*** 47 苦情・糾弾受付会 ***
この物語はフィクションです。
登場人物、国家、団体、制度などが実在のものと似ていたとしても、それは偶然です。
また物語内の記述が事実と違っていたとしても、それはフィクションだからです。
それにしても、どうして神や天使たちは自ら努力することなく、このようにカネに頼った解決方法を選んでしまったのだろうか。
その第1の原因は、やはり『高貴な身には努力など相応しくない』という思い込みと、それを肯定する風潮だと思われる。
学習にせよ神力アップにせよ使徒としての努力にせよ、その努力は苦しい割に得られる成果は目立ったものではない。
何年も何十年も何百年も苦しい努力を続けてようやく成果が見えて来るものである。
その苦しい努力を放棄する最高のイイワケが、『高貴な身には努力など相応しくない』という思想だったのだろう。
それがさらに、『自分は努力をしていないが故に高貴なのである!』という方向にまで歪み始めているようだが。
やはり莫迦は100万人集まっても莫迦のままだったのである……
また、詐欺口座にカネを送金していた神や天使たちは、詐欺と明らかになるまでは相当に安堵していた。
『カネはかかったが、これで我が子孫たちは無事に階級を上げて行くことだろう!』
『ゆくゆくは神力レベル600に至らせて、我が一族は大金持ちになり他の上級神家を圧倒するのだ!』
『それを考えればこの程度の支出は取るに足らん!』
などと喜んでいたそうだ……
そして、詐欺犯にカネを振り込んだものの、未だそれが詐欺だったと気づいていない神たちの内、何人かが思いついてしまったのである。
「そうか、あの下賤者が作った使徒士官学校とやらに我が子孫を入学させていたが、神力レベル上げの薬も届いたことだし、もうあのような学校での訓練は不要であるな」
「ふん、下賤者の下賤さがうつる前に退学させるとしよう」
こうして(よせばいいのに)100人ほどの上級神が、使徒士官学校の窓口のある最高神政務庁に自身の係累たちの退学届けを出してしまったのである。
ほどなくして100人の神族である元士官候補生が神界中央神殿に送り返されてきた。
だが……
「「「 な、なんだこれは…… 」」」
そう、士官学校内精神科病棟に入院中だった元候補生たちは、拘束衣を着せられ、口枷と目隠しもされた姿で、フロートパレットに乗せられて中央神殿に帰って来たのである。
パレットには患者1人につき高度医療ドローンが1体付き添っており、鎮静剤の血管内転移も継続していた。
「我が息子は何故にこのような扱いを受けているのだぁぁぁっ!」
どうやら上級神たちはほとんど出迎えに来ておらず、迎えを元候補生の親や祖父母に任せていたらしい。
「この元士官候補生は、訓練中に特重度のPTSDを患い、このように拘束して鎮静剤を継続投与しなければ、発作によって自傷、他傷行為を繰り返してしまうからデス」
「な、なんだと!
ええい! すぐに拘束を解けっ!」
「それは推奨出来まセン。
拘束を解くならば、別の医療ドローンに鎮静剤血管内転移を継続させてからにされた方がよろしいでショウ。
このままでは12時間後に鎮静剤の効果が切れて、患者が暴れ始めてしまいマス」
「や、やかましい!
すぐに拘束を解けっ!」
「畏まりまシタ……」
拘束衣、口枷、目隠しを解いた医療ドローンは、元士官候補生引き渡しの確認を得ると、すぐに帰還していった。
どうやら高度な機能を持つ医療ドローンは自己防衛意識も持っているようである。
患者の親族一行は、フロートパレットに患者を乗せたまま神殿に帰っていった。
そして12時間後。
「う、ううう……」
「おお、ようやく気が付いたか。
それにしても酷い目に遭ったようだの。
だが安心しろ、ここはもうお前の自宅である神殿だからな」
この親はよせばいいのに元士官候補生に顔を近づけてしまった。
「うがあああぁぁぁぁ―――っ!」
ドガアッ!
急に起き上がった元候補生の頭が親である中級神の鼻軟骨を粉砕した。
中級神は凄まじい量の鼻血を噴き出しながらその場で昏倒している。
「な、なにをなさいますかおぼっちゃまぁ!」
「うがあぁぁっ! うがあぁぁっ! うがあぁぁっ!」
ドガアッ! ドガアッ! ドガアッ!
