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*** 98 美容・エステ院 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


 だが、中には悪辣な問屋もいた。

 60軒ほどの問屋の主は急遽蔵を建てた上で、3千箱から5千箱ものコーンスターチを要求したのである。

 さらに、カムイラオらとの約定を反故にして、既に鉛毒で脳症を患って鉛白を作る以外に考える力を失っていた鉛白職人やその家族の面倒を見ることなく放逐したのだ。


「ぐふふふ、面倒を見てやっていたが、知らぬ間にいなくなっていたことにすればよかろう」


 これら360軒の化粧品卸を厳重監視していたムサシ一派は、直ちに職人と弟子や家族を保護して『治癒の魔導具』で癒し、その後の生活の希望をヒアリングした。

 その多くは北海国に移住して来ることとなったのである。


 もちろん卸商に対する報復も直ちに行われた。


「た、たいへんでございます旦那さま!」


「なんだ騒々しい。

 何があったというのだ」


「そ、それが蔵の中の『こーんすたーち』が入った箱が全て消え失せていました!」


「な、ななな、なんだとぉぉぉ―――っ!」


「か、代わりにこのような書付が……」


『貴商会は我ら北海国との約定を反故にし、鉛白職人とその弟子や家族を放逐しました。

 よって貴商会へのコーンスターチ供給の約定も破棄させていただきます』


 悪辣卸商はすぐに血眼になって職人と弟子や家族を探させたが、もちろんどこにも見当たらない。

 こうしてこの卸商は、鉛白製造方法を失伝し、白粉卸から撤退せざるを得なくなったのである。


 さらに凶事は続いた。

 約定に従って鉛白職人を遇していた300軒の卸には、間もなく北海国よりあのシャンプーセットが、さらには化粧品セットが供給されるようになったのである。


 もちろん悪辣卸商には何の連絡も無く、爆発的に売れる新商品の陰で売り上げが100分の1以下になった卸商は廃業の憂き目に遭ったそうだ……


 商いとは信用が第一なのである。




 300軒の化粧品卸にシャンプーセットなどを卸す際には、北海国は固辞する紅粉屋に仲介手数料を渡していた。

 なんとなれば、300軒もの卸商がシャンプーや化粧品を扱えば、それだけ紅粉屋の商い機会を失わせることになるからである。


 さらにカムイラオは紅粉屋に対し、その女性手代20名に対して髪の手入れや化粧方法を指導する女性使徒を派遣することを申し入れた。

 その際には、床置きのリクライニング椅子(要は美容室にある椅子の足が無いもの)や、ぬるま湯作成の神道具までをも持ち込んだのである。


 指導員は、20人の女性手代が喰い入るように見つめる中、洗髪やリンス、トリートメントなどを実演しながら指導し、ついでナチュラルメイクの技法も伝授した。

 彼女たちもお互いの髪を洗い、やはりお互いにメイクすることでみるみる腕を上げていったのである。

 もちろん、講習後にご褒美として配られるジャムパンや琥珀餅も大人気になっているようだ。

(ついでに、手荒れ対策として階梯宇宙産ナノマシン入りのハンドクリームも配っている)


 洗髪とメイクの講習が終わると、次にエステやマッサージの講習も始まった。

 そうして女性手代が育つと、紅粉屋が借りた土地にカムイラオが『美容・エステ院』を建て、堺の女性相手に営業を始めたのである。

 もちろんこれは超絶大人気になった。

 予約リストがすぐに1か月先まで埋まったほどである。


 因みに料金は、洗髪、エステ、マッサージ、化粧がセットになって100文(≒1万2000円)である。

 町民には些か高額だが、なにしろここは堺であって裕福なご婦人には事欠かないのだ。

 しかも洗髪と化粧だけならば50文(≒6000円)なのである!


 紅粉屋はこの売り上げの内、半分を女性手代たちの取り分とし、美容員候補として女児の丁稚候補を50人も採用した。

(もちろん、どうせならイケメンに髪を洗ってもらいたいという奥方向けに、見目麗しい男児の丁稚たちの訓練も始めている)


 まもなく大名家への出張サービスも始まったが、これもとんでもない人気になった。

(フルコース料金1貫文(≒12万円))


 なにしろ正室の中には二日に一回は美容員を呼びつける者までいたし、側室や上級侍女たちも週に一度はフルコースを望むのである。


 紅粉屋はすぐに堺の町中にあと5か所の土地を借り、そこにカムイラオが大きな鏡のある近代的な美容室を作ってくれた。


 菊乃ちゃんの旦那さまである信一郎くんが紅粉屋の身代を継ぐころになると、この支店網は畿内を中心に50店舗を数え、菊乃ちゃんが生んだ長男に代替わりするころになると、紅粉屋は日の本全域に500店舗の支店と5000人の美容員を抱える日の本有数の大商会になっている。


 因みに菊乃ちゃんは妊娠すると授乳期を含めてしばらくは北海国で暮らせることに味を占め、最終的に4男5女の母となったそうだ。

 その間ムサシが齎した事後避妊薬は一切使わなかったそうである。

 もちろん子がまだ幼いうちは、母親と一緒に暮らすことが望ましいというムサシの教えにより、菊乃ちゃんの子らも日高第1村で暮らし、北海国の保育園、幼稚園、幼年学校に通って読み書き計算と社会性を習っている。

