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*** 56 漁業改革 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


「どちらのカヌーにも5人ずつ乗っていただけますか。

 あの沖に見える赤い標識の近くまで漕いでいきましょう」


 船尾にはやはり頑丈そうなナイロンロープが繋がれており、その反対側の端は浜にあるボラードに結ばれていた。



「標識の近くに来ましたので、まず2艘のカヌーを近づけて頂けますか。

 そうしたら、片方に乗せてある漁網の端についている黄色いロープをもう一艘のカヌーに渡してマストに結び付けてください。

 もう一本の長い赤いロープは手渡すだけで結構です。

 こちら側のカヌーにある赤いロープも確りと手で持ってくださいね。

 それではカヌーを網の幅だけ離してから、カヌーが流されないように2艘とも錨を海に降ろしましょうか。

 網の向きが浜と垂直になるようにして、ゆっくりとお願いします。

 そうしたら、その赤いロープに結び付けられている網を少しずつ海に沈めていきましょう。

 漁網の端には錘がついているので、ロープを離さないよう気を付けてくださいね」


「あ、そうか!

 こうやってこの『あみ』っていうものを海に沈めておけば、魚がかかるのか!」


「これなら海の中で魚を銛で突かなくても獲れるんだ!」


「これ便利だなぁ」


「赤いロープが沈んでいかなくなりましたね。

 錘が海の底に着いたようですので、赤いロープも後ろのマストに縛り付けてください」


 2艘のカヌーの間には、幅25メートル、縦40メートルほどの漁網が張られていた。


 グン、ググン。


「な、なんかこの『かぬー』っていうもんが揺れてるぞ……」


「それは漁網に魚がかかったからでしょうね」


「きっと大きな魚なんだろうなぁ」


「大きすぎる魚は銛で突いても浜まで持っていけないから、銛漁ではそんなに大きな魚は狙えなかったからな」


「それに大きい魚ほど泳ぐのも速いし」


「錨が海の底に着いたので私たちは1時間ほど休息しましょうか。

 狭いですけどその船室に入って白湯でも飲みましょう」




 そのころ浜辺では。


「皆さんは普段海に潜ってアワビやホタテや昆布を獲っているんですよね。

 沖合までは泳いで行っているんですか?」


「ああ」


「それでは倉庫にあるこの小型カヌーを使ってください」


「これにもさっきの大型カヌーと同じように『あうとりがー』っていうものがついているんだね」


「ええ、これがあればカヌーから海に入ったり海からカヌーに上がるときに、カヌーが転覆しませんので。

 漁場に着いたら、カヌーが流されないようにこのロープの先に付いた錨を海に沈めてください。

 海の深いところから上がって来る時には、この錨の付いたロープを引っ張れば楽ですよ」


「なるほどなぁ」


「それからこちらのゴーグルとフィンも使ってみてください」


「なんだねこれは」


「こんな風にゴーグルを付ければ海の中がはっきり見えるようになりますし、こちらの短いフィンを足に履けばより早く泳げるようになります。

 カヌーの中には海水を入れた水槽もありますので、貝などはそこに入れておけばいいでしょう」


「いろいろ便利な物があるんだな……」


「あと、チャイムの音が聞こえたら、すみませんがいったん浜に戻って来ていただけませんでしょうか」


「わかった」



「うわ!

 この『ごーぐる』っていうのつけると、海の中がものすごくはっきり見えるし、『ふぃん』をつけると倍ぐらい速く泳げるぞ!」


「これで貝や昆布を獲るのが随分楽になるなぁ……」




 1時間後、大型カヌーの上にて。


「それではそろそろ浜に戻りましょうか」


(ふふ、ざっと見たところ200キロ級の本マグロ2尾を含む漁獲は3トン近いですか。

 可食部は50%として、800人に1.5トンの魚肉、米もありますし1人当たり200グラムあればまあ十分ですかね)


 船上の使徒は浜に向かって指笛を吹いた。

 それに対して、

 ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! 

『みなさん、作業を中断して浜に戻ってください』というチャイムの音とアナウンスが聞こえてくる。

 浜の仲間たちが船に結び付けられたロープを引っ張り始めた。


「な、なあ使徒さま、俺たちでこのおーるってぇもんと魯を漕いで浜に戻れないかな」


「試しにやってみていただけますか」


「お、おう……」


「うわっ! ぜんぜん進まねぇ!」


「それだけたくさんの魚がかかっているということでしょうね」


(この場所は日本海流が北海道の地に当たって向きを変える場所ですから、うっかり直進した魚がこんな沿岸まで来てくれたのでしょう)


 300人近くが浜で懸命にロープを引っ張った結果、カヌーは30分ほどで浜辺に到着した。


「みなさん、今度は網に結び付けられている赤と黄色のロープを引いて、あの離れた窪みの中まで網ごと魚を移動させて下さい」


 網の中では陸に上げられた魚がビチビチと撥ね始めた。


「な、なんてデカいマグロなんだ……」


「あんなの凄まじい速さで泳いでるから、絶対に銛でなんか突けないぞ……」


「網漁ってすげぇな」


 網ごと窪みの海水中に入れられた魚たちは少し大人しくなっている。


「な、なあ使徒さん、すぐにこの魚を〆て血抜きをするべきなんだけどよ。

 でもこれだけでけぇと、エラの中に入れた手も魚が暴れたらケガするし、尾で叩かれたりしたら骨も折れちまうぞ……」


「それではみなさん生簀から100歩ほど離れて頂けますか」


「「「 お、おう…… 」」」


 バリバリバリ!


