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*** 55 漁法 ***



この物語はフィクションです。

登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。

また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。




 


 翌朝。


「みなさんよく眠れましたか」


「柔らかくて暖かい寝床だったんでとってもよく眠れたよ」


「火も焚いてないのにあんなに暖かいなんて……」


「あれなら真冬でも快適に過ごせるだろう」


「カムイさまのお力は本当にすごいのう……」



「ところで皆さんは朝歯を磨いていますか」


「ああ、顔を洗ってから指に塩をつけて磨いているな」


「まず顔を洗う場所ですが、風呂の隣にある洗濯場ではお湯が出ますのでそちらで洗われるといいでしょう。

 それから歯磨きなのですが、出来たら塩は使わないで頂きたいのです」


「それはなんでなんだい?」


「ヒトは塩が無ければ死んでしまいますが、塩を取り過ぎても寿命が短くなってしまうんですよ」


「「「 えっ! 」」」


「そして、塩で歯を磨くと、たとえその塩を後で全部洗い流しても、塩が口の中にある間に体に吸収されてしまうんです。

 ですから、知らず知らずのうちに塩の採り過ぎになってしまいます」


「そうだったのかい……」


「ですからこちらの歯ブラシを差し上げますので、一人一本ずつ使ってください」


「これは……

 歯と歯の間も綺麗に出来そうだねぇ……」


「それではこれから診療所の見学に行きましょうか」



「こちらが診療所です。

 ここには私たち使徒の仲間が昼も夜も交代で駐在していますので、具合が悪くなったらいつでもいらしてくださいね。

 使徒は私たちと同じような作業服を着ていますのですぐに分かると思います。

 今は皆さんはムサシさまの神術によって健やかな体になっていますが、また具合が悪くなったらいつでもどうぞ」


「ほ、本当に夜でも構わないのかい?

 子供は突然熱を出すことがあるからねえ」


「もちろん構いませんよ。

 ここはそのための施設ですから。

 それからみなさん、子を生むときには必ずこの診療所で生むようにしてください。

 生み月になる前から実際に子が生まれるまで、何日泊って頂いても結構です」


「あ、あの……

 ここで子を生めば母親も子供も死なずに済むのかい?」


「はい、如何なる難産でもムサシさまの神術によって子は無事に生まれるでしょう」


「と、ということは、もう母親も子も出産で死なずに済むのかい!」


「生まれる直前まで生きていれば、母親も子もけっして死にません」


「うっ、ううううっ……

 それは本当にありがたい話だ。

 つい昨日まで元気だった若い仲間が出産で死ぬことほど辛いことは無かったからねぇ……」


「それに生まれたお子さんも、怪我で即死しない限り必ず生き延びることが出来ますよ」


「ありがたやありがたや……」


(乳幼児突然死症候群(SIDS)も、階梯宇宙の医学力で完全に防止することが出来るようになっていますからね)




