*** 7 ウラニウム枯渇作戦 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
「ところで武十郎」
「おう!」
「そのロックオン要員だが、お前の配下のアバター2個師団で足りるか?」
「あの2か国はどっちも広いけど、地上監視ナノマシン群さえ大量に配備してもらえればなんとかなるだろう」
「それじゃあ頼んだわ」
「了解!」
「だが、念のため根本的に核兵器も廃絶させたいよな」
「それなら紀元前3万年ぐれぇに飛んで、地球上のすべての鉱山からウラニウムを掘り尽くせばいいんじゃねぇかな。
プルトニウムは天然存在量がほとんど無いんで、主にウラニウムに何度かのβ崩壊を起こさせて製造してるし。
天然に存在するとしても、ほとんどウラニウム鉱石の周辺だしよ」
「地球上の既知のウラニウム鉱山は既に場所がわかっているからイケるだろう。
今の銀河技術を使って3万年もかければ、完全に枯渇させられるぞ。
なんなら鉱石周辺を『錬成』神術で液状化させ、それを『念動』で吸い上げてから『抽出』すればいいし」
「ナノメートルマシンは高価だし掘削効率も悪いから、マイクロメートルマシンやミリメートルマシン、センチメートルマシンを大量投入しようぜ。
掘削した鉱石は重層次元倉庫にでも放り込んでおくか」
「それじゃあ武三郎(物資調達担当)、そうした採掘用のブレードを持ったマシンを大量に用意しておいてくれ。
もちろん食料備蓄も大幅増だ。
ついでに俺たちが暮らす直径5キロほどの中央人工天体と、各人がアバターと一緒に各時代に派遣されるときの直径2キロほどの小型居住棟の用意も頼む。
居住棟の設置場所は地球の近傍重層次元にすれば、当時の科学力ではわからんだろ」
「ウス!」
「これでまあ、地球ヒューマノイドの突然死は防げるな」
「ついでにチェルノブイリもスリーマイル島もフクシマも原発事故は起こさないで済むか」
「でも他にもBC兵器とか燃料気化爆弾とか極超音速ミサイルとかヤバイ兵器はいっぱいあるぞ」
「それに宗教間ヘイトとか人種間ヘイトもどんどん高まって来てたし」
「たとえ中華帝国とロシア帝国の政治指導者を全員発狂させて、ウラニウムやプルトニウムを枯渇させても、第3次世界大戦は不可避で500年ぐらい続くかもな」
「突然死は回避出来ても、緩慢な死は避けられないか……」
「それじゃあ、いったん突然死を回避したら、その後ゆっくり地球人の暴虐性を改善していこう」
「どうやって?」
「俺、初めて聞いたとき驚いたんだけどさ、男性にも更年期障害はあって、40歳過ぎぐらいから男性ホルモン分泌の低下に伴って怒りやすくなる奴が多いそうだ。
そのまま老人性の易怒症に至ることも多いそうだし」
「あー、豊臣秀吉とか典型的だよな。
若い頃は剽軽で気配りも出来たのに、歳を喰うにしたがってどんどん怒りっぽく残忍になっていったし」
「あの鳥取城攻めとか、弟や千利休に激怒して切腹させたとかか」
「それって当時の文明度が低かったからかな」
「いやそうとも言えねぇんじゃねえか?
