0105 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 13
15日目、千里が推定した高木団体の到着可能性のある時間帯になり、集団の人々は戦闘への準備を整えていた。食料は十分に備蓄されていたため、男性たちは狩りを行わず、代わりにこれまでより広範囲のパトロールと警備に当たっている。
しかし、この日、高木団体は訪れなかった。
そして16日目の午後、拠点近くの森で警備に当たっていた宏人が慌てて拠点へ駆け戻ってきた。
宏人:「来たぞっ!! 多分全員だ!」
皆が緊張し、それぞれの武器と盾を手に取る。他の場所で警備していた者も物音と呼び戻す声を聞き、次々と拠点に戻ってきた。
千里:「やはり別の方向から回り込んだか。みんな、この方向に向かって陣形を取れ!」
千里の指揮の下、皆は慌てず、事前の訓練通り素早く陣形を整える。冷や汗をかきながら、高木団体の接近を静かに待った。
高木団体は本来奇襲を狙っていたが、発見されたため、いっそ大仰に歩いて近づいてきた。
比口:「うわっ! なんだこりゃ!」
斜め前髪の長い男:「ここにも湖があったんだな、逃げねえわけだ」
ピアスをした男青年:「来たぜ、へへへ」
高木:「おやおや、なかなかしっかりしてるな。どれどれ、何があるかな」
高木団体の者たちが拠点に入り、無遠慮にあちこちを見回す。双方は距離を保って対峙する。
高木:「おっ! あれは何だ? そっちのは? おお、あんなに盾が。がっちり武装ってわけか」
倉岡:「食いもんたくさんあるぜ」
黒水:「……人数は増えてねえようだ」
千里:「……」
高木団体が拠点と集団の人々を観察している間、千里たちも高木団体の者を観察していた。
彼らは9人。3人の女性はいない。黒水は木製の弓との矢を装備し最後方に立っている。それ以外の全員が骨の破片を埋め込んだ棍棒を持っていた。高木は最前方に立ち、両手と前腕の先端を細長い布切れで巻いている。簡易的なボクサーのバンテージだ。
彼らの顔には、傲慢さと自信しかなく、威圧的である。
高木:「装備はともかく、人数が増えてねえのは本当に助かるよ」
斗哉:「……テメエらの方は1人減ってんじゃねえか。どこ行った? まさかまたタバコ吸ってリスに殺されたんじゃねえよな?」
倉岡:「コイツ……っ!」
比口:「当ててみな?」
斗哉:「ちっ。隠れて奇襲でも仕掛ける気か?」
千里:「……あの二人の女性は?」
高木:「俺らは紳士だ。こんな場面、女を安全な場所に待機させてるに決まってるじゃないか」
斗哉:「テメエらが女どもをろくに扱ってねえから、戦いになったら後ろからブチかまされちまわねえかって、ビビってるだけじゃあねえのか?」
高木:「…………ほぉお。こんな戦力差でよくも挑発できるもんだな。よほど実力に自信があるのか、それとも世間知らずの低脳なのか」
斗哉:「……当ててみな?」
比口:「……」
高木:「……」
高木と他の数人が斗哉を睨みつけた。
千里が斗哉にこれ以上挑発するのを止めさせると、高木団体に向き直る。
千里:「一応聞く。何しに来た?」
高木:「もちろん、有用な人材を『引き取り』に、だ」
千里:「……」
高木:「選択肢は2つだ。一つは今すぐここを立ち去って、二度と俺らの邪魔をしない。一つはこれまで通りに自己満足の『善人』ごっこを続けて、そして俺らに潰される。ああ、言っておくが、やり合いになったらおまえらの命の保証はしないぞ?」
千里:「悪いが、俺たちは『みんなで力を合わせて悪党を取り除く』を選ぶ」
「ハあ──はははははは!!」
千里の返答に、高木団体の者たちは大げさに動作をつけて大声で嘲笑う。
高木:「ふふははは。笑わせてもらったぜ。少しは分別があると思ってたが、テメーも低脳だったな。認めてやろう。テメーらがこんだけの盾を作ったのは予想外だった。見た目はともかく、多少は役に立つだろう」
高木は両手を広げ、侮蔑的な眼差しで続けた。
高木:「だがな、人数は9対5、それも盾を持ってるのは3人だけ。まさか本当にこれで勝てると思ってねえよなあ?」
千里:「それは試してみないと」
「ハハハハハハハハハ!!」
高木団体の者たちは再び大笑いする。
高木:「……何年か鍛えて、同世代より少し強いだけで、実力を過信しているのか。結局はガキだな。前は買いかぶってたよ。そうと知ってりゃあの時やっておくだったな」
倉岡:「親分、んなことどうでもいいから、ぶっ潰そうぜ!」
高木:「そうだな。じゃあ好きにやれ」
そう言うと高木は後ろへ下がり、黒水の後ろまで行き、巨大な根元にもたれて観戦態勢を取った。
その二人を除く高木団体のメンバーは「へへっ」という鼻息の荒い笑い声をあげて数歩前進した。