「それではこれからお料理教室を始めます。

 まずはお米の炊き方からですね。

 最初にこちらの玄米と白米を見て下さい。

 実ったお米からもみ殻だけを取り除いたものがこの玄米です」


「なんか粉っぽいものがついてるんだね」


「これが糠です。

 その糠と胚乳を取り除くことを精米といい、精米されたものがこちらの白米です。

 実はこの玄米は『完全食』と言われるほど栄養が豊富なんですが、残念ながら玄米をそのまま炊いてもそれほど美味しくはないんですよ。

 ですから普通は精米して糠と胚乳を取り除いた白米を炊いて食べるんですが、せっかくの栄養を捨ててしまうのはもったいないですからね。

 そこでその胚乳と糠に砂糖と少量の塩を加えて鍋で温め、お団子にしたものがこちらです。

 どうぞ食べてみてください」


「た、たしかに粉っぽいし口の中でもそもそしてるけど……

 でも味がついてて美味しい」


「これ、なんの味だろう?」


「あー、これ夏の終わりに山に実る熟した野苺の味に似てるな」


「あのエグ芋の味にも似てるぞ。

 これはぜんぜんエグくないけど」


「それは『甘い』という味ですね」


「『甘い』かぁ、不思議な味だ……」


「いかがですか、食べられそうですか?」


「うーん、もう少し甘いと嬉しいような……」


「それでは次からは甘みをもっと増やしてみましょうか。

 それに明日のおやつにはもっと甘くて美味しいものを出しましょうね」




「この丸くて薄茶色のものはなんだい?」


「これはパンというもので、主に麦の粉から出来ています」


「麦は粥にするだけじゃあなくってこんな食べ物にも出来るんだね」


「あ、美味しい!」


「外側はパリパリしてるけど、内側はすっごく柔らかくって旨いなぁ」


「『やさいすーぷ』と一緒に食べるとさらに旨いぞ!」



「みなさんだいたい食べ終わりましたか」


「あの、『おかわり』してもいいかね」


「もちろん構いませんが、今日は甘いパンもあるのでそちらを食べてみていただけますか」


「これは……

 見た目は少し平べったいけど、さっきのパンに似てるな」


「まあ食べてみてくださいな」


「うおっ! 中になんか赤い物が入ってるっ!」


「これはジャムパンというものです」


「これ美味いなぁ……

 初めて食べる味だ」


「なんか嬉しくなってくる味だな」


「それが『甘い』という味ですね。

 甘いものは人を幸せな気分にさせると言われているんですよ」


「お母ちゃん! これおいちい!」


「よかったねぇ。

 カムイさまに感謝しながら食べるんだよ」


「うん! かむいしゃまあいがとう!」




 翌朝、村の門には300人ほどの村人たちが集まっていた。

 主に海での漁労を担当する人たちで、アザラシ人族やアシカ人族などの海棲哺乳類系の種族が多いが、白熊人族やヒト族、ゴブリン族などもいる。


「な、なんだこれは……」


「ひょっとして道か?」


 それは斜面に沿って等高のまま続く幅員10メートル近い道だった。

 村を起点に北西方向と南東方向にも延々と続いており、川があるところでは頑丈そうな橋も架かっている。


「これは村々を繋ぐ道路ですね。

 最初にこうして道を造っておけば村と村の行き来も楽でしょうし、泥炭を取りに行くのにも便利でしょう」


「はぁ、カムイさまって本当にすげぇな……」


「だけど、岬の方向にも道は続いてるよな。

 あっちにも村を作ったのか?」


「岬への道は、船着き場への道と泥炭採掘場への道を兼ねたものです」


「なるほど」


「それではそこの倉庫の中から小型のリヤカーを10台ほど出していただけますか。

 獲れた魚はこのリヤカーに乗せて村まで運びましょう」



 同じような道は浜にまでも続いていた。


「な、なんか浜の形も変わってないか?」


「岩の凹凸を均して砂浜を多くしておきました。

 その方が漁や作業もしやすいでしょうから。

 ところで皆さんは地揺れの後に大波が来ることがあるのをご存じですよね」


「ああ、子供の頃大きな地揺れのあとに、とんでもなく大きな波が来たことがあったよ。

 あのときは長老に言われてみんな必死になって村まで駆け上がったんだ」


「あの大波は津波と呼ばれるものなんですが、実は遥かに離れた場所で大きな地揺れが起きた時にも、この地に津波が届くことがあるんです」


「そ、それってカムチャツカとかで起きた地揺れでもかい?」


「その何倍も遠いところで起きた地揺れでも津波が来ることがあります」


「それは怖いねぇ……」


「それに海に潜っているときには地揺れに気づかないこともあるし」


「ですので、津波が来るときには鐘を鳴らしますので、みなさん村や海岸のドームに避難してください。

 津波が来るまで時間があるときには、このようにゆっくりと鳴らします」


 カーン!  カーン!  カーン!

『あと30分ほどで津波が来ます。

 村か海岸のドームに避難してください』


(作者註:古代日本の尺貫法は非常に面倒なため、これより21世紀の単位を使用して表現することにさせていただく)



「もし津波まで時間が無い時にはこのように激しく鳴らします」


 カンカンカンカンカンカン!

『まもなく津波が来ます。

 すぐに海岸のドームに避難してください!』


「もちろん海の中でも鳴らしますので、この鐘の音や声が聞こえたら、何もかも放り捨てて浜に逃げ、あちらにあるドームの中に避難してくださいね。

 あのドームはどんなに大きな津波が来ても決して潰れませんので。

 また、津波が来た時でも沖合に出ている船の上なら却って安全なこともあるんです。

 ですから船に乗っている方々は、時間をかけて浜に戻るより、そのまま沖合にいた方がいいでしょうね」


「はー、それなら安心だねぇ……」


「また、このようなチャイムの音や声が聞こえたら、作業を中断して一旦浜に戻って来て頂けますでしょうか」


 ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン! 

『みなさん、作業を中断して浜に戻ってください』


「この『ちゃいむ』ってどんなときのための音なんだい?」


「これは網で漁をした後に、船を浜まで戻す仕事を始めるときの合図の音なんです」


「『あみ』ってなにかな」


「これから説明しましょう。

 まずは倉庫から大型カヌーを2艘出しましょうか」


「こ、この舟すげぇ……」


「なんて大きな舟なんだ。

 しかも軽い……」


「こ、これ、木で出来た船じゃないよな」


「それはFRPというもので出来ている船ですね。

 軽いけど頑丈ですよ」


 それは長さ10メートル、幅1.5メートルほどの大型カヌーだった。

 そのカヌーには丈夫な横棒でアウトリガーもついており、オール4本と魯の他に一方のカヌーには大きな網も積まれている。

 また、前の方と後ろの方には2メートルほどの頑丈そうなマストが立っていて、そのマストの上部にはクレーンのようなアームと、ナイロンロープに繋がれた直径3メートルほどの金属製の籠も置いてあった。


「そうか!

 この細い船みたいな棒が付いているから船がひっくり返らないのか!」


「その通りです。

 その分抵抗が大きくて長い航海には向きませんが、沿岸で網漁をするには十分でしょう。

 そちらのカヌーに積んである網を海の中に沈めて魚を獲る漁ですね」


「なるほどなぁ」


「それでは皆さんで船を海まで運んでください」





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