*** 49 訓練映像 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
抗議に訪れている神々のヒートアップは続いていた。
「使徒学校の責任者に対しては、賠償金を支払わせるだけでは手緩いっ!」
「そうだそうだ!
牢に送って猛省を促すべきだ!」
「それでは皆さま、使徒学校の責任者に対する刑事罰は、如何にすべきかご回答をお願いいたします」
「ふむ、神格剥奪の上終身刑を求刑される方が70%、同じく神格剥奪の上、禁固1000万年以上を求刑される方が20%、そして死刑制度を創設して死刑にすべきだという方が10%ですか」
((( そうか! 死刑にしてやろうと思えば可能だったか! )))
((( さすればあ奴の莫大な財産は神界の神全体で分配、い、いやここにいる神だけで分け合うことも可能になるだろう! )))
「おや、神格剥奪刑や禁固刑を撤回して、死刑にすべきとされる方が急増していますね。
そうですか、98%の方が死刑にすべきとお考えですか」
「いや、それだけでは気が済まん!
士官学校の責任者をここに連れて来て、全員の前で謝罪の上、地に頭をつけて詫びさせろっ!」
((( それはさぞかし気分が晴れるだろうの! )))
「「「 そうだそうだ! ここに連れて来て詫びさせろっ! 」」」
「少々お待ちくださいませ。
ただいま最高神政務庁から連絡がございました。
使徒士官学校の学校長がただいまこちらに向かっております」
「「「 おおっ! 」」」
「ですが1時間ほどの時間がかかるそうなので、その間お待ちいただけますでしょうか?」
((( という事は、あの5万年前に滅んだという地球とやらから呼び寄せているのか )))
「もちろん構わんぞ!」
「わしも構わん!」
「「「 わしもわしも! 」」」
「それではその間、使徒士官学校での103年間の訓練風景をAIにまとめさせた映像がございますので、ご希望される方はAIに念話でご指示くださいませ」
((( その訓練風景とやらを見ておけば、士官学校の最高責任者とかホザいているあの下賤な若造をさらに罵倒出来るだろう! )))
「それでは使徒士官学校の最高責任者が到着するまで、いましばらくお待ちくださいませ」
使徒士官学校の紹介映像が神々の脳内に直接送り込まれ始めた。
神々は思わず口をついて出て来るイチャモンを垂れ流しながらこれを見ている。
ときおり、AIのナレーションも入っているようだ。
「なっ! 禁止薬物検査だとぉっ!」
「高位の神の子弟に雷撃を落としているだとっ!」
「な、なぜ護衛も侍女も侍従も同伴出来んのだっ!」
「私物や酒までも没収だとっ!」
「たかがアバター風情が頭に乗りおってっ!」
「なんだと! 神殿ではなくこのようなみすぼらしい部屋で暮らせと申すかっ!」
「しかも12人部屋だとっ!」
「一人部屋はテントだと申すかっ!」
「神の子弟を相手になんという無礼な待遇だぁっ!」
「罰としてトイレの無い部屋だとぉっ!」
「さ、酒を飲まないだけであのようになってしまうのか……」
ほとんどの神々が、ここまで1時間近く酒を飲んでいないので手が震え始めているが、間もなく呼び出されるあの下賤者ムサシを罵倒するために、どうやら精一杯の知能を振り絞って罵倒内容を記憶しようとしているようだ。
(もちろん薬物とアルコールで破壊しつくされた脳細胞では、覚えたと思った途端に記憶は失われていくのだが……)
「高貴な神の子弟を無理矢理走らせるとはっ!」
「それも尻を火で焙ってまでっ!」
「なっ! 神力枯渇訓練だとっ!」
「「「 うっ、ゲロゲロゲロゲロ…… 」」」
中には貰いゲロを始めた神々もいる。
「こ、高貴な神々の子弟にここまでの訓練をさせるのか!」
「な、なぜ秘匿している『神力レベルを容易に上げる方法』を教えないのだ!」
「は、80万年間で2億回の神力枯渇訓練だとぉっ!」
「ふん、わしはとっくに大金を払って『神力レベルを容易に上げる方法』を入手しておるぞ!」
「ま、まさか本当に『神力レベルを容易に上げる方法』など無いとでも言うのか!」
「そ、それではわしが大金を払って買ったあの『神力レベルを容易に上げる薬剤』はなんだったと言うのだ!」
「神々の子弟に戦闘訓練だとぉっ!」
「何故そのようなことをさせるのだっ!」
教官補佐と士官候補生の会話が聞こえて来た。
『あ、あの教官補佐殿!』
『なんだ』
『わ、わたしは上級神家一族の者で、わたし自身は初級神です!
