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*** 83 産褥回避 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


「先ほどの光は全身の不調も癒します。

 ですのでご寿命も10年ほどは伸びたかと」


 新右衛門がその場に跪いてカムイレオに頭を下げた。


「カムイ・ムサシさまとカムイレオさまは神の国からこの地にご降臨為されたとのこと。

 不肖わたくし天王寺屋津田新右衛門、お二方の信者にさせて頂きたく存じ上げ奉ります!」


「どうかお顔をお上げくださいませ。

 実はこの神術は我が主カムイ・ムサシが大変な努力の末に獲得したものなのです。

 その神術をこの箱に込めたのであって、すべてはムサシさまのお力なのですよ」


「おお!」


「それで、失礼ですが忠次郎さまはおいくつになられますか」


「次の正月で38歳になりまする」


「それでは忠次郎さまもこの石に触れて頂けますでしょうか」


「よ、よろしいのですか」


 忠次郎が主を見ると大きく頷いている。

 忠次郎も恐る恐る白い石に触れて白い光を浴びた。


「おお、胃の腑の重みが取れた!」


「忠次郎さまの胃は軽い岩(癌のこと)を患っていらっしゃいましたから。

 早期に治療出来てよかったです」


「あ、ありがとうございます!」


「銀之助さまはまだお若いですから、35歳になるころにこの神道具をお使いください」


「ははぁっ!」


 実は天王寺屋主津田新右衛門は、1か月後に再び驚嘆することになる。

 それは薄くなっていた頭頂部がフサフサになっていたからであった。

 彼のムサシさまに対する信仰心はさらに爆上がりすることになる……



「それであの、カムイレオさま。

 この治癒の神道具は商売にはご使用にならないのでしょうか」


「ムサシはまだその必要は無かろうと判断しています。

 まあ場合によっては使い始めるかもしれませんが」


「そうですか……

 この神道具を置いた診療所を作れば、日の本中の大名や大寺院の管主、教主などがありったけの銭やら金板やらを持って押し寄せて来るでしょうに……」


「その際には多くの問題が発生してしまうのですよ。

 例えば財を持たざる者たちの治療をどうするか、誰がその治療院を運営するかといった問題です。

 同時に朝廷や将軍家、管領家や大身大名家も黙っていないでしょう。

 間違いなくこの神道具を奪って自分たちの私利のために使おうとするはずです」


「た、たしかに……」


「まあ、現在北海国には5千人ほどの民が住む村が80あるのですが、その全てにこの神道具を置いて、すべての民を分け隔てなく治療していますが」


「そ、その治療のついえは如何ほどなのでしょうか……」


「もちろん無料です。

 何と言ってもムサシは北海国の代表であり、すべての民の幸福に責任を負っていらっしゃいますからね」


「こ、この神道具は怪我だけでなくあらゆる病や産褥などにも効果がある物なのでしょうか!」


「もちろんですよ。

 北海国の村の治療院には夜中も含めて毎日300人以上が訪れていますし、それに対応する私の同僚である女性の陪臣も一か所に付き常時10人はおります。

 また、妊娠された女性たちには定期的に検診も行っていますし、出産予定日が近づくと治療院への入院も義務付けており、村人たちはカムイさまからの命だということで、全員がこれに従っています。

