0102 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 10
12日目と13日目、集団は拠点の建設、パトロールと警備、食料と物資の備蓄、武器と防具の製作に忙しく、さらに襲撃に備えた訓練も行った。
学生たちは高木団体の襲撃を恐れてはいたが、現在の状況に多少の高揚感もあり、不安とウズウズが入り混じった状態だった。
13日目の昼、比口、張三、斜め前髪の長い男、そしてピアスをした男青年の4人が、高木の待つ前の池の拠点へ戻ってきた。
比口:「親分、戻りやした!」
高木:「おう?」
高木団体の他の者たちは皆、焚き火を囲んで焼肉を食べていた。
倉岡:「見つけたのか?」
比口:「ああ。だが腹減りすぎだ、今日は道を急いでなんも食ってねえ。食いながら話させてくれ」
そう言うと比口ら4人は焚き火の周りに刺さって焼けている肉を手に取り、むしゃむしゃと大口を開けて食べ始める。他の者たちは少し場所を空け、彼らが座れるようにした。
高木:「連中は今どうなってる? どこにいる? 新顔はいたか?」
比口:「ここから2日半くらいの所っす。むしゃむしゃ。確認できたのは8人だけで、全部前からの連中ばっかっす。むしゃむしゃ。だが、狩りに出てる奴は増えたみてえだ。前に隅っこにいた奴らも出てきやがったっす」
倉岡:「獲物が獲れなくて、タダ飯食いの役立たずどもも引っ張り出したってわけか、ハハっ!」
ピアスをした男青年:「まさに役立たずだぜ。オレらナイフも使わず、棍棒だけで奴らをわんわん泣き喚かせた。ハハハ!」
斜め前髪の長い男:「ほら、メガネ野郎の眼鏡3本分だ。2人負傷させた。あの2人を連れて移動しようもんなら、絶対に遠くへは行けねえぜ」
斜め前髪の長い男は3本の眼鏡を高木に渡した。
高木:「ほぉお、よくやったな」
高木はそれらの眼鏡を少し弄った後、1本ずつへし折り、レンズをこじ出して焚き火の中へ放り投げた。フレームの残骸はポイ捨て。
比口:「うわっ、親分容赦ねぇー」
高木:「千里って奴は? あの8人の中にいたか」
張三:「いなかった」
高木:「ふむ」
ピアスをした男青年:「親分、奴らをやっつけに行こうぜ! 奴らの武器には骨が付いてねえ、オレたちの武器のほうがずっと強いぞ」
高木:「馬鹿め、おまえらが目の前で骨付きを使ったんだ、奴らも真似して付けるに決まってるだろう」
ピアスをした男青年:「うっ……」
高木:「行くのはもちろんだ。だが聞いておく、奴らの棍棒にも骨が付いているはずだ。それでも奴らと戦う度胸はあるか?」
ピアスをした男青年:「ねえわけがねえ!」
比口:「もちろんっす」
張三:「やれる!」
斜め前髪の長い男:「ないなら最初から行ってないさ」
高木は首を他の者たちに向け、顎を上げながら訊いた。
高木:「おまえらは?」
倉岡:「もちろんあります!」
17歳の男子高校生:「や…やったことないけど、有利なら問題ないと思います」
ハチマキをした男:「ガキ共の相手だろ」
黒水:「……俺は前には出ない。後ろから援護しますわ」
山田:「…………………………」
高木は一言も発しない山田を一瞥し、もう一つ訊いた。
高木:「奴らの戦力は最後まで抵抗するかもしれねえ。おまえら、殺す度胸はあるか?」
倉岡:「エ…ええ……?」
ピアスをした男青年:「それは…………」
張三:「………………」
比口:「……」
黒水:「…………」
高木の二度目の“度胸はあるか“という問いに、男たちは皆一瞬たじろぎ、その後顔を見合わせ、誰かが先に口を開けるのを待った。
高木:「奴らの戦力を片付けたりゃ、他の連中は俺たちの好きにできる。男は狩りに行かせ、女は体を提供させ雑用をさせる、価値のない役立たずは追い出す。俺たちは連中を監督して、座って楽しんでいればいい。これが弱肉強食の『強者』だ。これが『やりたい放題』だ。どうだ、なりたくねえか?」
倉岡:「…………な…なるよ!」
比口:「……ああ、やるからには徹底的にやるぜ!」
ピアスをした男青年:「やってやる!」
張三:「………………どうせもうこうなったし、やるしかねえな」
ハチマキをした男:「……元々そうなるために親分について来たんだ」
黒水:「……俺は親分の言う通りにします」
17歳の男子高校生は他の者がそう言うのを見て、少し慌てながらも同調した。
17歳の男子高校生:「……お…俺もやります!」
山田:「……………………………………………………」
山田だけが依然として沈黙したままだった。
高木:「よぉし。おまえら4人、今日は休め。他の者は準備をしろ、明日出発だ」
倉岡:「お…おう! やってやる、やってやるっ!」
ピアスをした男青年:「そうだ! ビビることねえ!」
比口:「楽しみだぜ」
斜め前髪の長い男:「今から楽しまないか?」
斜め前髪の長い男はそう言いながら、逆手の親指で傍にいる3人の女性を指した。
比口:「お前って奴なぁ、親分が休めって言っただろ」
斜め前髪の長い男:「なんだ、できないのか?」
比口:「ハ? 誰ができねえって? 勝負してみるか?」
斜め前髪の長い男:「やろうじゃないか、負けるかよ。へへ」
そう言うと二人は猥褻な笑みを浮かべて女性たちの方へ歩いていった。
