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*** 91 売掛け金の回収 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


 宿泊施設の見聞が終わると一行は村の教場を見学に行った。

 そこでは新生児から4歳児までの保育園、5歳児から7歳児までの幼稚園、8歳児から13歳までの小学校と14歳から16歳までの中学校があった。

 それ以上の年齢層に対しても、週に2日、午前中だけの大人学校に加えて、農学校と漁業学校がある。


「北海国では随分と学問に力を入れていらっしゃるのですな……」


「ええ、国民の教育こそは国力の根幹を支えるものであるというのがムサシさまのお考えですので」


「そうでしたか……」


(天王寺屋では10人の丁稚候補を雇い、碌に教育もせずに丁稚や手代の動きを見て学べと言って来ていた。

 それで1人かせいぜい2人がモノになり、残りには暇を出せばよい(=首にする)としていたが、それでは経営者としては二流だったということか。

 それに対し、ムサシさまは国民全体の質を上げる超一流の方法を選択為されたのだな……)



 天王寺屋一行は小学校で紙芝居も見せてもらったが、思わず感情移入してしまい終わった時には子供たちと同じくぐったりしてしまっていた。


(見入っているときには気づかなかったが、振り返ってみれば先ほどの話は『皆で力を合わせて困難な目的を達成する』ということを教えるものだったのだな。

 力が強い者、力は強くないが素早く動ける者、力も素早さも無いが全体の動きが良く見える者、そうした各人の持ち味を生かして目標を達成せよという教えか。

 しかも誰一人手柄は全て自分の物だとは思わず、皆が皆の貢献を称えておるとはの。

 なんでも熟せる者を多数抱えるという方法論とは別の方法を示されたわけだ。

 そしてそれを国力の礎とされるか。

 これはいよいよわたしも考え直してみるべきやもしれん……)



 天王寺屋一行は、昼食を村の炊事場兼食堂で村人たちに交じって食べている。

 尚、食堂のメニューは夕食は栄養バランスを考えて定食方式だが、朝食と昼食は好きな料理を選べるカフェテラス方式になっていた。

 新右衛門はラーメンと寿司セット、忠次郎と銀之助はラーメン&チャーハンセットを選んで笑顔になっている。




 昼食後に一行は交易所に転移で移動し、商談を始めた。


「あの、白米一石は北国銭5貫文のところ、自家用は1貫文にして頂きましたが、一升瓶入り清酒は通常仕入れ値北国銭1貫文(≒12万円)のところ、自家用はいくらにしていただけますでしょうか……」


「そうですね、白米と同じく通常価格の五分の一で北海銭二百文(≒2万4000円)と致しましょうか」


「それではお預けさせて頂いた堺銭のうち10貫文を北国銭5貫文に替えていただいた後、自家用清酒を5本と、販売用清酒を4本売って頂けますでしょうか。

 それに加えて、天王寺屋まで転移で送ってくださった後は、堺銭100貫文(≒600万円相当)をお渡しいたしますので、北国銭50貫文に両替後、清酒一升瓶50本を贖わせてくださいませ」


「つかぬことをお伺いいたしますが、それらの清酒は自家用については天王寺屋の番頭さんや手代の方に試飲をして頂くための物でしょうか」


「ええ、私共の店では、販売する品は必ず番頭や手代に味見をさせることにしております。

 売り手が味を知らぬ物を売ろうとしても、その口上に真剣味が加わりませんから。

 また、仲間内の商会主にも試飲させ、彼らの得意先にも売らせるようにしたいと考えました」


「それからご購入頂く清酒54本は、大名家や大寺院に試供品として配るおつもりでしょうか」


「はい、如何に大名家や大寺院と雖も、最初から何十本も売ることは出来ません。

 まずは1升を無料で配って大名や貫主を清酒の虜にしてからでないと、大量に売ることは出来ないでしょう」


「わかりました。

 それでは従業員の方々やお仲間の商会主さまへの試飲用として、清酒一升瓶を100本、また大名や大寺院への試供品として一升瓶1000本を無料で進呈させて頂きたいと思います」


「「「 !!!! 」」」


「それから大名や大寺院に試供品を配る際にも、まず台所頭や別当に試飲してもらう必要もありますでしょう。

 その試飲用として清酒2合入りの小瓶も1000本無料で進呈させて下さいませ」


「「「 ………… 」」」


(こ、このカムイレオさまというお方は、そんな大金を要する提供を即決出来るほどのお方さまなのだな。

 これは陪臣の中でも相当な地位におられるに違いなかろう……)


