*** 8 バフォメット刑 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
「それにしても、統治能力の無ぇ権力者は困ったもんだな」
「まあそれは俺たちが阿呆な独裁者を次々に発狂させていけばいいんじゃね?」
「大戦争を減らすために、第1次世界大戦後のベルサイユ講和会議にも介入しようぜ。
あのドイツに対する過剰な賠償請求が戦後ドイツのハイパーインフレを引き起こして、ナチス台頭の引き金になったんだろ」
「賠償金は俺たちが立て替えてやろうか」
「なんでそんなことするんだ?」
「賠償金を一気に払うとすれば金だし、俺たちは金を6.0×10の20乗トンも持ってるからそれぐらい楽勝だよな。
でも奴らそのときはまだ金本位体制で、カネは全部兌換紙幣だから戦勝国の通貨価値が暴落するぞ」
「あははは!
ドイツのハイパーインフレを戦勝国に輸出してやるのか!」
「それで神界に文句言ってきても、だってお前ら『勝ったんだから大金寄越せ!』って言っただろうに、って突き放せばいいか。
あいつら戦争を金儲けの手段だとしか思って無いからな」
「日本だってせっかく日清戦争に勝ったのに三国干渉で領土もらえなかったから、臥薪嘗胆とか言ってフランス、ドイツ帝国、ロシア帝国を恨んでたし。
それが日露戦争や日中戦争の遠因になったしな」
「でもドイツのインフレを戦勝国に輸出させたりしたら、1929年に始まった世界恐慌は神界のせいになるぞ」
「あ、そうか」
「それになぁ、もし発狂刑で第2次世界大戦勃発を防げたとしても、そのままだと日本は21世紀になっても大日本帝国のままだな」
「公の場で『天皇』とか呼び捨てにしたら、すぐに特高警察に密告されて拷問されちゃう社会か」
「事あるごとに『天皇陛下万歳!』って背伸びの運動しないと『非国民!』って罵られる社会だな」
「うっわー」
「ところで銀河連盟大学の地球史研究者たちは、地球の戦争の原因をどう説明してたんだ?」
「20%は統治者の保身だそうだ。
飢饉で民が飢え始めて農民や配下の武将の不満が高まり始めると、自分の地位を守るために他国の富を奪いに行こうとするらしい」
「あー、戦国時代の甲斐武田家とか典型だな」
「しかも、失敗しても農民兵の口減らしが出来るしな」
「ひえー」
「そのときにはもちろん他国に侵攻するプロパガンダも確り準備するそうだ。
つまり内憂を収めるために外患を利用するわけだな」
「やっぱり統治能力の無い奴が戦争起こすんか……」
「それから30%は統治者の貪欲だと。
特に他国の統治者が自分より裕福なのが許せんそうだ」
「うっわー」
「残りの50%は?」
「それがさあ、無数の戦争原因を分析した結果、『統治者の自己顕示欲』だっていうんだよー」
「どっひゃー」
「つまり、新たに国を興した奴は、自分が超優秀だとしてさらに自己の能力を顕示するために他国に戦争を仕掛けるし、単に血筋でトップを継いだだけの奴でも始祖王と同等以上の能力を持つって顕示するために戦争起こして領土やカネや奴隷を得ようとするんだと」
「それあのプーさん主席が台湾に侵攻した動機だよな。
『あの始祖王毛沢東ですら叶わなかった台湾統一を成し遂げたわしってすごいだろ』って言うために」
「酷ぇ話だ……」
「そういった阿呆なボンボンのせいで滅ぶ国も多かったんだろうな……」
(註:プーさん主席は太子党出身のボンボンである)
「あの北朝鮮なんかもそうだったんだろう」
「まあこれからはそういう阿呆たちもどんどん発狂させていこうぜ」
「それから宗教間ヘイトや人種間ヘイトもなんとかしないとな」
「あの2大宗教の創設者に『他の宗教を信じる者に寛容たれ』って言わせるか、聖典に書かせるか?」
「それでもダメだったら、初期のキリスト教徒とイスラム教徒を隔離させるか。
どっちも武装して境界線を越えたら、武器も服も重層次元倉庫に飛ばすとか」
「宗教内の宗派対立が武力衝突になったらどうする?」