3人の女性は終始沈黙していた。その内のルナは高木の考えが少し行き過ぎているとは思っていたが、特に気にしている様子もない。
そして亜衣美と風俗嬢は程度の差こそあれ、後悔をしている。
自分は悪くない、ただ最も自分に利益のある選択をしただけだ、とは思いつつも、良心を持つ人間として、<こんな連中に加わってしまった>と自己嫌悪に陥らざるを得なかった。そして二人には高木を説得する資格も胆力もなく、ただ集団に死者が出ないようにと祈るしかない。
午後、山田は高木を池から離れたところに呼び出し、話をした。
高木:「なんだ、山田よ」
山田:「……高木さん……親分、そこまでしなくてもよくないですか?」
高木:「何の話だ?」
山田:「その……人を殺すとか、いくら何でもやりすぎじゃないですか? あの人たちは俺たちに何もしてきてないし、むしろ俺たちの方がいっぱいやってきて…………」
高木:「……おう? で?」
山田:「……だ…だから、もうここでやめませんか? あっちは人数も多いし、万一死を恐れない奴が何人か出てきたら、俺たちも危ないですよ」
高木:「…………………………」
高木は少しうつむき、考え込んでいるようだ。
山田:「それにあの人たち、けっこういい人たちみたいだし、それでもって言うなら……俺…………やりたくはない……です……」
高木:「おぉ~~~そういうことか! うんうん! わかったわかった、じゃあやめよう!」
高木はマスクをしているので表情は見えないが、その声は積極的で爽やかな感じに満ちており、山田は高木がきっと笑っているのだろうと思った。
高木に責められると思っていたので、その反応を見て山田はほーっと安堵の息を吐き、表情も和らんだ。
山田:「本当ですか!」
高木:「本当本当!」
山田:「良かった! じゃあ早くみんなに伝えに行きましょう!」
そう言うと、山田は向きを変えテントのある方へ戻り始めた。
山田:「いやあ、怒られるかと思いましたよ、話を聞いてくれて本当に……」
激痛。
山田:「………………え?」
山田の腰に一本のナイフが突き刺さられている。
山田:「あ゛っ……あ゛あ゛…………ッ!」
もちろん、高木が刺した。他の誰も見たことのないナイフで。高木は鼻で息を吐いた。
山田:「……なん……で…………」
山田の顔色は青ざめ、痛みと恐怖が彼を襲っていた。
高木:「頭どうなってるんだおまえ。ここまで来てやめられるわけないだろが。おまえがあの部長さんを殺した時、なんでそんなことしたか考えたことあるか? それはな、この世界ではおまえの方がそいつより強いからだ。元の世界でそいつはおまえより地位が上だから、おまえより強かった。だからおまえはそいつに逆らえなかった。この世界に来て、おまえはそいつにやりたかったことをやった。それがおまえの『弱肉強食』へのいい解釈だったじゃないか」
山田:「……あ…あれは…………っ」
高木:「なのに今さら明らかに強い俺たちが奴らを食い物にするなだと? どういう了見だ? やりたくないって言うなら、もうおまえはいらねえわ」
そう言いながら、高木はナイフをさらに深く押し込んだ。
山田:「ギャア゛あ゛あ゛ああああッ!! ご…ごめんなさい……っ!! ごめんなさいッ!! 俺が悪かった!! もう二度とそんなこと言いませんッ! だから助けてくださいッ! し…死んじゃう……ッ!!」
高木:「残念だったな、今更後悔しても遅いんだよ。恨むなら俺への忠誠が足りなかった自分を恨め」
高木はナイフを捻り、山田の傷口を広げた。山田の血が絶えずに流れ出る。
山田:「ギャア゛ア゛あ゛ああああああんぐうんん――ッ!!!!」
山田が絶叫する。高木は他の者に聞かれないように、左手で力強く山田の首を締め上げた。同時に、山田の血が付かないように注意を払う。
山田は激しくもがく。首を絞められて頭部は真っ赤になり、目の中の細い血管が圧迫されて破れ出血し、涙も絞り出された。
少しすると、彼は絶え間ない出血と首を絞められたことによる酸欠で、徐々に力を失っていった。
高木は山田の脈が完全に止まるまで腕を緩めなかった。
山田は死んだ。
高木は山田を放し、大きくため息をついた。
高木:「はあ…………また後処理か……めんどくせえ。だが森の中なら、まあ簡単だろう。あっ、そういやこいつにあの部長の死体の隠し方教えたの俺だったな」
高木は山田の死体を近くの巨大な根元の下まで引きずり、山田の服とネクタイでナイフに付いた血を拭い落とす。最後に大量の落ち葉を集め、山田の体と地面の血痕の上に覆い被せた。
高木:「あの部長の死体見たって話も聞かねえし、この森にいる奴は少ないんじゃないのか」
処理が終わると、高木は池の畔へ戻った。
森は何事もなかったかのように静かで、ただ風が葉を揺らす音だけがカサカサと響いていた。
黒水:「……ん? 山田は?」
高木:「ああ、あいつか、あいつは逃げた」
読んでくれてありがとうございます。
もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)
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