 いやまあ、ムサシ一派は目的のためにはカネに糸目はつけないだけだから。



「それから一つお聞きしたいのですが……」


「何なりとどうぞ」


「例えば大名家などと取引を為された際には、やはり支払いは節季払いなのでしょうか」


「余程のことが無い限りそうなります。

 主に年末を中心に年2回決済か年4回の決済です」


「仮にその決済日に支払いが為されなかった場合にはどうされるのですか」


 津田新右衛門が微笑んだ。


「言ってみればその点こそが商家の腕の見せ所になります。

 昔はそうでもなかったそうなのですが、昨今冷害が蔓延している状況下では、決済を渋る、延期する、もしくは決済不能になる武家も増えて来ております。

 その際には次の取引の売掛け限度額が大きく減らされるために、武家も必死になって交渉を求めて来ますが。

 また、そうした武家の懐具合などは商家の寄り合いを通じてあっという間に拡散致します。

 普段はあまり仲のよろしくない商家同士でも、こうした信用情報の交換は別でして、ほぼ必ず共有される通例になっていますね。

 商家の主の中には、普段の商いには参加せず、この寄り合いでの信用情報交換こそが本業と考えている者もいるぐらいですので」


「ということは、武家も簡単には売掛けを踏み倒すことは出来ないのですね」


「そうなります。

 それでも延々と決済の一部延期を求めて来る武家もいますが、そうしたときのために予め武家相手の取引ではかなりの利幅を見込んだ値をつけていますし。

 それを知ってか知らずか、武家の勘定方なども取引当初の値付けについては、ほとんど値引きを口にしません。

 まあ値引き交渉などは武士の沽券に関わると思っているのかもしれませんが」


「その売掛け約定には証文を作成しているのでしょうか」


「もちろんです。

 一定額以上の売掛けでは、勘定方責任者の署名を頂戴しますし、小規模な土豪などが相手の場合には当主の署名も頂きますね」


「その売掛け証文を第三者に売却することは出来るのですか」


「出来るには出来るのですが、売掛け相手によっては証文の割引率が大きく違って参ります。

 証文売却相手先は主に武家の地元の米問屋などになるのですが、支払い延期常習者相手の証文ですと、最悪割引率は8割にまでなることもございますので、あまり好ましい手段ではございません」


「その売掛け証文には、証文を第三者に売却することがあると記載されるのですか」


「念のため記載しておくのが通例になっています」


「その第三者への証文売却に際しては、売却した旨を債務者に連絡するのですか」


「それをすると、大名などの債務者は新たな交渉の余地が出来たと喜びますが、債権を購入した債権者はさらに支払いが遅れる可能性が高まるとして喜びません。

 したがって、証文売却を債務者に伝える場合には証文の割引率が高くなるのが通例です」


「そうですか、それでは武家や寺社相手に売掛け証文を作成され、決済が滞った際には私共北海国に証文を売って下さい」


「あ、あの……

 その際に割引率はどのような形で決まるのでしょうか……」


「割引率は零です。

 つまり常に額面で買い取ります」


「「「 !!! 」」」


「もちろん決済前、つまり約定と同時に証文を持ち込まれても額面で買い取ります。

 ただしその際には決済の代行と決済状況のご連絡もお願いいたします」


「あ、あの! 

 それで貴国は大丈夫なのでしょうか……」


 カムイレオが冷酷な笑みを浮かべた。


「わたくしたちには如何なる者も絶対に防げない債権回収手段があるのをお忘れですか」


「「「 !!!!!!! 」」」


「ま、まさか……」


「最初は軍資金蔵、次は米蔵、そして武器蔵、まあ奥の方から消えていけば、武家が気づくまでには相当な時間がかかるでしょうね。

 特に米俵などは、知らぬうちに中身が藁混じりの砂に代わっているわけですので」


「「「 ………… 」」」


「あ、あの!

 ご質問お許しいただけませんでしょうか!」


「どうぞどうぞ」


「カムイ・ムサシさまやカムイレオさま方の目的は、日の本の強盗武士や強欲寺社の力を削いで戦を無くしていくことと伺いました!

 ならば何故最初から武家や寺社の金蔵や武器蔵の中身を没収されないのでしょうか!」


 カムイレオが微笑んだ。


「それは、私共が属する神界には多くの掟があるからです。

 我々はいくら相手が極悪人だとしても殺しが出来ません。

 現行犯や確たる証拠が無ければ捕縛も出来ません。

 もちろん武器で他者を脅して財を奪うことも出来ませんし、盗みも出来ません。

 つまり、例え強盗武士相手でも蔵の中の物を勝手に押収することは出来ないのです。

 そんなことをすれば、我々が強盗武士と同じになってしまいますからね。


 ですがまあ借金の取り立てならば許されるでしょう。

 しかも相手は、これは大切な戦のための備えなのだからといって、支払い余力があるにも関わらず借金を払わない悪党なのですから」


「な、なるほど……」


 天王寺屋主従は、この北海国相手には決して欺いたり不義理を働くことの無いようにと心に誓っていた……



「さて、それでは皆さんを天王寺屋までお送りすると同時に、裏庭の一画を貸していただいて蔵を建て、ここ交易所と結ぶ転移門を設置させて頂きたいと思います」


「あの、どの程度の広さの土地が必要でしょうか」


「なに、4間四方ほどの土地で十分でございますよ」


「それならばすぐにでもご用意させていただきます……」





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