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0104 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 12


 千里は長槍を収めた。


 千里:「……本当に彼女が他の男を好きになったと思うのか」


 斗哉:「…………最初は本当に疑った。だが、あのビンタの時の表情を見りゃ、そうじゃないってわかった」


 斗哉は今、とても平静だ。


 千里:「じゃあ、なんでこんなことを?」


 斗哉は数秒間沈黙した。


 斗哉:「…………………………楓に言われてわかったんだ。あいつは正しい。オレはおまえに対して劣等感を持ってるかもしれん」


 千里:「……」


 斗哉:「この原始な森に来て、オレはなにもできなかった。なのにおまえはなんでもできて、なんでも上手くやれる。みんなおまえを認めてる。オレとなん年も友達やってきた進すら明らかにおまえが好きで、おまえへの信頼がオレに対するのより厚い気がするわ」


 千里:「……」


 斗哉:「だから、楓までもがおまえを高く評価して、オレの前でおまえを褒めるのを見て、オレは多分……いや、間違いなく焦って、妬んでた。あまつさえ自分に向けるべき怒りをおまえに八つ当たりしてしまった。悪かった」


 千里が微笑む。


 千里:「俺はそんなに気にしてないよ。だがお前にはもっと謝るべき相手がいるはずだ」


 斗哉は上半身を起こした。


 斗哉:「言われるまでもねえよ。あとでちゃんとあいつに謝るさ」


 千里:「ふっ」


 千里は手を差し出した。斗哉がそれをつかみ、千里は斗哉を引き起こす。


 千里:「3人とも、出ていいよ」


 どうやら紗奈と進はさっきすでに楓を連れて戻っていたらしい。千里と斗哉が大事な話をしているのを見て、どうすればいいかわからず、巨大な根っこの陰に隠れていたのだ。


 楓:「……」


 楓はよそを見つめたまま、何も言わない。


 斗哉は覚悟を決めて楓の方へ歩いていった。進と紗奈は空気を読んで、楓のそばから千里のそばへ移動する。


 楓の目前まで来ると、斗哉は深々と頭を下げた。


 斗哉:「……すまない、楓。あんなこと言うんじゃなかった。許してくれ!」


 楓:「…………」


 斗哉:「………………」


 二人はその姿勢のまましばらく沈黙し、ようやく楓が斗哉を見た。


 楓:「…………本当に反省してる?」


 斗哉:「真剣に反省してます」


 楓:「…………今は非常時だから、今回ばかりは許してあげる」


 楓のその言葉に、斗哉はぱっと体を起こし、危ない橋を渡り切ったような笑顔を見せた。


 斗哉:「へへっ!」


 楓:「……でも、もし次があったら……」


 斗哉:「ないない!」


 斗哉の慌てた様子に、見守る三人は思わず笑みを漏らした。


 紗奈:「なんで喧嘩したかはわからないけど、仲直りできて本当によかったね!」


 進:「ああ」


 斗哉:「よし、これでこの件は終わりだ。戻ろうぜ」


 千里:「待て。その前に二人に説教だ」


 斗哉:「は?」


 千里:「本来は余計なお節介はしないつもりだったが、俺の話も出たことだし、何かを言う権利はあるんじゃないか」


 楓:「……」


 斗哉:「な…なにを言うつもりだ?」


 千里:「まず、なぜ喧嘩したのか教えてくれ」


 斗哉:「うっ!」


 楓:「シたいことができなくて、猿が怒ったんだわ」


 斗哉:「おまっ……猿って……」


 千里:「……なるほど、そういう…………」


 進:「ああ……うん…………」


 紗奈:「え? なに?」


 斗哉は顔を赤らめ、頭をかきながら視線をそらした。


 千里:「コホン。理由はさておき、君たちはもっと自制心を持ったほうがいい。簡単に衝動に流されないように。君たちにとって、自分の感情を発散させることが、相手との関係をうまく維持することより重要なのか?」


 楓:「………………」


 斗哉:「……いや……」


 千里:「わかっているなら結構だ。じゃあこれ以上は言わないでおこう。多く語ればウザがられるし」


 楓:「……いえ、続けて。あなたの話す道理は、私たちが学ぶ価値が十分にあると思うわ」


 傍らの進もうんうんと頷く。


 千里:「うーん……学ぶ価値なんて大げさだ。では続けよう。家族愛であれ、恋愛であれ、友情であれ、今誰かと親密な関係にあって、または将来誰かと親密な関係になりたいけど、その人やその人たちと避けられない考え方の衝突があるとき、すべきなのは、相手の考えや提案を理解して受け入れ、自分自身を変える。または己の考えの利点を相手に示し、相手が自発的に己の考えや提案を理解して受け入れ、自分自身を変えるように仕向けることだ。己の考えを相手に押し付け、無理に変えさせようとするものではない」


 楓は半分目を細めて斗哉を見る。その表情は「わかった?」と言っているようだ。


 斗哉:「ぐっ…………」


 千里:「さっきの二人に当てはめると、斗哉は怒りに自分を支配させ、自分の憶測を楓に押し付け、話し合おうという意思がなかった」


 斗哉:「…………」


 千里:「そして楓にも問題がある」


 楓は自分も名指しされるとは思っていなかった。


 千里:「斗哉の理不尽な非難に傷つけられたとはいえ、ビンタだけして背を向けて去るという行為もまた、感情に支配されたものであり、同じくコミュニケーションを放棄したことになっていた」


 楓:「………………あんな状況でも我慢しろというの?」


 千里:「ああ、そうだ。まずは冷静になってよく話し合い、問題の核心を見つけ出す。それから誰が誰に譲歩するかを決める。あるいは、双方が受け入れられる折衷点を話し合いで見つけ出す。最後に、傷つけられたことについて償いを話し合う」


 楓:「…………………………」


 千里:「コミュニケーションを放棄するのは、お互いの間に隔たりを生み、関係にヒビを入れるだけだ。たとえ和解したとしても、それらの隔たりとヒビは大きく残り、そして後の何らかの衝突で完全に爆発する。そうなってから関係を修復するのは難しくなる」


 楓:「………………」


 斗哉:「………………」


 千里:「ま、俺の持論に過ぎないけどな。俺は恋愛経験がないから、実際にそうなるかどうかはわからない。ただ、多くの事は共通していると思う。だからその中に参考にできる点を見つけられるなら、この話も無駄にはならないだろ」


 楓:「…………あなたの言うことは道理にかなっていると思うわ。ありがとう」


 斗哉:「……全部はよくわかんねえけど……次からは気をつける……」


 千里:「それでいい」


 千里の言葉は二人の思考を駆り立て、傍らの紗奈と進も小声で話し合っていた。


 紗奈:「ねえねえ、進はわかった?」


 進:「全部は理解できてないけど、オレも理があると思う」


 その後、五人は拠点へ戻っていった。





 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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