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*** 59 制圧訓練 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


 村長がムサシに向き直った。


「それからな、もうひとつ心配事があるんだよ。

 俺たちは30年も前のコシャマインの戦いで和人に負けてから、半ば強制的に和人と交易させられてるだろ。

 まああの交易が無けりゃあ鉄の道具や麻布も手に入らないから仕方がないこともあるんだけど。

 でもカムイさまが鉄の釜とかナイフとかいくらでも貸してくれるようになったし」


「そのうち布地もたっぷり用意してやるぞ」


「それはありがたいぜ。

 だったら和人との交易をこれからどうするのかっていうことなんだ」


「和人との交易はいつどんな風に行っているんだ」


「毎年各地区のアイヌ部族が、秋になると合同で交易隊を作って渡島半島に出向くんだ」


「それなら今年はいつも通り行ってくれ。

 ただ、この寒さで森の恵みが減ったことにして、こちらから出す交易品はいつもの半分でいいぞ。

 また、来年からは和人との交易は俺と俺の使徒が行う。

 それも渡島半島北部の和人商人は無視して、花澤館の蠣崎とだけ行うことにしよう」


「それはありがたい。

 渡島北部の和人商人はどうもすぐ武器を持ち出そうとするんで付き合いたくないんだよ」


「それも和人の国が農業をしていることの弊害だな」


「なるほど。

 だけどさ、俺たち日高メナシクルアイヌはまだ渡島半島から遠いからいいが、渡島北部や内浦のアイヌが気の毒でな。

 日の本から来た和人商人の部落からたびたび強盗まがいの交易を迫られているそうだし、時には若い娘が拐かされそうになることもあるそうで、男たちが護衛していないと碌に海仕事にも出られないそうなんだ」


「お前たちはもっと俺の役に立つ仕事をしたいと言ったよな」


「あ、ああ……」


「ならば俺や俺の使徒と一緒に、まずはここ日高のアイヌに俺が造る村への移住を勧めてくれ。

 それが終わって日高の受け入れ態勢が整ったら、渡島アイヌや内浦アイヌの連中にも俺の村に移住しないかと勧誘して欲しい。

 苫小牧周辺のシュムクルアイヌの地にも同じように村々を造ろう」


「そうか!

 カムチャツカの避難民と同じように、渡島アイヌも内浦アイヌも和人からの避難民として受け入れるのか!」


「ところでお前たちは石狩アイヌの村長と面識はあるのか」


「ああ、たまに交易することもあるから、村長や長老衆の何人かには会ったことはあるぞ」


「ならば石狩アイヌの村長も紹介してくれ。

 あっちは樺太経由で避難して来たシベリアの民を受け入れているんだろ。

 ならばここ日高の地と同じように、俺の使徒たちが村を作り、食料を援助しよう」


「それは連中も喜ぶな。

 でも渡島や石狩の地に行くには、どんなに急いでも6日はかかるぞ」


「それも問題ない。

 俺たちは『転移』という神術が使えるから、どんなに遠い場所へも一瞬で連れて行けるぞ。

 食料もいくらでも運べるしな。

 それに他の地域のアイヌの村長や長老たちが移住を躊躇ったら、俺の使徒たちが転移でこの村に連れて来るのでじっくりこの村を見て貰えばいいだろう。

 もちろん村での生活の仕方は皆で教えてやってくれ」


「避難者なんだからそれは当然だな」


「それから俺たちはこれからカムチャツカ半島の南端に大きな塔を作ってそのてっぺんに明るい灯を灯し、その麓にはここと同じぐらいの規模の臨時避難村を造る。

 そうすればカムチャツカからの避難民を大勢集められるだろう。

 その場所から襟裳岬までは俺たちが船で運ぶからな。

 お前たちは相当に忙しくなるぞ」


 村人たちが微笑んだ。


「はは、望むところだ」


「そうそう、そういえばカムチャツカの連中とは言葉は通じるのか」


「多分大丈夫だ。

 ここにはカムチャツカから来た連中がもう百人ほどもいる。

 彼らが俺たちアイヌの言葉を喋れるから避難民とも会話は出来るだろう。

 それにどうもカムチャツカの言葉とアイヌの言葉は結構似てるらしいんでな」


「そうか」

(さすがは同じ祖先を持つ者同士だな……)


「でもよ、ちょっと心配なのは、そんなに大勢避難民が来ると、中には乱暴な奴もいるかもしれないよな。

 いままで避難して来た連中は家族単位とか少人数だったんで問題なかったけど。

 でも大勢で来た連中が和人みたいに『この地は我らが支配する!』とか言い出したらどうしようか」


「それは問題ないだろう。

 そんな奴らがいても、俺の使徒たちが制圧する」


「だ、だけどよ、何百人もが暴れ始めたらいくら使徒さまでも……」


「はは、そうだな、それじゃあ制圧訓練をしてみようか」


「「「 ??? 」」」


「相撲番付上位50人と俺の使徒1人での模擬戦をしてみよう。

 みんな相撲場に集まってくれ」



 下穿き一枚になった力自慢50人の前に立って微笑んでいるのは女性型アバターだった。


「な、なぁ、本当にいいのか?