そのわたしがなぜヒューマノイドの戦争などに参加しなければならないのでしょうか!』
『ここが『使徒士官学校』であるからだ。
いいか、使徒の実際の任務は大別して2つある。
自然災害によって困窮した民の救済と、紛争の調停もしくは強制停止だ。
よって実際の戦争体験は不可欠の教練過程となる』
『き、教官殿、わたしは初級神ですので将来使徒になる気はまったく無いのですが……』
『キサマの卒業後の行動は、この士官学校の教練内容と全く関係無い。
もしこの教練が不満なら、なぜ入学申請書にサインなどしたのだ』
『そ、それは……
家長である上級神さまにこの学校に入学して神力レベルを600にまで上げるよう命じられたからだけであって……』
『キサマの一族の上級神の思惑にこの士官学校の訓練計画が影響されることも無い』
『そ、そんな……
じ、上級神さまのご命令ですぞ!』
『本学の建学を要請されたのは最高神さまであり、その訓練内容を決定されたのは特別上級神であらせられるムサシさまだ。
たかが上級神ごときの思惑など考慮する必要は無いな』
『!!!!』
「な、なんだと!」
「高貴な上級神を蔑ろにするにもほどがあるっ!」
「ますますもってこの使徒士官学校の責任者は許せんっ!」
「ふむ、ヒューマノイドの闘争に参加するのは知覚の完全接続をしたアバターなのか。
ならば士官候補生は決して死なぬのだな。
それではなぜあの者たちはあれほどまでに狂ってしまったのだろうか?」
だが、脳内に送り込まれて来る映像が殺人や殺戮シーンになって来ると。
「「「 おええええええ―――っ! 」」」
「「「 ゲロゲロゲロゲロゲロゲロ―――っ! 」」」
もちろんこの場にいる神々も、生まれてこの方数百万年から数千万年もの間、神界の持つ個人防衛神術機能によって事故や過失で怪我をしたことなど一度も無かった。
血を見たことが有る者すら一人もいなかったのである。
さらにこの使徒士官学校訓練映像は脳内転送によって送り込まれて来ているために、目を瞑ろうが何をしようが映像は止まらないのだ。
辛うじて数名の神がAIに映像停止を命じたが、何故かAIは沈黙したままであり脳内映像も止まらなかった。
そのAIからナレーションが入った。
「それでは皆さま、せっかくの機会でございますので士官候補生が体験した感覚をご共有くださいませ」
神々の脳内に密かに送り込まれていたナノマシンから、脳の感覚野に士官候補生の経験した感覚が送り込まれた。
すなわち『他人を殺害した感覚』と『他人に殺害された感覚』である。
「「「 !!!!!!!!!!!! 」」」
そう、彼らは知覚してしまったのだ。
自分が殺害しようとした相手の怯えた目。
自分を殺害しようとする相手の闘争本能に溢れた目。
自分が槍を突き入れた際の、相手の肉や骨を断ち切っていく感触と噴き出る敵の血。
自分の体に突き入れられた槍が肉も骨も断ち切って進んでいく感触と噴き出る自分の血。
相手の断末魔の痙攣。
自分の断末魔の痙攣。
殺人どころか闘争の経験も無かった神たちは、全員が上から下から体内よりあらゆるモノを噴き出しながら昏倒した。
彼らは何故あの若者たちが発狂してしまったのかを心の底から理解してしまったのである。
大講堂内には凄まじい悪臭が充満していた。
(司会進行役の中級神は、自らの周囲に遮蔽フィールドを張って悪臭被害から逃れている)
『グランドクリーン』『グランドヒール』
壇上の中級神がAIに命じて強力な神道具を発動させた。
「「「 う、ううううう…… 」」」
大講堂の神たちはようやく意識を取り戻したものの、すっかり毒気を抜かれて呆然としている。
「みなさまお待たせいたしました。
使徒士官学校の学校長が到着いたしましたので、皆さまにご紹介申し上げます」
壇上中央に最高神閣下が現れた。
その斜め後方には首席補佐官閣下が、さらにその後方にも中年の神が一人現れている。
すぐに重厚だが華美ではない椅子が3脚現れ、3人が着席した。
「こ、これはこれは最高神閣下ではありませんか!
閣下にもあのけしからぬ若造を糾弾するこの場にお越しいただけるとは!」
相変わらず険しい表情の首席補佐官が口を開いた。
「なにを勘違いしておるか」
「「「 ??? 」」」
「そなたらは使徒士官学校の最高責任者の糾弾を欲し、ここに出頭するよう要請したであろうに。
その最高責任者である士官学校の校長こそ、こちらの最高神さまである」
「「「 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」」」