倉岡、ピアスをした男青年、斜め前髪の長い男はそれぞれナイフを取り出す。彼らは左手に骨の破片を埋め込んだ棍棒、右手にナイフを持ち、攻撃目標を選ぶように目を光らせる。
これを見て、千里、斗哉、進、宏人、駿の5人の前衛はすぐに臨戦態勢に入る。千里と斗哉は盾を持たず、宏人と駿のみが棍棒に骨の破片を埋め込んでいた。千里が最前頭に立ち、進と駿が左翼、斗哉と宏人が右翼に位置する。
さらに緊張が走った。
千里:「止まれ。警告する。これ以上前進すれば、お前たちが我々を傷つける意思があるとみなし、同時に自衛のための攻撃手段を取る」
千里の声は低く沈んだ。彼は片手で槍を持ち、槍先を高木団体の者たちに向けてしっかりと構える。眼差しは厳しく、射すくめるように鋭い。
倉岡:「はははははッ!! マジで笑えるぜコイツ!」
比口:「そう~なんだぁ~ほれほれぇ~」
比口は一歩前進しては一歩後退する。一歩前進してはまた一歩後退する。それをニタニタ笑いながら数回繰り返した。
比口:「えいっ~えいっ~どうした? 来るんじゃ……」
比口の挑発的な言葉が終わらないうちに、千里は重心を低くした姿勢で突進した。
倉岡:「おっと、コイツマジで来……って早えッ!」
千里の速度は飛ぶように速く、高木団体の者たちはこぞって武器を構えた。
千里たちは高木団体がナイフを3本所持していると推測しており、所持者がナイフを明らかにした後、千里は攻撃の順序と軌道を計算し終えていた。
まずは最前方に立つ3人。倉岡が中央、ピアスをした男青年が右側、比口が左側。
千里は倉岡に向かって加速する。タイミングを見計らい、削って鈍円錐状にした槍の穂先を倉岡の右鎖骨下窩、つまり肩甲骨と鎖骨が接する三角の窪み部分へ強烈に突き立てた。
彼の右半身を前方に突き出し、元々長いリーチをさらに増し、高木団体の者が反応できたとしても自分を攻撃できないようにした。
ドンッ!!
穂先が正確に命中。倉岡は衝撃で二歩後ずさり、よろめいて地面に倒れた。
ピアスをした男青年:「この……っ!」
千里が本当に攻撃を開始したのを見て、ピアスをした男青年と比口はすぐに反撃しようとしたが、千里の方が速かった。
倉岡を突いた後、千里は素早く左手で槍の柄の末端を握り、左上へ槍を上げさせると、腰を捻って右へ払うように振り抜いた。長剣で上段を薙ぎ払うように。
ヒュ――パンッ!
ピアスをした男青年:「ぐおッ!!」
放たれた槍の穂先がピアスをした男青年の顔面を打ちつけ、その顔を右へ捻じ向けさせ、唾をも飛び散らせた。彼は目を回してバランスを失い、後ろへ倒れていく。
千里の動きはまだ終わっていない。ピアスをした男青年を打った後、左手を離し、再び腰を捻り、長槍自体の慣性を利用して背後へ収める。そして背後で両手を柄の末端に握り直し、前方へ馬歩を踏み出し、空中に大きな弧を描くように比口へ打ち下ろす。
比口:「うわっ!」
バンッ!
比口は怖気付き首を縮め、慌てて棍棒を両手で横にして掲げ、辛うじてこの一撃を防いだ。
しかし比口が安堵する間もなく、千里は穂先を即座に引くと比口の胴体へ素早い連続突きを放った。
ヒュヒュヒュヒュッ!
比口:「ぐああああっ!!」
4度の突きの後、比口はバランスを崩し始めた。そこで千里は5度目の突きで力を込める。「ドンッ!」という音とともに比口を後方へ突き倒した。
突進を開始してから、千里の一連の動きには微塵の躊躇やぎこちなさもなく、高木団体の面々は彼が口先だけではないことを認めざるを得なかった。
比口:「ぐっ……! 痛てえ……! おい! いつまで寝て……あん?」
半ば地面に寝た状態からゆっくりと体を支え起こす比口が倉岡に起き上がるよう促すが、倉岡の状態は彼の予想を裏切っていた。
倉岡は突き倒された後、激しい痛みと灼熱感、電撃のような感覚が突かれた部位で炸裂し、右腕から指先まで走っていた。彼は地面で苦しそうに体を丸めながら転げ回り、顔は歪み、顔色は紅潮し、目には血走った血管が浮き出ている。左手は棍棒を捨て、突かれた部位を必死に押さえ込み、右腕は力を失い、ナイフも地面に落ちていた。
倉岡:「がっああ……ッ!! ぐあ…………ッ!!」
喉から絞り出される絶叫は、横隔膜の痙攣によってかすれた断片に途切れていた。
千里以外に、あの一見何の変哲もない突きのダメージがこれほどまでに大きいものだとは、誰も知らなかった。
あの攻撃は倉岡のその部分の筋肉と神経に多大な損傷を与え、このような連鎖反応を引き起こしたのである。
読んでくれてありがとうございます。
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