 さらに、予定日の前に早産の陣痛などが始まると大変な騒ぎになりますね。

 村の力自慢たちが妊婦を抱きかかえ、その周囲を仲間たちが100人以上囲んで露払いしながら治療院にやってきます」


「「「 !!! 」」」


「新右衛門さまのお嬢さまは、2年前に同じ堺の紅粉屋べにやさんの跡取り息子さんに嫁がれていますよね。

 そうして今は妊娠7か月で、あと3月ほどで初めてのご出産予定だと存じ上げます」


「そ、そのようなことまでご存じでしたか……」


「私共の任務目的は商取引ではございません。

 この日の本、いえこの星の全ての国家に於ける強盗武士や武人などの悪を無力化して、民に平穏を齎すことにあります。

 そのために天皇家や武家、寺社勢力も監視している専門の陪臣集団がおります。

 最近堺衆が大量の混ぜ物をした私鋳銭を造り始めたために、私共は滅するべき悪として堺衆もその監視対象にしたからです」


「そうでしたか……

 あの私鋳銭に混ぜ物をする決定には我らも随分と反対したのですが……

 堺会合衆筆頭の桔梗屋を始めとする3家は銭の鋳造所を独占しておりまして、その取り巻きたち5家が賛成に回ったために、我ら新興の7家が反対しても敗れてしまったのです」


「もちろんそれも存じ上げています。

 だからこそカムイ・ムサシの命により天王寺屋さまをこうして歓迎させて頂いているのですから」


「そうだったのですか……

 あの、カムイ・ムサシさまの陪臣の方々とは、いったい何人いらっしゃるのでしょう」


「この北海国にいるのは今60万人ほどですね」


「「「 !!! 」」」


「その他にこの日の本の強盗武士や強欲寺社を無力化するための部隊が140万います」


「「「 !!!!! 」」」


「それ以外にもこの星全域に散らばって、やはり強盗王や強盗貴族を滅したり、その他の任務を行っている陪臣も300万おります」


「「「 !!!!!!! 」」」


「もちろんその全ての陪臣たちは、わたくしと同じようにムサシから授けられたあらゆる神術を行使出来ますので、それなりに強力な勢力であると自負しています」


「そ、それほどまででしたか……」


「ところでお嬢さまの菊乃さまは、初産が不安でよく泣かれていらっしゃるとか」


「はい、恥ずかしながら……

 まあ初産の妊婦のうち1割5分は産褥で儚くなるのが当たり前ですし、その際には子も……」


「それでは菊乃さまとそのお世話をする女中さんを数人、我が北海国の村に一時的にお預けになられたら如何でしょう」


「!!!!!」


「もちろんカムイ・ムサシさまが降臨為される前の蝦夷地でも、初産の妊婦さんが産褥で儚くなられる割合は1割5分でしたし、生まれた赤子が1歳までに病その他で儚くなる割合は2割近くありました。

 ですがここ2年間で、北海国の治療院で出産されたご婦人は1万人近くいらっしゃいましたが産褥で亡くなられた方は1人もいませんし、すべての赤子が元気に育っております」


「さ、さすがはムサシさま……」


「おかげで北海国の民のムサシさまへの信頼は天井知らずになっておりますからね」


「それは当然でございましょうな……」


「ですので、この交易所の見学が終わりましたら、北海国の村もご視察されたら如何でしょうか。

 もちろん転移でお送りさせて頂きますので」


「あ、あああ、ありがとうございまする……

 ですが嫁いだ娘を何か月もの間婚家を留守にさせるのはさすがに……」


「それでは堺の天王寺屋さまに隣接する土地を少々貸して頂けますか。

 そこに我らが普通の家ほどの大きさの蔵を建て、ここ交易所と結ぶ転移門を設置させて頂きたいと思います。

 この交易所と北海国の村との間にも転移門を置きますので、菊乃さまは帰ろうと思えば毎日でもご実家に帰れますし、そうすれば婚家の紅粉屋べにやさまにも顔を出せるでしょう。

 確か天王寺屋さまから紅粉屋べにやさままでは歩いても小半刻ほどでしょうし」


「なんと……」


「それにその転移門があれば、天王寺屋さまに我らの商品を仕入れて頂くのも相当に楽になるでしょう」


「それは望外の喜びではありますが、紅粉屋べにやに北海国のことやこの交易所のことが知られてしまいます。

 本当によろしいのですか」


「娘さんを嫁がせたほどの信頼ある紅粉屋べにやさまでしたら、天王寺屋さまも北海国の取引先として推薦して下さるおつもりだったのでは」


「やはりお見通しであらせられましたか……

 紅粉屋べにやはまだ堺会合衆に入れるほどの身代ではないのですが、その誠実さと堅実さで評判の店でございまして、いずれご紹介させていただく心算で御座いました」


「他にも十三湊の大黒屋さま、新潟湊の越後屋さま、敦賀の泉屋さま、酒田の酒田屋さま、大阪の難波屋さま、津島の長良屋さま、博多の玄界屋さま、三河の佐田屋さまなど、天王寺屋さまが取引されておられる信頼のおける商家の方々も是非ご紹介くださいませ」


「さ、さすがの調査力でございますなぁ……」



「それではそろそろこの交易所の内部と商品を御覧頂きたいと思います。

 まずは米蔵と酒蔵、銭蔵、金蔵ですね」


「こ、米蔵や銭蔵まで見せて頂けるのですか!」


「ええ、その方が皆さまにもご安心頂けるのではと」



 一行はまたホール奥にある扉を潜り、通路を通って米蔵にやってきた。


「こ、これは!」


 その一辺が1㎞ほどもある部屋には堆く米の一石箱が積み重ねられていた。

 やはり通路の先は霞んで見えないほど広い。


「実はここはもうムサシさまの倉庫の中でして、この倉庫内では時間が経過しないような神術がかけられています。

 ですので例えばここで1年を過ごされたとしても、外に出ればこの部屋に入った直後の時間に戻ることになります」


「「「 !!! 」」」


「おかげでこの倉庫内では食料が腐らないのです。

 こちらの米は約2千年前に収穫したものですね」


「「「 !!!!! 」」」


 カムイレオが指さすと、一石米箱がふよふよと浮いて通路に降りて来た。

 蓋を開けると辺りに新米の香りが広がっている。


「「「 ………… 」」」





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