*** 5 銀河系第28象限神界支部 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
2日後、銀河系第28象限神界支部にて。
「よう、使徒のムサシだ。
ブヒーラ・ポークとかいう初級天使から出頭するように言われたんだが」
「お待ちしておりました。
それではブリーフィングルームにご案内します」
(なんだよこの部屋……
だだっ広いスペースの奥に3段の階と台座があって、そこにヤタラにデカイ金ぴかの椅子があるだけかよ。
これじゃあブリーフィングルームじゃなくって謁見の間だろうに。
しかもまだ誰もいねぇじゃねぇか。
エラい奴は下っ端を待たせておいて後から部屋に入るっていうこったな……)
ムサシは階に正対する位置に同じく3段の階と台座、大きな椅子を出した。
サイドテーブルの上にインベントリからビッグマ〇クセットを取り出す。
(あーやっぱ美味いぜ。
50年もかけてこの味を復元した甲斐があったな。
だがちょっと量が足りねぇか……)
その場にトンコツラーメンが出て来た。
ムサシはそれも美味そうに食べている。
そのとき階の上の袖口から1人の豚人族が入って来た。
その体形はあくまで丸く、手足も短いために躓いたら転がって行きそうである。
豚人は謁見室に籠るトンコツラーメンの匂いを嗅ぎ、ムサシの姿を見て目を剥いた。
「な、何をしとるかキサマぁぁぁっ!」
「何って、昼飯喰ってるんだけど?」
「そ、その椅子と台座はどこから持って来たぁぁぁっ!」
「これは俺の私物だが?」
「下賤なヒューマノイド使徒は、上司である高貴な天使族の到着を、階の下で跪いて待つのが常識だろうにっ!」
「そんな常識があるのはあんたのアタマの中だけだな。
知ったこっちゃねぇよ」
「な、なんだとぉぉぉっ!」
「なんだあんたハラ減ってるのか?
それでそんなに怒りっぽくなってるんだろう」
「うぎぎぎぎ……」
「このラーメン美味いぞ、喰うか?
あ、でもこれトンコツラーメンだから共食いになっちまうな、あはははは」
「うがぁぁぁ―――っ!」
「それよりあんた大丈夫か?
身長150センチで体重150キロ、ついでに腹回りも150センチとかあるんだろ。
それでレベル3しかなくって、今までよく生きてこれたなぁ」
「下賤なるヒューマノイド出身の使徒の分際で、天使族であるわしを勝手に『鑑定』するなぁっ!」
「いや直接鑑定したわけじゃあねぇぞ。
初めて会う担当官のこたぁ事前に調べるのは常識だろ?」
「な、ならばなぜ貴様はわしの『鑑定』をレジストしておるのだぁっ!」
「あーそれ違うな。
俺は特にレジストしてるわけじゃねぇんだ。
単にあんたのレベルがたった3しか無ぇから、遥かに高レベルな俺を鑑定出来ないだけだな」
「なんだとこの野郎っ!」
「それによ、いくら能無しで2万年も天使見習いを続けされられて、ようやく初級天使にしてもらえたとしてもだ。
使徒相手のマトモな口の利き方ぐれぇは勉強した方がいいぞぉ」
「警備員っ!
こやつを逮捕拘束しろっ」
謁見室に声が聞こえて来た。
『それは出来かねます』
「なぜだぁっ!」
『たとえ神や天使と雖も、現行犯以外では神界裁判所の逮捕令状無しでは他者を逮捕拘束できないからです』
「お前も聞いていただろう!
この下賤なるヒューマノイドは、高貴な天使族たるわしに不敬を働いたのだぞ!」
『あの、神界基本法では不敬を理由に逮捕拘束することは厳重に禁止されておりますが』
「な、ならば侮辱罪だぁっ!」
『あなたはこの使徒を『下賤なるヒューマノイド』と呼びました。
この者は確かにあなたを『能無し』と言いましたが、あなたの物言いは神界法が禁じる種族差別に当たりますので、この者を逮捕拘束するならばあなたも逮捕拘束しなければなりません。
よろしいのですか?』
「ぐぎぎぎぎぎ……
もういいっ! 消えろっ!」
『次に警備員をお呼びいただくときは、もう少しまともな理由でお呼びください』
「ぬががががが…」
初級天使はふーふー言いながら歩き、玉座によじ登って座った。
「おーい、ブヒーラ・ポークさんよぉ。
ところでわざわざ俺を呼び出したのは、俺を下賤なるヒューマノイドって呼ぶためだったのかぁ?
だったらもう目的は果たしたろうから、俺は帰ぇるぞ」
「ま、ままま、待てっ!
貴様の銀行口座には10億クレジット(≒1000億円)もの資金が入っているだろう!
貴様のような者が何故にそのような巨額のカネを手に出来たのか釈明しろっ!」
「ヤだね」
「なっ!」
「そんな個人情報を明かすわけねぇだろうに」
「なんだと!
貴様、担当管理官であるわしの命令が聞けんというのか!」
「だから聞けねえって言ってんだろうが。
お前ぇ耳悪いんかぁ?」
「なななな……」
「あのなぁ、あんたは上の命令にはヘーコラしながらすべて従い、下だと思ってる奴には威張り散らして生きて来たんだろうがよ。
だが、任務や職務以外じゃあ命令できることには限りがあるって知ってた方がいいぞぉ」
「貴様には公金横領の嫌疑がかかっているっ!
速やかにこの支部にカネを返せっ!」
「証拠はあんのか?」
「あれほどのカネを貴様ごとき下賤の使徒が、横領以外で得られるはずは無いっ!」
「なあ、あんたそんなにビンボーなんか?
10億クレジット(≒1000億円)程度のハシタ金、すぐに稼げるだろうによ」
「な、なんだと!
ならばどうやって稼いだのか吐けっ!」
「ヤだね
それぐれぇ自分で考えろや」
「ぬががががが……
それでは問うが、貴様、前回の任務で現地ヒューマノイド3名に暴行を加えたろう!
おかげで彼らの群れでは後継者争いが起きて、ヒューマノイドが50名も亡くなり、罪業ポイントが50ポイントも発生しただろうに!
申し訳ないとは思わんのか!」
「あははは、『下賤なる』ヒューマノイドが死んだのが、そんなに可哀そうだっていうんか?」
「こ、このままだと暴行傷害の咎で貴様を懲戒免職処分にするぞ!
も、もし横領したカネを返せばあのカルマポイントには目を瞑ってやる!」
(はは、これで言質は取ったから、ミヌエットの依頼も達成だな)
「いやー、懲戒免職ありがとう!」
「なっ!」
「一生遊んで暮らせるだけのカネは貯めてあるから、これからはのんびり暮らすわ♪」
「ななななな……」
「そうそう、ひとついいこと教えてやんよ」
「こ、口座の暗証キーか!」
「違ぇよ。
お前ぇ、その子供みてぇな身長を少しでも大きく見せようとしてデケぇ椅子に座ってんだろ」
「!!!」
「でもな、ものには限度ってぇもんがあるんだよ。
その椅子、身長2メートルの俺が座ってもようやく床に足がつくぐれぇだろう。
お前ぇみてぇな奴が大きすぎる椅子に座って足が床に届いてないと、それこそ子供みてぇでギャグになっちまうからヤメた方がいいぞぉ」
「!!!!!!!」