0100 - 第 2 巻 - 第 3 章 - 08
10日目、慧子が千里に一つ報告をした。女性キャンパーと眼鏡をかけた18歳の男子高校生が一度ならず2人きりでいたらしい、という。
すると千里はその二人を呼んで、少し離れた場所で話をした。
千里:「今吹さん、三浦。二人は仲がすごくいいって聞いて……いや、やめとこう。皆大人だし、単刀直入に聞くよ。安全策は講じたか?」
三浦:「っ!」
三浦は高校生とはいえ、既に18歳にはなっている。千里にそうストレートに聞かれ、彼は少し慌てて視線をそらした。
今吹:「あ…あはは……も…もしかして、見られちゃった……?」
千里:「見られたかどうかは知らない。だが、最低3人で行動するように言った後に、それでもたまに二人でどこかに行くところを誰かに見かけられたから、目立ったでしょう」
今吹:「そ…そうですね、はは……うん。これからは気をつけるよ」
千里:「いや、これからはこれからとして、それまでに安全策は講じたのか?」
今吹:「………………」
三浦:「………………」
千里:「…………どうやらノーだな」
今吹:「だ…大丈夫と思う……たぶん……」
千里:「何を根拠に“大丈夫”だと言うのかはわからないけど、一言言わせてもらう。ここは何の医療設備もない野外だ。万一<当たり>を引いたら、その結果は深刻だぞ?」
今吹:「…………そ…そう……だね……」
三浦:「………………」
千里:「……これは二人の問題だから、これ以上あれこれ言うつもりはない。だが少なくとも、ヤツらの脅威が去るまでは自制してほしい。襲撃されないようにするためにも」
今吹:「…………わかりました」
三浦:「…………ああ」
千里:「じゃあ言うことは以上だ。戻ろう」
解散後、今吹と三浦はズコズコとどこかへ行った。
千里:「……食べ物が足りるとアレを満たしたくなる……か……うーん………………」
千里は思考に耽った。
10日目もすぐ過ぎていく。この日は狩りの獲物が多く、皆は本格的に干し肉作りを計画に組み入れ始めた。また、武器も更新され、以前よりずっと使いやすくなっている。
そして11日目の朝、皆が危惧していた事態はやはり起きた。
比口:「よお、随分探させたなあ」
三浦:「っ! お…お前は……!」
駿:「くそっ! 結局見つかっちまったか!」
集団の狩りは午前と午後に分かれて交代で行われ、午前8人、午後7人、千里は単独行動。メンバーは一緒に出発し、その後2、3人の小隊に分散して獲物を探す。お互い見える範囲にはいるが、それなりの距離はある。
今、三浦と駿の前に立っているのは比口1人だけだったが、高木団体のメンバーは彼だけではない。彼らも分散していた。
張三:「さっさと片付けろ! 主力が来る前に済ませるんだ!」
張三の催促とともに、暗がりに潜んでいたピアスをした男青年と斜め前髪の長い男も現れ、散らばった狩猟班に向かって突進していった。
ピアスをした男青年:「おらおら! こ前の威勢はどうした! 来いよ!」
40代の魚捕り男:「う…うわあ!」
進:「ぐっ!」
骨の破片を埋め込んだ棍棒を振り回すピアスをした男青年に対し、進は40代の魚捕り男を守りながら応戦する。
枝で作った棍棒同士がぶつかり合い、硬質な音が不気味に森に反響し、緊張が走った。
進:「おじさん! 早く千里たちに知らせて来てくれ!」
40代の魚捕り男:「わ…わかった!」
そう言うと、40代の魚捕り男は進の援護のもと、その場を離れた。
斜め前髪の長い男:「ふっ!」
14歳の男子中学生:「うぐあっ!!」
斜め前髪の長い男が男子中学生の腹に蹴りを入れる。男子中学生は苦しそうに蹴られた場所を押さえ、体を折り曲げた。
颯真:「お…おい!」
紗奈:「やめて!」
颯真と紗奈はその様子を見て彼らの方へ駆け寄る。
斜め前髪の長い男は舌打ちをし、男子中学生がかけていた眼鏡を乱暴に奪い取った。続いて骨の破片を埋め込んだ棍棒で男子中学生のふくらはぎを一撃すると、背を向けてその場から走り去る。
男子中学生は悲鳴をあげ、打たれた場所から血が滲んだ。
張三:「はあっ! ほあっ! ほあッ!」
真部:「あ…あああ……!」
張三は骨の破片を埋め込んだ棍棒で真部に向かって上から連続で打ち下ろし、真部は自分の棍棒を横にしてそれを防ぐ。真部が怖がっているすきに、張三は真部の眼鏡をひったくるように奪い、成功するとげらげらと卑劣な笑い声をあげた。
真部は眼鏡がないためよく見えず、さらに慌てふためく。張三も棍棒の骨の破片の部分で真部のふくらはぎを打ち、真部は痛さと恐怖でわんわんと叫んだ。
比口と駿は対峙していたが、武器の差が比口を有利にしていた。比口は容赦なく駿に攻撃を仕掛け、駿は防ぎながら後退する。数秒後、駿と三浦の間に少し距離ができ、比口はさっと方向を変えて三浦に打ちかかった。
三浦:「く…来るな!」
三浦は比口の棍棒の攻撃をかわしたが、比口は間髪入れずに右腕を伸ばして三浦の首を締め上げた。初日のように。
三浦:「ぐうっ!」
比口:「はは! またこうなったな」
駿:「おい! このヤロー! 俺に向かって来いよ!」
駿は再び距離を詰めようとするが、言うより早く、比口も乱暴に左手で三浦の眼鏡を引きはがし、そして三浦を駿の方へ突き飛ばした。
比口:「ハハッ!」
比口は三浦の背中に向かって骨の破片を埋め込んだ棍棒を振り下ろす。駿が間に合ってそれを防いだ。
進:「集まれ! まとまろう!」
駿:「おう!」
紗奈:「さあ、ちょっと移動するよ!」
14歳の男子中学生:「う…うっ…………」
進の呼びかけに、皆は高木団体の者たちと対峙しながらも、傷を負った真部と男子中学生を中心に集まり、陣形を形成した。高木団体の4人も簡単には攻撃を仕掛けられなくなった。
比口:「ちッ」
張三:「どうする? 続けるか?」
ピアスをした男青年:「続けるに決まってんだろ? なんの心配してんだよ?」
斜め前髪の長い男:「……奴ら、人を呼びに行ったんだ。どうせもう成功したし、主力が来る前に戻ろう」
比口:「ああ、戻るぞ」
ピアスをした男青年:「あ? また3日もかけて帰んのかよ?」
比口:「行かなきゃあんな大勢に勝てんのかお前? 道はわかってんだ。そこまでかからねえよ。つべこべ言わず行くぞ」
ピアスをした男青年:「チッ」
高木団体の4人は撤退を開始した。去り際にピアスをした男青年が捨て台詞を吐く。
ピアスをした男青年:「首洗って待ってろよ! また来てやるからな!」
彼らがある程度距離を離れた後、進が「…………オレたちも帰ろう」と言い、皆を連れて戻り始める。途中、増援に駆けつけた千里と健一と合流し、一緒に拠点へ戻った。
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