで比口と17歳の男子高校生の両手を背後に縛り上げた。
紗奈:「ふう……」
健一:「よっしゃ! 捕まえたぞ!」
17歳の男子高校生:「くそ……離せよ!」
比口:「……くそが……マジでついてねえなあオレ…………」
40代の魚捕り男:「よし!」
比口と17歳の男子高校生は完全に制圧された。
千里のサイド。高木に一発殴られたものの、武器を弾き飛ばしたことで、千里はより有利になっていた。
突く、払う、叩く、斬り落とす。千里は連続攻撃を仕掛けた。高木が後退しながら避け続けても全てをかわしきれず、ダメージは蓄積され、完全に受け身の状態である。
高木:「…………」
突然、高木は腕で千里の斜め払いを受け止めると、千里へ向かって突っ走った。
千里は連続突きを放つが、高木は両腕で防御しながらも突進を続ける。千里は、高木が多少のダメージを負っても接近不能の状況を打破しようとしているのだと理解した。
直ちに千里も攻撃方法を変換。素早いフットワークで絶えず移動し続け、高木と一定の距離を保ちながら、適切なタイミングで突きを繰り出す。
千里の武器が木の槍で、高木も体格が頑健で常に防御態勢にある。とはいえ、ダメージが十分に蓄積されれば、高木を倒すチャンスは作り出せるのだ。
そして高木も当然この状況を望んでおらず、やはりチャンスを伺っている。
高木の腹部に、ある突きが命中した後、槍が引き戻される前に高木は素早くそれを掴み、両手で強く握りしめた。「これでおまえの武器もなくなる!」と考えながら。
しかし彼の予想に反し、千里は槍の柄に沿って素早く自分へ突進し、間髪入れず飛び蹴りを放ってきた。
高木:「うぐおっ!」
飛び蹴りは高木の顔面を直撃し、衝撃とダメージで彼は槍の柄から手を離した。
千里が追撃を仕掛けようとしたその時、黒水が再び彼に向けて矢を放った。
千里:「……ちっ」
千里は振り向いて中衛たちの状況を確認すると、健一に叫んだ。
千里:「健一! 一番後ろの弓を持ってる奴を牽制してくれ!」
健一:「お…おう!」
すると健一は黒水めがけて石を投げる。黒水は巨大な根元の小さなプラットフォームに乗っているため、容易に避けた。
しかし確実に牽制効果はあり、黒水の射撃頻度が大幅に減少した。
黒水:「……チっ」
斗哉の目に一瞬、鋭い光が走る。
斗哉:「チャンスだ! 南、ちょっとこいつの相手を頼む!」
宏人:「お…おい!」
斗哉はそう言いながらハチマキをした男をかわし、黒水へと駆ける。ハチマキをした男が棍棒を伸ばして阻止しようとしたが、届かなかった。
ハチマキをした男:「ぐっ……だったら先にお前をぶっ潰す!」
斗哉が黒水を倒せば宏人と前後から挟み撃ちにされるかもしれないと考え、ハチマキをした男は先に宏人を片付けることを決断。先ほどより強く攻撃し、ナイフも使い始める。宏人は防ぎきれず、盾も少し変形し始めた。
ハチマキをした男の立て続けの猛攻により、棍棒の骨の破片やナイフが盾の枝の隙間を伝って、宏人の盾を持つ腕に何度か切り傷を負わせた。
宏人:「ぐん……っ!!」
健一の援護もあり、斗哉はすぐに黒水の目前まで駆け寄った。
黒水は数的と武器的優位性から、最後尾で射撃している自分が接近されることはないと考えていたのか、高木団体9人の中で彼だけが棍棒などの接近武器を持っていなかった。
黒水:「来るな! じゃないと……!」
黒水は巨大な根元の小さなプラットフォーム上で弦を引き、斜め下にいる斗哉を狙っており、いつでも放てる態勢。しかし斗哉には備えがあったようで、途中で黒水がさっき放った矢を2本拾っていた。
斗哉:「じゃないとどうすんだ?!」
斗哉は右手で拾った2本の矢を黒水の顔面へ投げつけた。
黒水:「ぐっ!」
黒水は避けるために大きく体を反らせ、狙いを定められなくなり、慌てて放った矢も大きくそれた。
次の矢を番えるには時間がかかる。その間の黒水にもはや脅威がなく、斗哉は踏み込んでバットを黒水の膝へと打ち付けた。
黒水:「ギャああッ!」
黒水は転げ落ち、地面にうつ伏せになる。斗哉はすぐさまもう一打ち、今度は黒水の弓を握る右手へと振り下ろした。
黒水:「ぐああああああああああッ!」
黒水は悲鳴と共に弓を離す。斗哉は素早くそれを拾い上げた。
黒水:「やめてくれ! 降参だ! これ以上は勘弁してくれ……ッ! そんなもん、当たり所が悪けりゃ死んじまう……っ!」
黒水は体を起こし、左手で頭部を守りながら、両膝をついた姿勢で許しを請う。斗哉は再びバットをかざす。
斗哉:「ア? 殺される覚悟もねえのにオレらを殺すつもりで来たのか? 安心しろ、全力は出さねえ。人の頭蓋骨ってのは堅いんだ。簡単に死ぬわけがねえ……たぶんな」
そう言うと黒水の頭部へ打ち下ろした。
黒水:「や…ヤメロッ!!」
ガンッ!!
という音とともに、黒水は気絶した。
斗哉:「……よし、弓矢はオレらのもんになったぜ。オレにゃ使えねえが。ま、とりあえず持っとくか」
残りの矢を拾うと、斗哉は宏人の元へ戻っていった。
読んでくれてありがとうございます。
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