「「「 うわっ! 」」」


 魚が生簀の中で浮き始めた。


「な、なんだったんだい、今のは」


「雷をうんと弱くしたもので魚を気絶させました。

 今のうちにエラの中にこのナイフを入れて魚を〆てください。

 皆さんはいつも小さい魚で同じことをされているでしょう」


「確かに大きさが違うだけか……」


「その後は大きい魚は尾にロープをかけて、生簀から引き揚げて内臓を取って頂けますか。

 取った内臓はこの麻袋に入れて下さい」


「うわ、この『ないふ』っていうもん、すっげぇ切れ味だ……」


「和人と交換する小刀とはえらい違いだな」


「それにしてもでけぇ魚ばっかりだ……」


「こんな大きな魚は初めて見るよ……」


「あそうか、『あみ』の隙間が大きいから、小さい魚はすり抜けるのか!」


「ちょっともったいないな」


「魚というものは年々大きくなり、また大きくなるほど美味しくなることが多いのです。

 ですから網をすり抜けられた小さな魚も、これから成長するにつれてたくさん子孫を残しながら大きくなっていくことでしょう。

 そうして大きくなった魚を食べていれば、魚がいなくなってしまうこともありません」


「なるほどなぁ」


「まあ秋のサンマの季節になったら、目の細かい網でのサンマ漁もしましょうか」



 網漁での漁獲は200キロ級の本マグロ2尾、100キロ級のカツオ8尾、その他70キロから80キロ級の鮭や鰊や鱈も大量に獲れている。


「さてみなさん、内臓の処理が終わった魚は、開いた腹を上にしてこのトロ箱に入れて頂けますか」


「なあ使徒さん、今晩も握り飯や『とんじる』を食べさせてもらえるのかな」


「豚汁ではなく鍋になると思いますが、もちろん夕食は出ますよ」


「だったらこの魚はちと多すぎるかもだ。

 腐らせるわけにもいかねぇから、半分はこのまま生簀に残しておいたらどうだろう」


「あの小屋の中の倉庫に入れておけば、どんな食べ物も腐らないんですよ。

 ですから今日食べない分も〆て内臓を処理した後、倉庫に入れておきましょう」


「そ、そんなすげぇ倉庫があるんか……」


「ええ、なにしろカムイさまの倉庫ですから」


「さすがはカムイさまだのう……」


「それでは今日食べる分の魚を入れたトロ箱をあちらの小型リヤカーに乗せて、小屋の中の製氷機から氷を持って来て中に詰めてください」


「冬でもないのに氷が作れるのか……」



 さすがは漁に慣れた民たちはまもなく魚の処理を終えた。

 50人ほどがリヤカーを引いて、今日の大成果を村に曳いていく。


(実は浜辺の食糧庫と村の食糧庫は重層次元内で繋がっているため、浜の食料庫に入れた物は村の食料庫でも取り出せるのだが、最初の大成果だけは自分たちで持ち帰らせてあげようとする配慮だった)


 残りの村人は皆貝や昆布の採取に戻った。



「まだ日も高いですから、我々は蟹でも獲りに行きましょうか」


「蟹って……

 あいつらはものすごく深いところにいるぞ」


「だから俺たちが素潜りで獲れる蟹は、餌場争いで負けて浅いところに追いやられた小さい蟹だけだし、それも年に5杯も獲れればいい方だが」


「そのための籠漁ですよ。

 先ほど網漁をした場所よりももう少し沖合に行って錨を降ろしましょう」




「それでは籠に魚の内臓が入った麻袋を乗せて、袋口を縛ってある紐をほどいていただけますか。

 そうしたら籠のロープを乗せたクレーンを外側に動かし、その後はそのハンドルをゆっくり廻して籠を海に降ろしていきましょう。

 籠が海底に届いたら、また30分ほど待ちます」


 2隻の大型カヌーから2つずつ、計4つの金属籠が海に沈められていった。


 30分後、海の仕事衆はハンドルを廻して籠を引き上げ始めた。

 そうして籠が水面上に出てくると……


「な、なんだこのバカでかい蟹は!」


「こ、これ甲羅の幅が一尺以上あんぞ!」


「それが籠一つに5杯も……」


「それではまずこの皮の手袋をつけてください。

 そうしたら蟹を押さえて目と目の間にナイフを入れて、まず蟹を〆てからそちらの箱に仕舞いましょう。

 エサもまだ少し残っているようですので、もう1回漁をしましょうか」


 こうして村人たちは40杯近くもの巨大タラバ蟹を手に入れたのである。


 海衆たちは、その日の大戦果を持って笑顔で村に引き上げて行った。


(事前調査で蟹の生息数を調べたところ、この日高沖だけでタラバもズワイも億の単位でいましたからね。

 生息域が深すぎて何万年も蟹漁をしていないとこうなるのでしょう。

 これなら北海道の人口が100倍になっても、みんな蟹を食べられそうです)





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