 確かにあの使徒さまも強そうだけど、こっちは50人もいるんだぞ」


「問題ない。

 それよりよく見ていてくれ」


(もちろんラジオ体操でいいからな)


(畏まりましたムサシさま)


「それでは模擬戦始めっ!」


 女性型使徒が微笑んだまま手を挙げた。

 その瞬間に50人の力自慢が1メートルほど宙に浮き、ラジオ体操を始めたのである。

(もちろんあの音楽も『背伸びの運動~』という声も聞こえて来ている)


「「「 !!!!!!!!! 」」」


「どうだ、これでもう戦闘不能だろう。

 因みにこの術は相手が何万人いてもかけることが出来るぞ」


「そ、そうか……」


「それからこの妙な踊りは、四半刻ほど続けた後に四半刻の休息を与えるんだけどな。

 その時にまた暴れ始めたり、お前たちを害するような命令を発する奴がいたら、そいつらは全員転移の神術で俺たちが作った牢に転移させる。

 その後は罪に応じて牢に入れている期間が決まるが、反乱の首謀者は最低10年は牢の中だな。

 悪質だと判断すれば死ぬまで牢の中だ」


「そ、そそそ、そうか……」


「これで安心してくれたか」


「ああ、たっぷりとな……」



 日高アイヌの統合は順調に進んだ。

 最初は懐疑的な村長たちもいたが、ムサシの神威溢れるヒールを浴びるとすぐ大人しくなった。

 さらに実際に村や漁の様子を見学し、最初の村で料理を振舞われるとすぐに移住に同意するようだ。

 小氷期による森の幸の減少は、それだけ彼らの生存を脅かしていたのだろう。


 彼らは皆カムイさまの恩恵に縋り、生き延びるために移住を決断したのである……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『武一郎』


『おう!』


『100年ほど過去にアバター1個大隊を派遣して、アイヌに対して脅迫的交易を行ったり暴力を振るおうとしたり婦女子を拐わかそうとした和人の強盗商人共は全員牢に転移させろ。

 それから南方への避難を試みて途中で遭難しかけている樺太やカムチャツカの民がいたら、こっそり助けてやってくれ』


『了解した!』


『武五十二郎』


『はい』


『カムチャツカ半島南端に大きめの灯台と1万人程度収容可能な臨時避難施設を建設し、避難民の世話役としてアバターを派遣してくれ』


『大きめの灯台というのは高さ100㎞ぐらいでいいですか』


『なにもバベルの塔や軌道エレベーターを造るんじゃないからな。

 そんなもん作ったらスーパーオーパーツになっちまうだろうに。

 高さは600メートルぐらいで十分だよ』


『了解しました』

(それでも十分オーパーツだと思うけど……)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 日高アイヌの統合が一段落した。

 この地には元々120ほどの村があり、6万人ほどのアイヌが住んでいたが、彼らはムサシの使徒たちが造った最大キャパ1万人収容可能の村12か所に5000人ずつ移住した。

 このとき、最初にムサシが降臨した村は『日高第1村』と名付けられ、そこから北西方向に行くに従って日高第2村、日高第3村と命名されている。

 第2村から第9村まではカムチャツカからの避難移住者のために空けており、日高アイヌたちは第10村から第22村に移住した。

 もちろん各村にはそれぞれアバターたちが派遣され、料理や入浴、漁労や泥炭レンガの作成などの指導を行っている。

 すぐに教場での勉強や農業指導も始まるだろう。


 それで日高アイヌの生活が落ち着き始めると、ムサシや配下のアバターたちは日高アイヌの村長や長老衆を伴って、渡島アイヌや内浦アイヌへの移住勧誘を始めた。



「なあ村長、そういえばお前たちの村では次の村長をどうやって決めているんだ?」


「そうだな、だいたい相撲が一番強い奴が村長になることが多いが、それだけじゃあなくって村のためによく働いてる奴が選ばれるかな」


「どうやって選ぶんだ」


「村長は季節が5回巡ると交代する仕来りになってるんだが、そのときに先代の村長や先々代の村長、巫女さまやその他の村の有力者や女衆の長老たちも加わってみんなで話し合うんだ」


「そのときに自分の息子を次の村長にしようとするような村長はいないのか」


「ん?

 女衆は誰が自分の子か分かるが、男衆は分からないからなぁ……」


「!!!」


(そうかこいつら多夫多妻制だったか……)





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