 このため乳母や侍女たちも徐々に増やして、最盛期には8人ものお世話係が一緒に暮らすようになっていたそうだ……



 もちろん紅粉屋に雇われて美容員になることは、女児たちの(一部男児も)憧れとなり、この時期の女性の社会進出に大いに役立っているらしい。


 ムサシとその一派は欺く者や敵対する者は徹底的に潰すが、信用出来る者、協力する者は超優遇してくれるのである。

(特に大したコストもかかっておらず、気にもしていないらしい)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 もちろん堺の天王寺屋も頑張っていた。

 忠次郎と銀之助を供に、カムイレオに連れられて日の本中の懇意にしている大商会を訪問しまくっていたのである。


 彼ら大商会たちは、このころになると万が一の事態に備えて互いに売掛けを持ち合うだけでなく、資産の預け合いや為替手形の扱いなどを含めて関係を深めていたのだ。


 その取引先であり、あの堺の大店である天王寺屋が先触れを寄越してわざわざ来訪するということで、十三湊の大黒屋だけでなく、酒田の酒田屋、新潟湊の越後屋、敦賀の泉屋、大阪の難波屋、博多の玄界屋、津島の長良屋、三河の佐田屋など、どの大商会も大いに歓迎してくれているようだ。


 そうして天王寺屋主人津田新右衛門は、各地の商人とその部下たちを転移で北海国の見学に連れて行ったのである。


 もちろん如何なる大商会の会頭といえども、あの18連続大ビックリに抗することは出来なかった。

 しかも多くの者が病やひざの痛みや腰の痛みを癒して貰ったのである。

 さらに天王寺屋がその娘を北海国に預け、安全な出産を迎えさせようとしていると聞いて全員が色めき立った。

 どれほどの金持ちでも、当時は娘や孫や入り嫁の出産リスクからは逃れられなかったからである。

 そのリスクから解放される途があったとは……


 それは取りも直さず家の存続が保証されることでもある。

 つまり、彼ら大商会の主にとっても、北海国は家の恩人となりうる存在だったのだ。


 彼らは皆菊乃ちゃんの様子と、周囲の楽しそうな妊婦や母親たちの様子を見て大いに納得した。

 そういう意味で菊乃ちゃんの果たした功績は大きかったと言えるだろう。

 新右衛門から貰える菊乃ちゃんのお小遣いは天井知らずになっている。


(もっとも北海国では既に全員が当時の日の本から見れば超贅沢な暮らしをしており、お小遣いの使い道もそれほど無かったのだが)


 ほどなくして、日高第1村の和人宿舎には、日の本各地の大商人の娘や孫のうち常時10名以上の妊婦さんとその侍女が滞在するようになった。

 さらにはその噂が広まると、それら大商会の紹介により全国の中小商会の娘や孫たちも日高第1村に集結し、最大で500人の妊婦さんとそのお世話係2000名が滞在するようになったそうだ。

 さらにその妊婦さんたちの配偶者や親や祖父母も頻繁に日高の地を訪れるようになり、こうした地域の垣根を超えた北海国協力商会の横の繋がりもますます強固になっていったのである……



 もちろん経験豊富な会頭らにしても、北海国との取引はどう考えても自分の商会に莫大な利を齎すことは確実である。


 彼らはすぐに大量の清酒を試供品として受け取り、取引先の大名家や有力国人たちにこれを配りまくっていったのだ。


 まもなく日の本での清酒の売り上げは超莫大なものになっている。



 また、これら日の本全域の商人たちは、カムイレオや天王寺屋から何度も警告を受けていた。

 それはまず、『堺銭を受け取るな』『堺銭を保有するな』ということであった。

 加えて彼らはそれぞれの地域でのリーダー格であったために、『地元の中小商会にも堺銭を受け取らぬよう説得して欲しい』との要望も受けていたのである。

 堺銭に含まれる銅の割合が宋銭や明銭の半分以下であると聞いて、彼ら大商会は忠実にこの助言に従ったようだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 あの九州の雄、竜造寺家が初めて清酒を味わってから1か月半が経った。


 そうした折に台所番頭が城の重職者である勘定奉行に面談を申し入れたのである。


「本日はお忙しい中、誠にありがとうございまする。

 実は少々ご相談事がございまして」


「何事じゃ」


「1月半前に購入いたしました清酒が無くなりかけておりますが、如何いたしましょうか」


「なんだと!

 あのときは確か4石もの清酒を買ったはずじゃ!

 それがもう無くなりそうだと申すかっ!」


「は、はい、その4石の内2石は先日大殿が開かれた大名茶会で全て呑みつくされておりますので」


「!!!」


「それ以外にも、大殿と若殿が毎日2升ずつ、そのお相伴に与る重職者さま方が毎日5升ずつ、また奥御殿のご正室さまや側室さま方と上級侍女方が毎日5升ずつお召し上がりになられていましたので」


「ま、毎日かっ!」


「はい……」


 もちろんこの勘定奉行もたっぷりとお相伴に与っている。



「し、仕方あるまい……

 今大殿に『酒が無くなりました』などと言おうものなら、この儂ですら斬首されるやもしらん。

 それに前回の大名茶会で、呼んだ客人らが清酒を口にして大いに驚き褒めそやしていたからな。

 大殿はそれを喜ばれて、来月同盟先の大名やら被官国人やら有力土豪やらを招いてさらに盛大に大名茶会を開けとの仰せである。

 天王寺屋に追加で五石(≒6000万円相当)注文しておけ」


「はっ」


「そうそう、酒は清酒でよいが、大殿から何か料理の目玉を用意せよと言われておる。

 それも天王寺屋に準備させろ。

 いくらかかっても構わん」


「ははっ!」




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