あの激怒しまくってたブヒーラ・ポークとかいう初級天使なんか、典型的な更年期障害性の易怒症だったぞ」
「いっそのこと紀元前5万年前ぐらいに飛んで、地球ヒューマノイドの遺伝子をイジるか?」
「いや遺伝子操作神術は時間遡行神術を上回る大禁術だぞ。
ナノマシンを使ったヒューマノイドへの同意無き遺伝子操作も神界に重大禁止されてるし。
それが許されてるのは神界の知性付与部門だけで、彼らはもう120億年以上前から階梯宇宙全域を廻って有望な種族に知性を付与して来てるからな」
「俺たちの地球の場合は50万年ほど前だったか」
「それに遺伝子操作神術はシロウトが使ってちょっとでもミスると、目が4つある奴とか腕が6本ある奴とか出来上がるらしいからな」
「昔『人生50年』って言われてたのは、50歳近くになると易怒症を発症して、ヤタラに戦いたがってすぐ死んでたからかなぁ」
「あの織田信長も、有能ではあったけどすぐキレまくってたらしいし」
「国王の交代も政治指導者の就任も、地球ではほとんど中年から高齢者にかけてだったよな。
おかげで各国のトップは怒りっぽい奴が多くなったんだろう」
「それからさ、『歴史上の悪人政治家ランキング』とか見ると、ほとんどの奴は任期制限が無いか異様に長い国家元首たちだよな。
ヒトラーもスターリンも毛沢東も金日成もポルポトも、プーチンチンもプーさん主席も。
それに比べて20世紀半ば以降のG7各国はまあ問題は多いものの、任期が制限されてるせいかそこまで酷い独裁者はいなかっただろ。
だから国家元首としての任期が長い奴を排除していったらどうかな。
たとえば8年を超えたら発狂とか。
それだけで地球の歴史はかなり改善するんじゃねぇか」
「そんなことしたら、みんな『神は実在する!』とか言い出すかもだぞ」
「いや、それ意外にいいアイデアかもしれん。
この任務に限り、別に神界の存在は秘匿する必要も無いんだし」
「まあ、『ワシが神である!』とか『私が神の言葉を預かってます』とか『私におカネを払えばあなたの言葉を神に伝えてあげます』とかヌカす奴が出たら、即ラジオ体操刑だな」
「いわゆる新興宗教でマトモなものはほとんど無いから、それだけで地球史も少しは穏やかなものになるだろう」
「惑星監視用のナノマシンをびっしりと配備して、AIにそのテの宗教詐欺師を見つけさせるか」
「惑星上すべてのヒューマノイドに監視用のナノマシンを注入してもいいな」
「それらナノマシンを統括する中央AIコンピューターの名前は『ビッグブラザー』にしよう!」
「それにしても、なんで地球人類はこんなに野蛮で好戦的なんだ?
俺たちが介入して紛争を鎮圧して来た階梯宇宙の未開世界に比べても、圧倒的に戦争が多いぞ」
「それな」
「その理由は、これから俺たちで研究していこうか」
「まあ、核兵器によるサドンデスなんていう大事件さえ回避できれば、研究の時間的余裕は十分だろう」
「例え第3次世界大戦が300年続いても、他の子宇宙への影響はかなり小さくなってるだろうし」
「いっそのこと俺たちが全ての戦争に介入して、過去すべての戦争指導者にラジオ体操させようか?」
「昭和の小学生が夏休みの朝にラジオ体操に行けなくなるな。
『子供たちが発狂した!』って大騒ぎになるぞ」
「「「 あはははは 」」」
「たださあ、第1世界大戦は相当に悲惨な戦争で1500万人以上も死んだけど、そのおかげでドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国、ロシア帝国っていう最悪の絶対王政が4つも無くなったよな」
「でもドイツとロシアでは王制が打倒されても全体主義国家や共産主義国家になっちまったぞ」
「ソビエト連邦だの中国だのイタリアだの北朝鮮だのカンボジアだのも、ファシズムやコミュニズムに傾倒したし」
「なんで急にそんな新しい概念が流行り始めたんだ?」
「さあ?