「「「 ぎゃあぁぁぁ―――っ! 」」」
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
自分に近づいて来るものは自分を殺そうとしている。
そう思い込んだ元候補生は、止めようとする侍従長や侍従を、狂人特有の莫迦力で殴り倒していったため、神殿付属の秘書AIが非常ベルを鳴らして護衛ドローン8体を出動させた。
「な、何事だぁっ!」
元候補生は、戸口に現れた上級神の顔面にも渾身のストレートをぶちかました。
「ぐわあぁぁぁ―――っ!」
床に倒れている者たちには、神殿の秘書AIが『ヒール』の魔導具を発動させたために命に別状は無いようだが、それでもかなりの衝撃で昏倒したままだった。
そこへ護衛ドローンが集まって来たが、主人である神から攻撃許可が出ていないため、制止することしか出来ないでいる。
元候補生は護衛ドローンも殴り倒し、血塗れの拳のまま逃走を始めた。
最初は庭園の中に隠れていたものの、護衛ドローンに探知されて追い詰められたために、とうとう神殿の敷地内から逃げ出して、神殿の立ち並ぶ街に出てしまったのである。
ドガァッ! 「ぎゃぁっ!」
バキッ! 「ぐわぁっ!」
隣接する神殿の庭園や、街内の美しい遊歩道を散歩していた神たちが次の犠牲者になった。
(幸いにも子供や乳幼児の被害は無かった。
彼らは乳母ドローンや警護ドローンに守られていたからである)
神々からの通報によりついには中央神殿より警備ドローン500体が出動した。
この警備ドローンたちはパラライザーによる攻撃許可を得ていたために、100人の狂人たちはまもなく取り押さえられたが、神界内では数億年ぶりの傷害事件、それも逮捕者100人に達するという、神界始まって以来の大騒ぎになっていたのである。
翌日。
神界中央神殿には2000人を超える神々が集まり、使徒士官学校窓口にて口々に喚き散らしていた。
中には容疑者の属する家の家長である上級神もいる。
(どうやら辛くも難を逃れていたらしい)
「皆さんは昨日使徒士官学校を退学されて神界に帰還された元士官候補生の親族の方々ですネ」
「そうだ! 我が息子をあのような目に遭わせおって!」
「我が孫が神殿内やその外で暴れたせいで、他の神々からの苦情が殺到しておるのだぞっ!」
「士官学校とやらは、この責任をどう取るつもりだぁっ!」
「少々お待ちくださいマセ。
ただいま最高神政務庁に確認しておりマス。
ピー、最高神政務庁よりの指示が届きまシタ。
ただいまより1時間後、中央神殿大講堂に於きまして、使徒士官学校に対する苦情受付会を開催致しますので、恐縮ですがそちらにご参集くださいマセ」
「なんだと!
これは苦情などというものではないっ!
糾弾であるっ!」
「苦情でも糾弾でも構いませんが、どうか受付会の場でご披露下さいマセ」
「ぐぎぎぎぎぎ……」
1時間後、中央神殿大講堂には5000名近い神々が参集していた。
どうやら苦情、糾弾受付会の話を聞いて、さらに大勢の神々が集まって来たようである。
壇上には最高神政務庁の中級神が立っていた。
(彼は首席補佐官直属の部下であり、極めて優秀且つ常に冷静だった)
「それでは皆さま、これより使徒士官学校に対する苦情を受付けさせて頂きます」
5000人もの神々が一斉に叫び始めた。
「恐縮ですが、このままでは苦情内容をまとめることが出来ません。
ご発言を整理するためご提案がございます。
まずは、昨日傷害事件を起こした約100名の元士官学校生の御親族でない方々、及び重大傷害事件の犠牲になられた被害者の親族でない方々は、別室にお移り願えませんでしょうか」
上級神が立ち上がって叫んだ!
「何故だ!」
「何故なら加害者や被害者の御親族でない方々は、苦情であれ糾弾であれ使徒士官学校に対して直接の請求などを行う権利がございません。
ですのでご親族の方々とは自ずと苦情内容が異なって来るからであります」
「な、なんだと!
我らはあのような凶悪事件を起こし、神界を恐怖の底に突き落とした元凶であるあの士官学校とやらの責任を問うためにこうしてわざわざやって来たのだぞ!」
「神界最高裁判所の見解によれば、その責任を問うという行為はそもそも神界司法警察の扱う刑事事件となります。
仮にそれで有罪判決が出て責任が問われて刑事罰の他に罰金が科されたとしても、それは神界に納付されるべきものであり、皆さまに分け与えられるような性質のものではございません」
「な、なに!」
「もしもあのような事件が間近で起こったという精神的苦痛の慰謝料を要求されるのならば、それは神界裁判所に民事訴訟として提訴願えますでしょうか」
「なんだと……」
「これは最高神政務庁からの正式な見解なのですが、容疑者や被害者の親族でない方がこの場に残られて苦情や糾弾を為された場合、使徒師範学校に対する無資格者の賠償請求の疑いで事情聴取の対象になります」
「「「 !!!! 」」」
「後でこの場に残られた方々の中に、容疑者や被害者の親族でない方が発見された場合、後日最高神政務庁からの出頭要請が届きますのでご承知おきください」
「ぐぐぐぐぐ……」
「それでは移動をお願いいたします」




