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0010 - 第 1 巻 - 第 2 章 - 4


 少女は壁に取り付けられたいくつかの蝋燭ランプを点けた。柔らかいオレンジ色の灯りを頼りに、三人は悠樹と萌花が現れた円形の模様が彫られた場所にやって来た。


 悠樹と萌花はこれが自分たちを召喚した魔法陣だと思っている。しかし少女はその魔法陣を見て眉をひそめた。


 「あれ? コレ、割れています……?」


 「え? 私たちが見た時にはもうこうなってたけど、もしかして私たちが壊しました?」


 「えと……コレが刻まれている岩はとても硬く、簡単にはこうならないと思います」


 魔法陣の中は岩が一部弾けていて、模様にも明らかな亀裂が数本入っている。その中の1本が大きく、円の外まで広がっていた。全体の形はすでに崩れていて、まるで無造作に刃物で切り刻まれたかのようだ。しかもその傷痕は真新しい。


 三人はこの原型を留めない<魔法陣>をしばらく見つめていた。


 「なぜコレがこんな風になっているのかはひとまず置いておいて、猫森さんの質問に戻りますが、コレは私の家の人が残したものではありません」


 「ん……じゃあ誰がなんのためにここに魔法陣を設置したんですか?」


 「“設置”……お二人の世界では、コレも『魔法陣』になるのですか?」


 「え? 違うの?」


 少女の問い返しに、萌花が首を傾げてさらに問い返した。


 「……先ほども言いましたが、『魔法陣』というのは<魔法が発動する際に現れる光陣>。逆に言うとそれは<魔法が発動する時にのみ現れるもの>です。このような床に刻まれているもの、または地面や紙に描かれたものは、一般的には記録用の絵図か、或いは単なる飾りもので、実際の効果はありません。ですがコレは光らないけれど、実際に魔素を集める効果があります。以前、たくさんの資料と文献を調べたのですが、コレと関連のある記載は見つかりませんでした。ですからコレは一体なんなのか、私にも分かりません。ただ私の見聞が足りないだけかもしれませんが……」


 「……こんな概念があるなんて。おれたちの世界では魔法は架空の存在だけど、こういうのも魔法陣と呼んでいます。ところでさっきの説明だと、この世界の魔法はすべて即時的なものなんですか? おれたちの認識では、こういう事前に描かれた魔法陣は儀式とか結界とか罠とかの遅延性の魔法が多いので」


 「はい。性質によって長く維持する魔法もありますが、魔法が発動する時に魔法使いは離れることができませんので、猫森さんがそう理解するのも正しいです」


 「だから令狐さんはこの『魔法』の概念に合致しないものを”コレ”と呼ぶんですね」


 「はい、その通りです。猫森さんの理解力は素晴らしいですね」


 「いえ、おれたちはこの手の知識に触れたことがあるだけです。全部作り話だったけど」


 萌花が「うんうん」と頷く。


 「じゃあまた問題に戻りますが、コレは誰がなんのためにここに設置したんですか?」


 悠樹がその質問を繰り返した。すると少女は少し黯然な表情になり、ゆっくりと話す。


 「それはひと月ほど前に亡くなった祖母の、ある友人が残したものです。祖母は他の人には言わないようにと言われましたが、お二人はコレのせいでここに来たかもしれませんから、お二人には話すべきだと思います。私の子供の頃、祖母は若い友人がいたと言っていました。その友人が困っていた時期に祖母が助けてあげて、うちに住まわせました。今思うと、母と父がいつもスカーベンジャーのお仕事で家にいないから、祖母も寂しがっていたかもしれません。その方との日々はとても楽しかったと祖母が言っていました。その友人がうちから離れる時に、恩返しにコレを地下室に刻み、祖母の役に立つようにしてくれたそうです」


 少女からほっこりするような話を聞かされ、悠樹と萌花は心が温まった。しかし、これは彼らにとって現在唯一の手がかりのため、悠樹が感動に浸っている場合ではないと思い、すぐに思考を巡らせる。


 コレが実際に効果があるから、たとえ元の効果は<魔素を集める>としても、きっと魔法陣なんだろう。<この世界に召喚される>と<魔法陣の真新しい割れ跡>から見て、この2つの間に因果関係がある可能性が高い。これは<魔素を集める魔法陣>ではなく、実は<召喚の魔法陣>で、魔素を集める効果は副次的なものかもしれない。


 と、彼がそう推測した。


 この推測は筋は通っているが、今のところ証明できるものはない。魔法陣が割れたのが先で、少女がそれを知らなかっただけという可能性もある。


 だけどこの推測が正しいか間違っているかにかかわらず、二人がこの魔法陣を設置した人を見つける必要があることは変わらない。


 「ご愁傷様です。素敵な話でした。でもすみません、あの後その友人はどうなりましたか?」


 「すみません、私には分かりません。あの後、祖母は二度と彼女と会うことがなかったそうです」


 この短い一言で、唯一の手がかりが失われた。


 「これはいつの事でしたか」


 「えと……およそ20年前です」


 「……っ!」「えっ?」


 <少女が子供の頃に祖母に聞いた話>という点から見て、二人はこれが随分昔の事だと認識していたが、まさか20年も前の事だったとは思わなかった。


 20年も昔に設置された異世界の魔法陣に突然召喚された上に、唯一の手がかりである召喚者は完全に行方不明。


 もう元の世界に戻れないの?


 もういつもみたいにぐーたらして過ごせないの?


 もう……お父さんとお母さんに、もう二度と会えなくなっちゃうの……?


 と、二人がこのようなことばかりを考えていて、気持ちがどんどん沈んでいく。


 悠樹……どうしよう……萌花の弱々しい表情がそう訴えているようで、とても不安がっている。しかし今の悠樹もまた同じだった。


 「…………」


 二人は手詰まりで、ただその場に立ち尽くした。重い沈黙が、地下室の冷たい空気をさらにひんやりとさせていく。


 少女の提案を受け、三人は地下室から1階に戻った。


 すると悠樹がテーブルの上にある魔法で生み出された水が、さっきと少し違うことに気付く。


 「あれ? その水、なんでこんなにも減ってるの?」


 三人が地下室にいた時間はあまり長くなかった。水は蒸発するが、あの時間で3分の1も減ってしまうほど速くはならない。対照として、悠樹と萌花が飲んでいた水はほとんど変わっていない。


 この不自然さが悠樹の心にほんの少しの希望を持たせた。


 少女が申し訳なさそうな笑みを浮かべる。何人かのカメラマンがカメラを担いでこの木造りの部屋に駆け込んでくる。司会者が看板を持って「ドッキリ大成功ーッ!!」と言う。その水は実は手品で、水が減ったのはタネがバレただけ。


 そんな光景が悠樹の頭を一瞬よぎる。


 だがそのような事は1つも起こらなかった。


 「それは、『創造型』の魔法で生み出した物質は時間が経つにつれて消散し、魔素に戻るからです」


 再び少女の一言で、悠樹のわずかな希望もその水と共に消散した。


 元の世界に戻る手がかりもなければ、異世界召喚特典とかいうものもない。持っている金もこの世界では使えない。見知らぬ土地で、二人は途方に暮れていた。


 二人は今、頭が空っぽで、思考が何かに塞がれたように何も考えられない。ただ俯いて座り、黙り込む。


 傍らで二人を見る少女も、彼らの沈黙の重さにつられたのか、心配そうな顔をしてただ一緒に座っていた。


 ただただ時間が過ぎていく。




 読んでくれてありがとうございます。

 もしよかったら、文章のおかしなところを教えてください。すぐに直して、次に生かしたいと思います。(´・ω・`)

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