『俺が王朝を立てて王になる!』って言うのは古臭いけど、『新しくファシズム国家、コミュニスト国家を作ろう!』っていう方が斬新でカッコいいからじゃね?」
「厨2病かよ!」
「それ銀河連盟大学の地球古代史研究室が論文出してたわ。
その両方とも中央集権組織のトップに権力を集中させやすくって、政敵を死刑にしまくれるかららしいんだ。
滅亡するまでの地球は階梯宇宙最悪と言われるほどの暴虐世界だったんで、研究者も多いんだよ」
「あー、だからそれらの国々じゃあ独裁者が病や反乱で死ぬまでトップ交代が起きなかったのか」
「それでな、そうした国々のトップって、組織作りやその組織の中で出世してトップになって権力を握ることに関しては天才的でも、その後の統治能力は凡人以下だったっていうんだよ」
「レーニンとか毛沢東とか金日成とか典型的だな。
前政権打倒は出来て建国も出来たけど、統治能力はまるで無しって」
「歴史上の征服王朝トップも、戦闘や戦争はヤタラに強いけど統治能力はまるで無かったてぇやつが多いだろ」
「それがまた、そいつの死後に内乱なんかで国が荒れる理由か」
「あのたった13年でギリシャからエジプト、ペルシャからインド西部まで征服したマケドニア(≒21世紀のギリシャ北部地域)のアレキサンダー大王も、32歳であっさり死んだ後には、統治体制や後継者を全く用意して無かったんで征服地域が内乱で大荒れになったな」
「あの地球史上最強の戦争の天才と言われたアレキサンダー大王もか……」
「なあなあ、全然関係ないんだけど、アレキサンダー大王って、アラビア語圏ではイスカンダルって呼ばれてるの知ってる?」
「あの放射能除去装置をくれたイスカンダルかよ!」
「ところで何でまたアレキサンダーがイスカンダルになったんだ?」
「アレキサンダーって、アラブ人がAliksandar と書くべきをsとkを間違えてひっくり返してAliskandar って書くんだけどよ。
その最初の Alをアラブ人が定冠詞だとカン違いしてAl‐iskandar って読んだんだそうだ」
「な、なるほどイスカンダルだ!」
「あの愛と平和の星の名は戦争最強の大征服者の名前から来てたんか……」
「21世紀でもアラブ人はあの征服者の事をイスカンダルって言うそうだ」
「さらに関係ないんだけどさ、アレキサンダー大王がたった5万の軍勢で、宿敵ペルシャのダレイオス3世の軍勢20万を壊滅させた戦いって『ガウガメラ(地名)の戦い』って言うんだぜ」
「うっわー、つ、強そうな名前だなぁ……」
「ガ〇ラにガン飛ばされて『ガウ』とか吼えられたら俺でも涙目になって逃げるな……」
「そんな寡兵で4倍の敵を打ち破った戦争の天才アレキサンダー大王も、統治機構は作れなかったっていうことか……」
「逆に小さな戦争には弱っちいけど、統治能力だけはあったのが徳川家康か」
「それでも260年しか徳川家の支配体制は続かなかったけどよ」
「神君家康公が決めたことは、たとえ将軍でも変えられなかったからな。
だから時代が変わりつつあっても、それに応じた対応が出来なかったわけだ」
「あの江戸時代の武士たちの祖先崇拝はちょっと異様だったからなぁ」
「貧困に苦しんだ旗本も、先祖の供養だけは欠かせずに寺に大金払ってたそうだし。
まあ、今の地位と俸禄があるのはすべてご先祖さまの槍働きのおかげだったから仕方ないんだけどよ」
「だから日本にはあんなに神社仏閣が多いんだな」
「なあなあ、2024年でも日本全国にある寺の数や神社の数は、それぞれコンビニより多かったって知ってた?」
「マジかよ!」
「あれだけ財政赤字に苦しんでた国が、よくそれだけの寺社に法人税免除なんかしてたよな。
あいつらの所得に課税するだけで、赤字国債は半分になってたんじゃね?」
「あー、だから宗教法人が信者の票を使って与党の一角に喰い込んでたのか」
「その『宗教法人非課税』ってさ、元は平安時代の『不輸不入の権』だろ。
それも元々は貴族が自分たちの荘園のために作った法だったけど、それがいつの間にか寺社の荘園にも拡大されるようになったんだよな」
「おかげであの悪名高き一向一揆も頻発してたワケだ」
「やっぱ貴族とかいう権力者は碌でも無ぇな」