「それは同じように指導者と称する狂信者たちを発狂させていけばいいんじゃね?」
「人種間ヘイトは?」
「有色人種なんかの他民族を奴隷にするように命じた奴と、実際に奴隷狩りをしようとした奴と、その奴隷を売買した奴と、農場なんかで使役した奴は、すべて『変化』の神術でその奴隷化他民族と同じ姿にしてやったらどうかな」
「18世紀のアメリカ南部の農場主が、全員黒人姿に変化するのか……」
「ベルギーのレオポルド2世の肌が真っ黒になって唇が厚くなって髪がチリチリになるのか……」
「いやレオポルドはそれだけじゃ不十分だろう。
なんせ、コンゴを自分個人の私有地にして3000万人のコンゴ国民全員を奴隷にし、極度の圧政で死者200万人を出してるからな。
つまりは利潤動機の戦争、弾圧行為だ。
コンゴを私有地宣言した途端に真っ黒なバフォメットの姿にでも変化させよう」
(註 バフォメット:典型的な悪魔の姿。
肌は黒で目は赤く、尖った耳と尖った歯を有する裂けた口を持ち、頭部にはヤギのような角を生やし、尖った爪の付いたコウモリのような翼に、矢印のように鋭く尖った尻尾を持つ)
「それけっこう効果的かも。
どう考えてもベルギーではすぐに王が暗殺されるか幽閉されて次の王が立つな」
「次の王もコンゴでの支配を続行したら、同じことが起きるわけだ。
そのうちベルギー王室はコンゴに呪われたって言われるようになるぞ」
「その前に神界が神罰を下すって声明を出すか」
「大航海時代に武器を持って他国に侵攻しようとした奴も武器と服をすべて没収で、教唆した王族はバフォメットの刑、遠征指揮官は発狂刑だな」
「現地民に布教すると称して植民地支配軍の手先になった宣教師もバフォメット刑だ」
「いっそのこと大砲や鉄砲、宣教師を乗せて出港しようとする船は、出航直後に帆と舵と武器食料を全部重層次元倉庫に没収するか。
そうすれば一般船員は無事だし」
「うーん、ヨーロッパ中の国王や港湾を監視するのはまあナノマシンたちにやらせるとしても、俺たちの配下のアバターが足りるかな」
「元宇宙に戻って俺たち兄貴の弟分を増やしたり、アバターも増やさなきゃかも」
「でも、それだけやったら地球も滅亡しなくなるかもだな」
「さあ、追加で滅亡が300年遅れるだけかもしれんぞ」
「それでもやってみるしかないだろう。
そうした施策を続けながら、そのたびに元の宇宙に戻って効果を確認すればいいだろうし。
同時にもっといい方法が無いか考えていくか」
「「「 おう! 」」」
戦慄せよ地球人類極悪指導者諸君!
まあ絶滅よりはマシだよね♪
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おーい、みんなぁ、そろそろ8万年前の地球にジャンプするけど、忘れ物は無いかぁ?」
「あははは、遠足に行くみてぇだな」
「つーか、この任務ってどんだけ時間がかかるかわかったもんじゃねぇから、ジャンプっていうより移住に近いんじゃね?」
「まあそれでも好きな時に元の宇宙に戻れるからな。
お前たちも、休暇の時には好きなだけ元宇宙に戻っていいぞ」
「俺たちの神力レベルなら何回でもジャンプ出来るだろうけど、それでも居住棟ごとの転移だと30センチ級神石1つ分の神力を消費するし、個人で戻ろうとしても5センチ級が1個必要だろうに。
それ元宇宙ではそれぞれ4000万クレジット(≒40億円)と20万クレジット(≒2000万円)するぞ」
「大丈夫だ、今後俺たちの階梯宇宙の中央神殿が、見習い天使や使徒候補生を主体に神力を上げさせるために神石作りを推奨してくれるそうだ。
そのフル充填神石は俺たちが好きなだけ買い取れることになっている」
「あの訓練は結構苦しいが、それでも見習いたちは小遣いが稼げて喜ぶだろうな」
「はは、へたすりゃ給料よりよっぽど多いな」
「ミヌエットも準備はいいか?」
「もちろん大丈夫よ。
料理ドローンも執事ドローンも侍女ドローンも重層次元の個人倉庫に50体入れてあるし♪」
(ったくこれだからお姫さまは……)